確定申告がない場合の休業損害、確定申告書より多めの休業損害(交通事故)

交通事故

1 収入を示すものがない場合の休業損害

交通事故で傷害を負い、仕事をすることができなくなった場合、そのことにより収入が減った分を休業損害として加害者に請求できる可能性があります。

多くの人は、源泉徴収票や確定申告書控えなどにより事故前の収入を立証することができるでしょうし、それに応じた休業損害を請求できるでしょう。

しかし、中に確定申告をしていない、確定申告において過少申告をしているなどの事情で、事故前の収入、ひいては休業損害を立証することが困難なケースもあります。

例えば、東京地裁令和3年9月15日判決は、「原告に生じた休業損害を算定するに当たっての基礎収入を検討するが,原告は,節税のために赤字申告をしているだけであって赤字事業をしているわけではないから,平成28年度の固定経費のみに基づいて休業損害の基礎収入を算出すべきであると主張する。しかしながら,節税の事実やその範囲,それによる原告の事業の所得状況を明らかにする証拠は何ら提出されていない以上,基礎収入としては,原告の平成28年度の所得に固定経費を加算して算出するのが相当である。」として、原告が虚偽の赤字申告をしていたと主張する事案において、確定申告額をベースに休業損害を算定すべきとし、結果として休業損害を認めませんでした。

しかし、確定申告がなかったり、過少申告をしているような場合でも、裁判所が統計や推認を活用するなどして、一定の休業損害を認める場合があります。

ただし、そのような認定については、「(申告がないという事実と)自己矛盾の主張であるので、申告外所得の認定は、厳密に行われるべきであり、収入(総売上高)及び原価や営業経費・店舗等設備費等のい諸経費につき、信用性の高い証拠による合理的な疑いを入れない程度の立証がなされる必要がある」とされます(湯川浩昭裁判官「事業者の基礎収入の認定」赤本2006年版所収)。

つまり、通常の場合より立証のハードルが高いと言えます。

2 売上の認定

事故発生前の売上をもとに売り上げを推計した裁判例が複数あります。

例えば、東京地裁令和3年4月28日判決は、「X1は,本件事故当時,X1空調の屋号で空調設備業を営んでおり,確定申告をしていなかったが,休業損害の基礎収入を平成29年賃金センサス男子45歳から49歳の平均収入を基礎収入とすべき等主張する(前記第2の2(2)(X1の主張)ウ(ア))。しかし,X1が,平成29年賃金センサス男子45歳から49歳の平均収入を得る蓋然性があったことを認めるに足りる証拠はない。」として、賃金センサスによる休業損害認定を否定します。

他方、「本件事故前からFから一定の入金があり,継続的な取引関係が窺われ(甲11,甲13,X1本人),平成28年8月頃から平成29年4月頃まではEに勤務し,月額20万円から25万円の収入を得ていたこと(甲16,甲17)も考慮すれば,X1は,本件事故当時,月額20万円程度の収入を得ており,本件事故後も同額(年額240万円)程度の収入を得る蓋然性があったと認められる(日額は200,000×12÷365=6,575)。」として、過去の収入をもとに休業損害の認定を行っています。

年間の売上について請求書や領収書、口座などにより立証できる場合、申告外の売上を認定することはより容易と思われます。

3 経費の認定

大阪地裁平成15年12月24日判決は、確定申告による所得金額について、被害者側において、実際にかかっていない経費を計上して申告していたとして、実際の所得はより高い主張したケースについて、被害者側の主張を受け入れました。

経費については、経費として計上されている項目について、発注者等から無償提供されていること等を立証することにより、申告内容よりも高い所得金額を立証できる場合もあるでしょう。

その他、国税庁の標準的な所得率を参考に経費認定をした裁判例もあります。

4 出納帳による収入認定を否定し、賃金センサスでの収入認定をした事例

例えば、東京地裁平成10年11月4日判決は、以下のとおり述べ、賃金センサスという統計から休業損害額を認定しています。

まず、同判決は、以下のとおり述べ、被害者が出納帳に基づき自己申告した額での収入を認めませんでした。

原告は、源泉徴収を受けておらず、確定申告もしていない(証人B、原告本人)。したがって、現実収入の認定においては、それらに匹敵する厳格な証拠が必要であるというべきところ、先の金銭出納帳は、作成経過及び内容について不明朗な点が多く、この記載内容を採用するには躊躇せざるを得ない。そうすると、原告本人の供述及び陳述書の記載内容のうち、本件事故当時、原告が、月額五〇万円以上の収入を得ていたとの部分も直ちには採用することはできない。

出納帳でも収入や休業損害が認定されるケースもありうると思いますが、月50万円以上という、かなり高額な収入を認定するにはそれなりに厳格な証拠が必要といえ、出納帳では簡単には収入認定はできないといえるでしょう。

その上で、同判決は、被害者が7、8人従業員がいる店舗で店長をしていたこと、被害者が「仕入れ、接客、調理、アルバイトの管理、帳簿の記載等のあらゆる仕事をしていた。」との前提事実を踏まえ、以下のとおり、昭和六三年賃金センサス産業計・学歴計・高卒男子二五歳から二九歳の平均賃金である年間三三一万五六〇〇円を下らない収入を得ていたとの認定をしました。

賃金センサス程度の収入を得ていたことまでの立証ができない場合、賃金センサスの基準の何割かの数字を基準とすることもあります。

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