「労働することができない」とはどのような場合か(労災)

交通事故

1 「労働することができない」とはどういうことか(労災)

従来の仕事を考慮して「労働をすることができない」かどうか決めるべきとの考え

労災保険法第十四条は、「休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする。」と定めます。

よって、労災(休業補償)給付については、「労働することができない」との要件を満たすことが必要です。

この点、東京高裁平成29年1月25日判決は、東京地裁において「労働することができない」との要件を満たさないとした事案について、満たすとの判断を示しています。

「労働をすることができない」との要件該当性判断に参考になる裁判例かと思いますので、ご紹介します。

同判決は、以下のとおり述べます。

労災補償制度の前提となる使用者の補償責任が危険責任に基づく無過失責任であり,また,労災補償制度が使用者の拠出によって運営されていることに照らすと,「労働することができない」状態にあるというためには,使用者に危険責任に基づく無過失責任を認めるのに相応しい状況にあると評価されることが必要である。そのため,労働者が疾病に罹患する直前の業務に従事することができない場合であっても,その他の労働が可能で一般的に労働不能とはいえない状態になれば,「療養のため労働することができない」とはいえない。少なくとも,一般の雇用主が軽作業に従事する労働者として採用可能と判断するような状態にあれば,一般的に労働不能の状態にあるとはいず,「療養のため労働することができない」とはいえないと解すべきである。ただし,「療養のため労働することができない」かどうかの判断に当たっては,労働者が使用者(雇用主)との労働契約に基づいてどのような労働を行い得るかということも考慮に入れるべきであり,使用者(雇用主)のもとで従前従事していた労働の内容や態様,使用者(雇用主)と締結していた労働契約の内容や使用者(雇用主)がその企業の実情において提供可能な他の業務の種類なども考慮に入れて判断すべきことになる。また,「療養のため労働することができない」場合には,療養のため労働に従事することが物理的にできない場合のほか,医師が就労を禁止又は制限し,この指示に従わなければならないために労働に従事することができないなど療養管理上不適当とされる場合も含まれ,労働すると病状が悪化する場合もこれに当たると解すべきである。

つまり、使用者において提供可能な業務や労働者の従事してきた業務などを考慮して「労働をすることができない」かどうかを判断することになります。

同判決は、その上で、航空会社に勤務していた当該労働者については地上業務に従事するかどうかで「労働することができない」かどうかが判断されるとしています。

そして、長時間座り続けることができない、歩行速度が通常人より大幅に遅いなどの事情を踏まえ、「労働することができない」との要件を満たすとしたのです。

労働者はそう簡単に転職することはできませんし、そうであれば従来の職場において現実的に労働することができるかどうかで労災認定をするかどうかを判断するのは合理的と考えられます。

従来の業務を考慮しないで「労働をすることができない」かどうか判断すべきとの考え

なお、東京地裁平成27年3月23日判決は、以下のとおり、「労働をすることができない」とは、従来の仕事とは無関係に一般的に判断すべきとしています。

ですから、裁判例において未だ確たる見解が確立していないことにも注意が必要です。

労災保険法14条1項に定める休業補償給付は,労働者が業務上の負傷または疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない場合に支給されるものであるところ,労働者災害補償保険は,業務上の事由または通勤による労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするため必要な保険給付を行うことをその目的としている(労災保険法1条)のであって,労災保険法14条1項の休業補償給付は,業務上の傷病により療養中の労働者の生活保障を目的とした,労働能力の喪失に対する補償の性質を有するものと解するのが相当である。このような労災保険法上の休業補償給付の性質に加え,労災保険法14条1項の文言をみても,休業補償給付の要件の一つとして「労働することができない」とのみ規定し,労働の内容について何らの限定を付していないことからすれば,ここでいう「労働することができない」とは,一般的に労働不能であることを意味するものであって,その労働者が負傷し,または疾病にかかる直前に従事していた労働をすることができない場合を意味するものではないと解するのが相当である。

 

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