時間外労働時間76時間程度で過労自殺を認めた事案(過労死、労災)

厚生労働省の基準では、時間外労働時間が3か月で月100時間を超えるなどの要件を満たした場合に心理的負荷が強と評価され、うつ病り患について労災が認められやすくなります。

しかし、時間外労働時間が月76時間程度であっても、他の事情と合わせ労災が認められることがあります。

神戸地方裁判所平成22年9月3日は、月76時間程度の時間外労働時間のケースで、過労自殺・労災との認定をしました。

同判決は、以下のとおり述べて、労働時間以外の事情により心理的負荷が強となるとしました。

「韓国案件は,訴外会社が本件発注元の構成員から他社が受注していた案件の後継を打診されて交渉を行うことになった経緯に照らして,相当程度の受注の可能性が見込まれ,また,規模も450億円と大きなものであったから,訴外会社としても,これにより,発足以来受注がない輸送システムグループがようやく実績を上げることを期待していたと認められるから,このような韓国案件を,亡Dが輸送システムグループの担当者として,かつ,訴外会社の関係各部署のとりまとめ役として行うようになったことは,前記1(9)認定の専門部会意見のとおり,判断指針の定める出来事の類型「②仕事の失敗,過重な責任の発生等」のうちの,「新規事業の担当になった,会社の建て直しの担当になった」に該当するものと認められる。」
「そして,その平均的心理負荷の強度は,判断指針によれば「Ⅱ」と評価されるが,前記のとおり,本件においては,訴外会社から嘱望されて再入社し,厚遇を受けている以上,それに見合う実績を上げることを自他ともに期待されている亡Dが,自ら発足以来グループ長の地位にある輸送システムグループにおいて,様々な案件について業務を行っても,いずれも受注に結びつかず,いわばすべて徒労に終わっている中で,ようやく受注確度の高い案件につき業務を行うという状況になったのであるから,失敗が許されないというだけでなく,失敗すれば,訴外会社における自らの存在価値も問われかねないことが予想され,他方で,当該業務の内容は,亡Dが過去に訴外会社で経験してきた製鉄関連業務とは全く異なり,ギャップを生じていたこと等からすれば,亡Dの負担していた業務量そのものが恒常的な長時間労働をするようなものでなかったとしても,上記の事情は,平均的な労働者にとって,同様の立場に置かれた場合には,心理的負荷の強度の修正要素となるというべきである。」
「したがって,上記の事情にかんがみれば,亡Dの立場に置かれた平均的な労働者を基準とするとき,平成12年7月に亡Dが韓国案件を担当するようになったことの心理的負荷の強度としては「Ⅲ」に修正されるものと評価できる。」
「そして,亡Dが韓国案件を担当するようになった後の状況についてみると,前記のとおり,韓国案件の受注活動が進行していても,輸送システムグループに受注実績がないという状況に変わりはなく,他の案件についても引き続き受注交渉を続けていく必要があり,亡Dはグループ長として,全案件を把握する必要があること,また,受注がない状況が継続していることは,判断指針にいう「自分の関係する仕事で多額の損害を出した」場合には該当しないものの,経費の持ち出しなどを消極的損害と評価すれば,損害を出したことと同等の出来事に該当するといえること,さらに,輸送システムグループが平成10年から12年までの受注目標を全く達成できておらず,その受注目標自体は,訴外会社からノルマとして与えられたものとまでは認められないものの,これは,判断指針における「ノルマが達成できなかった」出来事に類似するものであること等の事実関係を総合すれば,亡Dの発症前6か月の労働時間は恒常的な長時間労働には該当しないとしても,亡Dの業務負担は,相当程度過重であったものと認められるから,亡Dの業務による心理的負荷は「強」であったものというべきである。」

 

このように多額で失敗の許されない案件を新たに担当するようになったこと、受注がない状況が継続していたこと、受注目標を達成することができなかったことなどを踏まえ、心理的負荷を強とし、自殺について過労自殺、労災と認めました。

過労死・過労自殺においては、労働時間の把握が要となりますが、それ以外にも質的な過重性を適切に主張立証することが重要となります。

 

労災・労働災害・過労死・過労自殺でお悩みの方は、弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にお気軽にご相談ください。

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