治療機会の喪失と公務災害・労災

交通事故

1 喘息の治療機会の喪失と公務災害

通常、労働災害や公務災害は、業務や公務が原因となって発症した場合に認められます。

別の原因で発症した傷病について労働災害や公務災害が認められることは基本的にはありません。

しかし、裁判例の中には、別の原因で発症した傷病についても、業務や公務などのために治療機会が失われ、死亡等した場合には、労災や公務災害として認めるものもあります。

2 喘息の治療機会の喪失と公務災害

例えば、横浜地裁平成23年10月13日判決は、以下のとおり述べて、業務外の原因で発症した喘息について、職場環境のため治療機会が失われ、死亡したとして、死亡を公務災害として認定しました。

重篤な喘息発作を回避するために喘鳴が出た時点で治療を開始すべきであり,仮に,ひとたび喘息発作状態になっても,速やかに治療すれば死亡に至る可能性は低く,救急外来でステロイド薬などの点滴注射の後,吸入ステロイド薬の連用で入院を免れることが多く,重症であっても,入院しステロイド薬の点滴注射や酸素吸入で回復する可能性が高いから(春田医師の意見書,甲34),Aに喘鳴が出た死亡当日午後5時頃の時点,あるいは遅くともAが救急隊の寝室に向かった午後8時30分頃の時点で,Aが公務を離脱し,医師の診察を受けていれば,Aの死亡は避けることができたということができる。
しかし,上記(4)のとおり,Aの当時の職場環境においては,勤務途中で公務から離脱することは著しく困難であり,Aも自身の26年に及ぶ長年の勤務経験から自身の置かれたそのような職場環境を十分認識していたことから,公務から離脱することを申し出ることなく,公務を続けたものと認められる。
以上検討したところによれば,Aは,死亡当日,客観的にみて治療を要する状況にあるにもかかわらず,Aの当時の職場環境が職種自体あるいは人員配置の点から代替性がなく,Aが休暇の取得その他治療を受けるための方法を講じることができず引き続き職務に従事しなければならないような状況にあり,公務を続けることを余儀なくされたものと認められるから,Aの公務とAの死亡との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

3 クモ膜下出血の治療機会の喪失と公務災害

大阪高裁平成29年12月26日判決は、被災地支援のための運転手として派遣された公務員がクモ膜下出血で死亡した事案について、業務の負荷によりクモ膜下出血が発症したと認定するとともに、以下のとおり、業務のため異常な頭痛があっても受診できず、クモ膜下出血が悪化したとして、治療機会の喪失を理由としても公務災害を認定しました。

本件疾病はくも膜下出血であり,5月14日昼頃までに亡Aにあらわれた頭痛(以下「本件頭痛」という。)は,これに前駆する症状であったところ,上記認定事実(4)アによると,亡Aは,同日の昼頃までは,本件頭痛に対し,それまで月に1~2回程度あった頭痛に対するのと同様に市販の痛み止め薬(バファリン)を服用することで対処しようと考えていたが,本件頭痛は従前の頭痛とは異なり,昼過ぎになっても上記痛み止め薬が効かない状態にあったことが認められる。そして,同日,亡Aが「今までにも頭痛はあったが今日のは特に痛い」と述べていたこと(同(4)イ)にも照らすと,亡Aとしては,事情さえ許せば速やかに医師の診察を受けたいと考えたものの,運転業務を交代する要員がいなかったため,そのまま勤務を継続せざるを得なかったものと合理的に推認され」る。

 

4 肺炎の治療機会の喪失と労災

大阪高裁平成12年11月21日判決は、業務中の急性肺炎による死亡について業務起因性を認めました。
同判決は、「一般に当該労働者の遂行した業務内容が過重な業務とはいえないときでも,その性質や当該時点における具体的遂行状況等から,客観的にみて,発病後直ちに必要な安静を保つことや治療を受けることが困難で,引き続き業務に従事せざるを得ないという状況に置かれていた場合には,その業務によって自然的経過を超えて増悪した疾病の結果による死亡等には,当該業務に内在する危険があるものとして,業務起因性を認めるのが相当である。」との判断基準を打ち立てます。
その上で、当該職場の従来の取扱いからして当番を交代することが困難だったなどの事情を踏まえ、治療機会の喪失により業務起因性があるとしました。

このように、傷病自体に業務起因性や公務起因性がない場合でも(ある場合でも)、職場環境のために治療機会を喪失したとみられるような場合、業務起因性や公務起因性が認められることもありますので、十分な検討が必要となります。

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