名ばかり管理職の残業代についての裁判例

さいとうゆたか弁護士

1 管理監督者と時間外労働の割増賃金

労働基準法41条は、管理監督者については、時間外労働についての割増賃金を払う必要がないとしています。

この管理監督者は管理職とはイコールではありません。

通達では、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩、休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえ、総合的に判断することになる」とされています。

しかし、現実には、このような要件を満たさない名ばかり管理職が管理監督者とされ、時間外労働の割増賃金が払われない事例が多くあります。

裁判所でも、そのような事例について、割増賃金の支払を命じたものが多くあります。

以下、裁判例を検討します。

2 東京高裁平成30年11月22日判決(スポーツクラブの支店長)

裁判所は、「支店長を含む従業員の労働時間の管理が年間カレンダー、勤務計画表、勤怠管理システム、タイムカードで行われていたほか、支店長については支店長スケジュール(計画と実績)の記載を含む週報の提出を求められていたこと」、「プログラムの変更・新規導入、販売促進活動、施設・設備の修繕、備品の購入等について事前に直営施設運営事業部やエリアマネージャー等の上長の事前の承認が必要であった」などとして、支店長は管理監督者に該当しないとしました。

支店長はアルバイト採用についての権限を有していました。

しかし、裁判所は、「控訴人の人件費や運営モデル等において控訴人が定める総労働時間の枠による制限があるのであり、被控訴人の申請が承認されないことはなかったとはいえ、それは被控訴人が運営モデル等の範囲内で申請を行っていたからに過ぎず、被控訴人がアルバイトの契約の更新や配置、一定範囲内での時給の決定などを単独で行っていたとしても、アルバイトの人事について実質的な決定権を有していたと評価することはできない」として、管理監督者であることを裏付けるものではないとしました。

このように、一定の縛りの中で裁量を持つに過ぎない場合においては、管理監督者であるとは認められにくい傾向にあります。

3 東京地裁平成30年3月16日判決(受信料徴収を請け負う会社の支店長)

裁判所は、以下の事情を踏まえ、管理監督者であることを否定しています。

ここでは、人事等の権限の内容、勤務時間等の管理、賃金等の待遇等の総合考慮から管理監督者であることが否定されています。

①業務内容,権限及び責任の重要性について
・原告は支店の従業員のシフト表の作成,副主任以下の降格,支店従業員の査定,支店の営業成績の管理,外勤従業員への指示など,一定の権限,責任を有していた

・原告の権限は従業員10名から15名程度の支店内に限られており,支店間の人事異動,部下である主任・統括マネージャーの人事権,採用等の権限があったとまでは認められない。
・経営上の決定がなされる機会には参加していない。

・以上より,原告は,自らの労働時間を減らすための権限や,自らの待遇向上に効果的な権限は限定的であったというべきである。
②勤務態様(労働時間の裁量,労働時間管理の有無・程度)について
・原告は所定始業時間に遅刻したときは遅刻控除がされており,出退勤が自由であったとは認められない。また,原告の出退勤時間からしても,所定始業時間前からの出勤,所定退勤時間を大きく過ぎてからの退勤が常態化している。
・原告の業務内容からしても,自由に出退勤できず,長時間業務に従事せざるを得ない状況にあったといえる。

・原告は,管理業務のみならず,支店の営業成績が悪いときなどに自ら外勤業務に従事することもあった

・実際の原告の残業時間についてみると,支店長となった後は月平均110時間23分と,約56時間増加し,ほぼ倍増している。

・したがって,原告は労働時間を管理されており,かつ,労働時間の裁量性は低かったというべきである。
③賃金等の待遇について
・原告の支店長となる前から一月当たり5万円程度の増額があった。しかし,支店長となってから労働時間は約56時間増加している。割増賃金も考慮すると基礎時給は約713円となって最低賃金を下回る程度の待遇しかされていない。
・職能グレードのランクからしても,28グレード中上から13番目という中間的な位置付けにとどまる。
・したがって,管理監督者にふさわしい待遇にあるとはいえない。

4 福岡高裁令和3年12月9日判決(図書館長の事例)

福岡高裁令和3年12月9日判決は、3年の任期で採用された図書館館長について、

・図書館業務の運営管理という中核部分(図書館司書業務(貸出、リファレンスサービス等)の管理や、職員、司書等のスタッフの管理、育成等)とその準備として密接に関する部分(本件図書館の設計・建設や、本件図書館の企画等)の業務を委ねられ、図書館法13条2項所定の「館長」として相応しい権限と責任が与えられているから、その職務内容は本件図書館の施設管理運営の責任を実質的に担う立場にあった

・館長の年収が650万円であり、使用者において管理又は監督の地位にある職員として管理職手当が支給され、時間外手当、休日給及び夜間勤務手当が支給されない課長職の年収と極めて近い年収であること

・図書館の期限付職員(嘱託職員)が受給する月給と比較すると、その2ないし3倍の金額であること

・館長が本件雇用契約の前に勤めていた他の館長としての年収が400万円から450万円程度であったこと

等を踏まえ、管理監督者に該当するとしました。

なお、館長についてもタイムカードによる出退勤時刻の把握がされていましたが、全職員が管理されていたこと、時間外勤務を超勤命令簿等で管理していなかったこと等から、出退勤時間把握は管理監督者性の認定の妨げにはならないとされています。

5 管理監督者であるかどうかの決定基準

以上のとおり、管理監督者であるかどうかは、

ⅰ 人事など権限の内容

ⅱ 労働時間等について管理されているかどうか

ⅲ 賃金等が残業代がなくても十分といえるものか

との諸点を総合して判断されることになります。

人事権があっても、かなり限定されたものである場合、管理監督者性を裏づけることにはなりません。

6  新潟で残業代のお悩みは弁護士齋藤裕へ

残業代の算定方法についての記事

タクシー運転手の残業代についての記事

固定残業代についての記事

もご参照ください。

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