親権者の再婚・養子縁組と養育費減免

1 養子縁組と養育費支払義務の消滅

養育費が一旦決められた以上、事情変更などがなければその減免はできません。

この事情変更として典型的なものとしては、未成熟子の養子縁組があります(未成熟子を監護する親の再婚だけでは減免はされないのが原則ですが、例外的に考慮されることもあります)。

これは養子縁組により、養親が基本的に未成熟子の養育責任を負うため、未成熟子のために養育費を支払ってきた実親の養育費支払義務が免除され、あるいは減額されるというものです。

この点、東京高裁平成30年3月19日決定(最高裁平成30年6月28日決定で確定)は以下のとおり述べています。

実母の再婚相手と未成熟子が養子縁組をした場合には,養父となった者は,当該未成熟子の扶養を含めて,その養育を全て引受けたものであるから,実母と養父が,第一次的には,未成熟子に対する生活保持義務を負うこととなり,実父の未成熟子に対する養育費の支払義務はいったん消失するというべきであり,実父は,未成熟子と養父の養子縁組が解消されたり養父が死亡したりするなど養父が客観的に扶養能力を失った場合等に限り,未成熟子を扶養するため養育費を負担すべきものと考えるのが相当である。

このように、養親が未成熟子の養育の義務を基本的に負うものとし、実親の養育費支払義務が消失したと判断しました。

例外的に、実親の養育費支払義務が存続するのは、養親が扶養能力を失った場合とされます。

 

2 養子縁組でも養育費支払義務が消滅しないのはどのような場合か?

上記東京高裁決定でも、養子縁組があっても養育費支払義務がなくならない場合を認めていますが、それはどのような場合でしょうか?

千葉家裁平成29年12月8日決定は、養子縁組をした世帯の収入が最低生活費を下回らない場合には養子縁組により養育費支払義務はなくなるとしています。

他方福岡高裁平成29年9月20日決定は、以下のとおり、生活保護の基準を主要な目安としつつ、それ以外の要素(子どもに人並の学校外教育を受けさせる必要、従来との連続性)も考慮しています。

親権者及びその再婚相手(以下「養親ら」という。)の資力が十分でなく、養親らだけでは子について十分に扶養義務を履行することができないときは、第二次的に非親権者は親権者に対して、その不足分を補う養育費を支払う義務を負うものと解すべきである。そして、何をもって十分に扶養義務を履行することができないとするかは、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけでなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべきである。

福岡高裁決定は、「相手方の学歴、職業、収入等のほか、相手方は離婚後毎月一回程度、東京からE市まで出向いて未成年者らとの面会交流を継続していることなどに鑑みると、相手方には、未成年者らに人並みの学校外教育等を施すことができる程度の水準の生活をさせる意思はあるものと推認することができる。」として学校外教育の費用を考慮すべきとの結論を導いているので、どのようなケースでも学校外教育の費用が考慮されるという趣旨ではないでしょう。

いずれにせよ、養親一家の収入が生活保護の基準を満たすかどうかが主な基準となり、事情によりその他の要素も考慮されるかもしれないということになるでしょう。

3 いつの分から養育費は減免されるのか

通常、養子縁組がなされてから相当期間経過後、養育費減免のための調停等が申し立てられるでしょう。

その場合、養育費は、養子縁組のときと申立のときと、どちらから減免されるでしょうか?

この点、千葉家裁平成29年12月8日決定(東京高裁平成30年3月19日決定でも維持)は、「養育費増減額の変更の始期については,原則として事情変更時に遡及するものの,生じた事由が権利者と義務者いずれの側に生じたものか,変更事由についての反対当事者の認識の有無,当該変更事由の内容や性質,遡及期間の養育費の支払状況,権利者側の生活保持状況および遡及期間内の他の新たな変更事由の有無等を総合して,公平の観点から遡及効を制限すべき場合が存するものと解する。」として、原則として養子縁組があったときに遡って減免されるとしており、注目されます。同決定は、東京高裁、最高裁でも維持されています。

それでは例外的に養子縁組時より後から養育費減免がされるべき場合はどのような場合でしょうか?

この点、東京高裁令和2年3月4日決定は、「義務者は、権利者の再婚や未成年者らの養子縁組の可能性を認識しながら、養子縁組につき調査、確認をし、より早期に養育費支払義務の免除を求める調停や審判の申立てを行うこともなく、3年以上にもわたって720万円にも上る養育費を支払い続けたわけであるから、本件においては、むしろ義務者は、養子縁組の成立時期等について重きを置いていたわけではなく、実際に本件調停を申し立てるまでは、未成年者らの福祉の充実の観点から合意した養育費を支払い続けたものと評価することも可能といえる」として、養育費減免調停も申し立て時から養育費支払義務がなかったものとなるとしました。

このように、養子縁組の可能性を認識しえたのに、長期間多額の養育費を払ってきたような場合、調停申し立て時からの養育費減免となる可能性があります。

4 新潟で養育費、離婚のお悩みは弁護士齋藤裕にご相談ください

離婚全般についての記事

離婚時慰謝料

財産分与

不倫

子どもの連れ去り・引き渡し

養育費

面会交流

婚姻費用

親権

もご参照ください。

離婚・養育費でお悩みの方は弁護士齋藤裕にご相談ください。

まずはお電話(025-211-4854)か、メールでご連絡ください。

弁護士費用はこちらの記事をご参照ください。
さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です