報酬を受けた警察官が取扱注意文書を流出させた事件について

報道によると、警察官の昇任試験の問題集を作成しているEDU-COMが問題集の作成に協力した警察官に報酬1億円超を支払っていた、しかも警察官の中には取扱注意文書を流出させた者もいるとされています。

ここで問題は、警察官が副業をしたこと、取扱注意文書を流出させたことの2点です。

1点目については、地方公務員法第三十八条が以下のとおり規定しています。

 

職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。

 

ですから、任命権者の許可なしに報酬をもらい、問題集作成に協力していたことは地方公務員法に触れることになります。

2点目については、地方公務員法第三十四条が以下のとおり規定しています。

 

職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。

 

ですから、警察官が流出させた取扱注意文書が「秘密」を含むものとされれば、また地方公務員法違反となります。

この点、国家公務員における守秘義務違反が問題となった「徴税虎の巻事件」について、最高裁昭和52年12月19日判決は、以下のとおり判断を示しています。

 

なお、国家公務員法一〇〇条一項の文言及び趣旨を考慮すると、同条項にいう「秘密」であるためには、国家機関が単にある事項につき形式的に秘扱の指定をしただけでは足りず、右「秘密」とは、非公知の事項であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるものをいうと解すべきところ、原判決の認定事実によれば、本件「営業庶業等所得標準率表」及び「所得業種目別効率表」は、いずれも本件当時いまだ一般に了知されてはおらず、これを公表すると、青色申告を中心とする申告納税制度の健全な発展を阻害し、脱税を誘発するおそれがあるなど税務行政上弊害が生ずるので一般から秘匿されるべきものであるというのであつて、これらが同条項にいわゆる「秘密」にあたるとした原判決の判断は正当である。

 

つまり、形式的に秘密扱いしているだけではなく、秘密として保護に値するものを漏洩して初めて守秘義務違反となります。

この点、今回、警察官らは捜査手法に関する情報を漏洩したということのようです。

捜査手法については、犯罪者から裏をかかれる可能性があるので、秘密にしなければならないという考え方が根強く、実質的にも秘密として扱うに足るものとされる可能性が高いように思います。

しかし、翻って考えてみると、そもそも民主国家においては、捜査という人権と相矛盾する可能性のあるものについてはできる限り透明性を確保すべきであり、捜査手法に問題があれば批判がされるべきという考え方もありえます。ですから、私としてはあまり今回の件について秘密漏洩という面にクローズアップしない方がよいのではないかと思います。

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