投票済証明書の問題性

さいとうゆたか弁護士

選挙管理委員会によっては、投票に行った希望者に投票済証明書を発行することがあります。

そして、投票済証明書を見せると割引を受けられる店舗もあり、同制度が肯定的に受け止められることもあります。

しかし、この投票済証明書については大きな問題が含まれています。

本日の新潟日報には、参議院選挙において、連合系組合が、組合員に投票済証明書の提出を求めて組織を引き締めたとの記載があります。

この記事を書いた記者には投票済証明書を提出させることの問題性が理解できていないようであり、記事に投票済証明書を提出させたことについて批判的なニュアンスは全くありませんでした。

しかし、組合や企業などの組織において特定候補を応援し、組合員にその候補に投票するよう呼びかけた上で、投票済証明書の提出を求めるということになると、かなり特定候補に対する投票を強く誘導することになります。

それは誰に投票するかどうか、そもそも投票するかどうかを決める個人の自由を大きく制約することにつながりかねません。

また、組織が大きな意味を持つ選挙になると、一般の市民の意思は大きな影響を持ちにくく、選挙やその後の政治活動において一般市民の通常の感覚より組織の論理が優先されがちになると考えられます。

それが一般市民に諦めの気持ちをもたらし、ますます投票率を下げ、組織の存在感が益々大きくなるという負のスパイラルに陥る危険性すらあります。

投票済証明書は、その組織選挙にとって有効なツールであり、一般市民の意思が反映する選挙を阻害するという意味も持ちうるわけです。

例えば、福島県の西郷村は、以下のような理由をあげて投票済証明書の発行をしないとしています。

  • 公職選挙法に規定がないこと。
  • 投票は個人の自由意思によってなされるべきであり、投票に行かなかったことを理由に不利益を受けることがあってはならないものであること。
  • 利害誘導や買収などに利用されるおそれがあること。
  • 投票済証明書を発行することの是非について、賛否両論があり、過去の総務省の調査においても半数以上の市区町村において発行していないこと。
  • 商店街などで割引などのサービスを行っているところもあるが、選挙啓発運動と営利活動は分けて行う必要があること。

割引サービスは有用との考えもあるでしょうが、投票率の向上は、組織が市民の声を反映しないで密室で候補を選定するので入れたい候補がいない、候補者が何を言っているか伝わってこない、という問題点を解消することによって図るべきではないでしょうか。

少なくとも、各候補者が何を言っているのかを市民に伝える活動程度は店舗などでもできるのであり、割引サービスがないと投票率アップを図ることができないということはないと思います。

今回、投票済証明書が不適切な形で利用されたことが報道により明らかとなったのですから、選挙管理委員会においては今後投票済証明書を発行しないという選択をすべきと思います。

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