脳腫瘍の見落としと損害賠償責任

さいとうゆたか弁護士

1 腫瘍、ガンの見落としと医療過誤

腫瘍、ガンの見落としは比較的よくみられる医療過誤ですが、見落としにより重篤な結果を招くことが少なからずあります。

以下の裁判例は、義務違反と重度の後遺障害との間の相当因果関係を認め、高額の賠償責任を認めており、参考になると思われるので、ご紹介します。

2 福岡地裁令和1年6月21日判決

同判決は、「被告病院心療内科の医師らに,原告の平成18年10月30日の頭部CT検査報告書(前記前提事実(2)ア)において脳腫瘍の疑いを指摘されていたにもかかわらず,かかる指摘を見落とし,平成23年12月に至るまで脳腫瘍を放置した過失(以下「本件過失」という場合がある。)があることに争いはない。」と述べ、脳腫瘍の見落としという過失があったことについて当事者間に争いはないとします。

その上で、以下のとおり述べ、脳腫瘍の見落としがなければ定期的な観察が行われ、必要に応じて早期に腫瘍摘出術を行うことができた、しかしそのような定期観察がなされなかったことで脳腫瘍が大幅に増大するまで放置され、脳腫瘍摘出手術の危険性が高まり、術後水頭症のリスクが高まり、その結果脳腫瘍摘出術を受けた患者に水頭症による重度の障害が残ったとして、重度の障害が生じたことによる損害についても賠償を認めました。

被告には,本件過失があるところ,本件過失がなければ,原告は,定期的な経過観察によって,早期に脳腫瘍の増大を発見し,本件手術よりも早期に腫瘍摘出術を受けることができたものと認められる(前記1(4))。そして,本件過失により脳腫瘍が大幅に増大するまで放置された結果,本件手術の危険度が格段に高くなり,術後の水頭症のリスクも増大したことからすれば(前記1(4)),上記のように早期に腫瘍摘出術を受けていれば,平成27年6月3日時点における原告の症状の発生を防止することができた蓋然性が高いものと認められる。

3 鹿児島地裁令和4年4月20日判決

同判決は、脳腫瘍により脳ヘルニアが生じ、被害者に意識障害等の後遺障害が残ったという事案についての判決です。

同判決は、被害者の頭部CT検査及びMRI検査結果をみると、造影MRI画像においてリング状増強効果を伴う病変が認められ、拡散強調像において当該病変の内部が著名な高信号を示していたところ、当時の医学的知見によればそのような場合には脳腫瘍を疑うべきであったのに、医師においてただちに脳腫瘍に対する治療を開始しなかったとして医師に過失が認められるとしました。

そして、判決の事案は意識清明で脳室穿刺がなかった事案であったところ、統計的に治療開始時に意識清明で、脳室穿刺がないケースでは予後が良いなどとし、過失と被害者に生じた後遺障害

との因果関係を認めました。

4 新潟で医療過誤は弁護士齋藤裕へ

脳腫瘍が重大な後遺障害にむずびつきうるものである以上、見落としがないよう医師が重い注意義務を負うのは当然というべきであり、上記各裁判例は妥当と言えるでしょう。

 

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