労働災害(労災)と発注者の責任

交通事故

1 労災と発注者の責任

労災が発生した場合、労働者を使用していた使用者(あるいはその元請など)が損害賠償責任を負うことは多くあります。

しかし、発注者まで損害賠償責任を負うことは多くはありません。

例えば、津地方裁判所平成29年5月29日判決は、以下のとおり述べて、道路の擁壁工事で擁壁が崩落して生じた事故に関し、工事の発注者である市に労災についての賠償責任を認めています。

 

「Aが,施工業者として本件工事について作業員の安全を確保する義務を負うとしても,前記アで検討したとおり,津市工事請負約款において規定されている発注者や監督員の権限に照らせば,監督員が擁壁崩落の危険を認識し得る状況にあれば,それによって発注者としての被告の監督員らを通じた上記イの義務が発生するというべきである。仮に,切梁及び腹起し材といった簡易な土留工により,本件事故を防止でき,これがAの現場管理の範疇にあるものであったとしても,この理は変わらない。なお,被告は,工事契約約款26条1項に災害防止等のために必要があると認めるときは,受注者が臨機の措置をとらなければならない旨定められており,Aは,擁壁崩落を予見できる状況にあった以上,それを回避すべき措置をとる義務を同条項により負っていたと指摘するが,同条3項では監督員が臨機の措置をとることを請求することができるとされているのであるから,同条1項によって,受注者のみが作業員の安全を確保すべき義務を負っているとはいえない。」

その上で、判決は、発注者がKYミーティングで、擁壁に背を向けて作業しないという指示をした程度であり、それ以外に具体的な指示などをしていないことから、安全確保義務を果たしたとは言えないとしました。

結論的には、発注者に8912万3558円を支払うよう命ずる判決となっています。

このように、請負契約の条項に照らし発注者に安全確保のための措置をとる権限がある場合において、労災につながるような兆候がある場合において、発注者側に労災が発生しないよう対応すべき義務があるということです。

この事例は自治体が発注者であるという特殊性はあるものの、契約上発注者に監督権限が認められており、使用者に十分な賠償資力がないような場合には、この裁判例を活用し発注者の責任をも問うべき場合もあると思います。

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