労災と元請の損害賠償責任

交通事故

1 労災と元請の損害賠償責任

元請の安全配慮義務と条文

労働災害が発生した場合、元請が賠償責任を負うことは稀ではありません。

元請と労働者との間には直接の契約関係はありません。

しかし、労働者安全衛生法は、以下のとおり定めます。

 

第二十九条 元方事業者は、関係請負人及び関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行なわなければならない。
2 元方事業者は、関係請負人又は関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行なわなければならない。
3 前項の指示を受けた関係請負人又はその労働者は、当該指示に従わなければならない。
 このように、一般的に、元請事業者は、下請労働者の安全が確保されるよう対応すべき義務を負っています。
 また、労働者安全衛生法は、建設業の元請事業者について次のとおり定め、責任を強化しています(30条の特定元方事業者とは、建設や造船の元請事業主のことです)。
第二十九条の二 建設業に属する事業の元方事業者は、土砂等が崩壊するおそれのある場所、機械等が転倒するおそれのある場所その他の厚生労働省令で定める場所において関係請負人の労働者が当該事業の仕事の作業を行うときは、当該関係請負人が講ずべき当該場所に係る危険を防止するための措置が適正に講ぜられるように、技術上の指導その他の必要な措置を講じなければならない。
第三十条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。
一 協議組織の設置及び運営を行うこと。
二 作業間の連絡及び調整を行うこと。
三 作業場所を巡視すること。
四 関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助を行うこと。
五 仕事を行う場所が仕事ごとに異なることを常態とする業種で、厚生労働省令で定めるものに属する事業を行う特定元方事業者にあつては、仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置に関する計画を作成するとともに、当該機械、設備等を使用する作業に関し関係請負人がこの法律又はこれに基づく命令の規定に基づき講ずべき措置についての指導を行うこと。
六 前各号に掲げるもののほか、当該労働災害を防止するため必要な事項

 

特に建設現場での労働災害については、末端の下請、孫請事業者には資力がなく、十分な賠償をなしえない場合もあります。

そのような場合には、元請事業者が労働者安全衛生法を遵守しているかどうかしっかり確認し、元請に対する賠償請求も検討しなければなりません。

元請の安全配慮義務と裁判例

例えば、山口地裁下関支部令和4年2月25日判決は、

安全配慮義務は,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の附随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として認められるものである(最高裁判所昭和50年2月25日第3小法廷判決・民集29巻2号143頁参照)。そして,元請企業と下請会社等の従業員の関係のように直接の契約関係がない場合であっても,ある法律関係に基づき,信義則上の義務を肯定するに足りる特別な社会的接触の関係に入ったときには,元請企業は,下請会社等の従業員等に対しても,安全配慮義務を負う。
そして,労務関係に起因する安全配慮義務は,その労務等の遂行に当たって支配管理する人的及び物的環境から生じ得べき危険の防止について信義則上負担する義務を内容とするものといえるから,元請企業と下請会社等の従業員が特別な社会的接触の関係に入っているとしてこれを認めるためには,元請企業が下請労働者に対し作業の遂行に関する指示その他の管理を行うことにより,人的側面について支配を及ぼしていること,また,作業の場所の決定,作業の処理に要する機械,設備,材料,資材などの調達を下請会社等が行わず,元請企業が下請労働者の作業環境を決定するなどして,物的側面について支配を及ぼしていることを要するというべきである。

とした上で、当該事案において、元請に賠償責任を認めているところです。

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