飲食店勤務労働者の過労死について安全配慮義務違反を認めた裁判例(労働災害)

さいとうゆたか弁護士

1 飲食店店員の過労死についての裁判例

飲食店は過酷な長時間労働が蔓延しやすい職場であり、そこをめぐる過労死も多く発生しています。

神戸地裁平成25年3月13日判決は、飲食店勤務の男性が心臓性突然死したという事例について、会社側の安全配慮義務違反を認めています。

参考になるものと思われるのでご紹介します。

同事例において、裁判所は、被災労働者の労働時間を、発症前1か月目が89時間4分,発症前2か月目が92時間7分,発症前3か月目が69時間33分と認定しました。

その上で、判決は、まず、以下のとおり、使用者が過労死など防止のために負うべき義務について基準を明らかにします。

 「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり,使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,使用者の上記注意義務の内容に従って,その権限を行使すべきである。そして,使用者ないし上記権限者がこの義務に反した場合は,使用者の債務不履行を構成するとともに不法行為を構成する。」
また,使用者が認識すべき予見義務の内容は,生命,健康という被害法益の重大性に鑑み,安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り,必ずしも生命,健康に対する障害の性質,程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない。」

ここで注目すべきは、使用者に具体的な予見可能性がなくとも、労働者の身体等に危険が発生する抽象的な危惧があれば、使用者には安全配慮義務違反が成立すべきとしていることです。

過労死により失われるのが生命であることを考えると妥当というべきでしょう。

そして、判決は、以下のとおり、基準への当てはめを行い、当該使用者に安全配慮義務違反があったとしました。

「これを本件についてみると,以上の認定事実によれば,A店において,退勤打刻後残業が恒常的に行われていたことは,平成15年12月のQ事件によって明らかになり,退勤打刻後残業等により申告されていた労働時間を大幅に超えて残業していることを被告の労働時間を管理する者が認識し得たものといえるにもかかわらず,被告は,賃金不払い残業の原因について解明して,過重になっていた業務を軽減して適正化するなどの対策を執ることなく,単に退勤打刻後残業等の賃金不払い残業の規制を強化しただけであったから,被告は,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に反していたものといえる。したがって,被告には上記義務違反による不法行為責任があるものと認められる。」

このように、使用者において、長時間労働の実態を認識しながら、業務軽減などを行わなかったとして、安全配慮義務違反を認定しました。

長時間労働がある場合、使用者としては残業を規制するという安直な対応に終始する場合もあります。

同判決は、そのような対応に警鐘を鳴らすものと言えるでしょう。

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