退職に伴う職務放棄と損害賠償責任(労働事件)

さいとうゆたか弁護士

1 退職に伴う損害賠償の問題

昨今、退職をしたいのに会社が辞めさせてくれないというトラブルが頻発しています。

そのようなトラブルの中では、会社側が、退職によって会社側に生じた損害について賠償請求をすると威嚇する場合もあります。

このような威嚇の多くはこけおどしであり、気にする必要はありません。

特に、民法627条に従い、2週間前に退職を通告した場合、損害賠償義務を負うことは想定しにくいと考えます。

また、継続的なパワハラ・セクハラが放置されたり、異常な長時間労働が放置されているような場合、緊急避難として直近での退職通告でも損害賠償責任が認められない場合もありえます。

しかし、場合によっては、退職による職務放棄について損害賠償責任を問われることがありえます。

例えば、福岡地裁平成30年9月14日判決は、以下のとおり述べて、具体的な労務指示があった後の職務放棄について労働者の損害賠償責任を認めました。

「労働者は、労働契約上の義務として、具体的に指示された業務を履行しないことによって使用者に生じる損害を、回避ないし減少させる措置をとる義務を負うと解される」

「(当該労働者は)運送業務を具体的に指示されたにもかかわらず、トラック内に退職する旨の書置きを残したのみで無断欠勤し、前記運送業務を履行しなかったものであるが、これは前記の使用者に生ずる損害を、回避ないし減少させる措置をとる義務に違反する行為であ(る)」

「原告は、被告会社における過重労働やパワハラに耐えかね、緊急避難的本件失踪1に及んだものであるから、不法行為責任を負わないと主張するが、事前に退職の意思を伝えることができないほどの緊急性があったとはいえないから、原告の責任は否定されないし、原告の賠償責任を信義則上制限すべき事情があるともいえない」

しかし、判決は、比較的短期間で終了する職務を繰り返すというトラック運転手という職種に特有の判断かと考えます。

具体的な職務の指示があったとしてもそれが長期間を要するものであり、2週間前に退職を申し述べることができず、かつ、直前ではあっても事前に退職の意思を表明していたような場合については射程範囲外といえると考えます。

いずれにしても、どのような場合であれば直前の退職が許容されるのか、ケースバイケースの判断が要求されますので、事前に弁護士に相談した方がよいでしょう。

2 新潟で退職代行、労働問題は弁護士齋藤裕へ

退職代行についての記事

新型コロナによる会社破綻と労働者についての記事

もご参照ください。

労働事件でお悩みの方は、弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にお気軽にご相談ください。

 

 
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