公務災害と公務遂行性

交通事故

1 公務災害における公務遂行性

公務員が公務上傷害などを負った場合、公務災害として補償がなされる可能性があります。

公務災害として認められるためには、公務遂行性と公務起因性の2要件が必要となります。

この公務遂行性については、「任命権者の支配管理下にある状態において当該災害が発生した」ことが要件とされます。

この要件を満たすためには、休日の場合には、「特に勤務することを命ぜられた場合」であって、「その途上」において災害が発生したことが要件となります。

東京高裁平成30年2月28日判決

この点、公務災害性が争われた最近の裁判例としては、東京高裁平成30年2月28日判決があります。

同判決は、小学校の教諭が、日曜日に実施された地域防災訓練に参加する経路の途上、担任する児童の生徒の家を訪問したところ、その家で飼い犬にかまれ、傷害を負ったという事案について、公務遂行性を認めました。

同判決は、まず、防災訓練への参加が、勤務を要しない日に特に勤務することを命じられた場合に該当するとしました。

その理由は、

ⅰ 防災訓練への参加については、教育委員会からの「訓練当日は、できるだけ多くの教職員が参加できるようにする。児童制度、保護者にも学校の立場から参加を呼びかける」との具体的な指導があったこと

ⅱ 小学校の職員会議において、本件防災訓練は学校をあげて取り組むべき行事として位置づけられており、現に職員会議において配布された「行司予定」には防災訓練への参加が明記されていたこと

ⅲ 本件防災訓練に参加した教員に対しては、正式に、教頭との書面(動静表)のやり取りを通じて、代休取得の措置まで講じられていたこと、

ⅳ 小学校の各教員は、防災訓練に参加した児童の人数などを教頭に報告することまで求められており、この報告を行うためにも本件防災訓練への参加を受け入れざるを得ない状況にあったことなどから、「特に勤務することを命ぜられた場合」に該当するとされました。

その上で、児童の家は自宅から防災訓練の会場に行くための通常一般に持ちいれられる経路であること、児童の家に行ったのも避難訓練への参加を呼びかける目的であったことなどから、訪問行為も「途上」において生じたものとされました。

以上より、公務災害としての認定がされています。

同事案では、原判決と結論が分かれており、限界事例としての参考価値があると思われます。

広島地裁福山支部令和4年7月13日判決

同判決は、警官の過労自殺に関する安全配慮義務違反が争われた事件についての判決ですが、同判決は、ロータリークラブ主催の海外研修への参加について、それに要した時間も含め、公務起因性を判断しています。

同判決は、

・これが次世代のリーダー等育成を目的としていたこと

・派遣先国での職業見学を含むものであること

・ロータリークラブが県警に参加要請をし、それを受け県警が被災公務員を候補者として推薦したこと

等の経過を踏まえて上記判断をしたものです。

千葉地裁平成23年6月28日判決

他方、千葉地裁平成23年6月28日判決は、山岳部顧問が合宿に参加したことが公務に該当しないとしました。

その理由は、

・被災労働者がこれに参加しようとしたのは平成15年3月29日及び30日の勤務を要しない日であること

・その場所も本来の勤務先である本件高校ではないからそれを公務というには旅行命令が発せられる必要があるというべきところ,本件合宿への参加については被災労働者に対して旅行命令が発令されていないこと

・本件合宿には山岳部員9名に対して3名の顧問が引率しており,場所もごく一般的なスキー場であったことからすると,人的体制は十分であったといえる上,被災労働者が合流しようとしたのは本件合宿の3日目になってからであり,日程の半分が経過した時点で更に引率者を増員しなければならない理由は見当たらず,他の参加者がバスで往復しているのを,夜行バスなどを利用せず,自ら自家用自動車を運転し夜を徹して走行して本件合宿先に到着しているところ,このような睡眠不足の状態で寒冷地でのスキー合宿の引率という体力を消耗する職務を行わせることは極めて不適切である。このようなことからして,客観的にみても,公務とはいいがたいこと

です。

このように、ある行為が公務に当たるかどうかは、その行為の性質(公務としての必要性等)だけではなく、公務としての手続きがとられているかも考慮されることがあります。

2 新潟で労災、公務災害のご相談は弁護士齋藤裕へ

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