有機溶剤中毒による化学物質過敏症り患について損害賠償を命じた事例(労災)

さいとうゆたか弁護士

1 化学物質過敏症と労災

東京地裁平成30年7月2日判決は、化学物質を取り扱う検査業務に従事していた労働者が有機溶剤中毒、ひいては化学物質過敏症にり患したという事案について、以下のとおり述べ、使用者に安全配慮義務違反があったとして損害賠償を命じました。

まず、判決は、以下のとおり述べて、労働者が業務中に化学物質に曝露されていたことで有機溶剤中毒にり患したと認定しました。

「原告は,本件検査分析業務に従事する過程で,長期間にわたって,相当多量のクロロホルムやノルマルヘキサン等の有機溶剤に曝露されていたことが認められる。」
「原告は本件検査分析業務を行っていた平成5年9月から平成13年6月の間,頭痛,微熱,嘔吐,咳などの症状があったこと,同月15日には被告の産業医に体調不良を申し出て,職場の異動を希望していること,その後も体調不良を訴えて就労場所が複数回変更されたことが認められるところ,前記原告の症状のうち本件検査分析業務を行っていた際の症状は,認定事実(2)記載の有機溶剤中毒の症状に合致し,本件検査分析業務を外れた後については,認定事実(1)ウ及びオ(イ)記載の化学物質過敏症の症状に合致している。」
「原告は,複数の医師から,有機溶剤中毒及び化学物質過敏症に罹患したと診断されているところ,これらの診断は,赤外線瞳孔検査機による自律神経機能検査,眼球追従運動検査(I医師による診断。甲46),眼球電位図による眼球運動評価,電子瞳孔計による瞳礼対光反応評価(M医師による診断。甲52)等,厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班が提示した診断基準(認定事実(1)オ(イ))の検査所見に対応する検査方法を用いていることから,化学物質過敏症の病態等がいまだ完全に解明されていないことを考慮しても,信頼するに足りるものである。」
「これらの本件検査分析業務の内容,原告の症状発症の経過,医師による診断内容を総合すると,原告は,本件工場内の研究本棟において,本件検査分析業務に従事する過程で,大量の化学物質の曝露を受けたことにより,有機溶剤中毒に罹患し,その後,化学物質過敏症を発症したと認めるのが相当である。」

このように、化学物質に長期間曝露されていたこと、症状の経過、医師の診断などから、業務中の化学物質曝露が有機溶剤中毒の原因であるとしました。

その上で、以下のとおり、使用者には、局所排気装置等設置義務、保護具支給義務、作業環境測定義務があったのに果たさなかったとして、安全配慮義務違反を認めました。

「被告には,雇用契約上の安全配慮義務の内容としての局所排気装置等設置義務,保護具支給義務及び作業環境測定義務の各違反が認められる。そして,各義務の法令上の基準は,作業従事者の健康被害を防止するために設定されたものであるから,被告の上記各義務違反がなければ,症状発現につながるような原告の有機溶剤及び有害化学物質への曝露を回避することができたと推認することができ,かかる推認を妨げる事情は,本件全証拠によっても認められないことからすると,被告の安全配慮義務違反と原告が化学物質過敏症に罹患したこととの間には,相当因果関係があると認められる。」

化学物質曝露により、場合によっては癌にり患することもあり、重大な結果に結びつく可能性がある労災類型といえます。

いずれにしても、化学物質曝露による労災においては、共通して局所排気装置等設置義務,保護具支給義務及び作業環境測定義務が果たされているかどうかがポイントとなります。

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