新型コロナウイルス法律相談 その4 休業手当

さいとうゆたか弁護士

1 新型コロナと休業手当

現在、一部地域において新型インフルエンザ等特措法に基づく緊急事態宣言が出されています。

この緊急事態宣言に基づき対象自治体の知事が外出自粛要請などを行うことにより、あるいはそれとは別に新型コロナの影響で事業休止となる事業者が出てくると思われます。

このような事業者に雇用される従業員に対し休業手当が支給されるかどうか、極めて大きな問題です。

2 休業手当の支払要件

労働基準法は以下のとおり定めます。

第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

そこで、新型コロナの影響がある中で休業手当が出るかどうかは、「使用者の責に帰すべき事由」があると言えるかにかかってくることになります。

この点、東京地裁平成12年2月23日判決は、以下のとおり述べ、下請け会社の従業員が、天候のために元請が工事を中止する場合において、休業手当を受給できないとしています。

「控訴人は同年四月一二日までは専ら昼間に行われる土木工事に従事していたが、同月一三日から同月二○日までは被控訴人から指示されて夜間に行われる土木工事に従事したこと、仕事の段取り、作業の割り振りは使用者である被控訴人において決定すること(ママ)は本件雇用契約の合意内容となっていこと、天候次第で元請が工事を中止することがあり、その場合には控訴人に賃金が支払われないことは控訴人も分かっていたこと、以上の事実が認められるから、仮に控訴人が主張するように被控訴人から指示されなければ、控訴人が同月一三日から同月二〇日までの間は昼間に行われる土木工事に従事して被控訴人から所定の日給の支払を受けることができたとしても、その点を勘案して、同月一六日、一七日、一九日及び二〇日に工事が中止されたことが被控訴人の責めに帰すべき事由による休業であるということはできない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の平成八年四月一六日、一七日、一九日及び二〇日の休業手当の請求は理由がない。」

天候と、ウイルス感染による影響を同視できるとすれば、休業手当は支給されないという結論もありそうです。

しかし、上記東京地裁判決もあくまで下級審判決でしかありませんし、天候がダイレクトに休業に結びつくという特性のある業務に関する事例でしかありません。

また、菅野和夫著「労働法第12版」457ページは、「民法で使用者の責めに帰すべきでないとされる経営上の障害であっても、その原因が使用者の支配領域に近いところから発生しており、したがって労働者の賃金生活の保障という観点からは、使用者に平均賃金の6割の程度で保障をなさしめた方がよいと認められる場合には、休業手当の支払義務があると解される」としており、かなり休業手当が支給される範囲を広くとっています。

ですから、新型コロナウイルスの影響で休業がなされる場合でも、回避可能性がある場合には、休業手当は支給されるべきでしょう。

より具体的に言うと、補助金などを活用すれば従業員に休業手当を支給できるのに活用しない場合、リモートワークが可能なのに活用しない場合などにおいては、休業手当が支給される可能性は相応にあるのではないかと考えます。

なお、厚生労働省は、大企業に対し、雇用調整助成金を利用し、シフト制のアルバイトにも休業手当を支給するよう指導をしています。シフト制の場合でも、雇い入れ時の契約内容、実際の稼働実態等から、一定以上の時間労働させることが契約内容となっているとみることができるような場合、休業手当の支払義務が生ずる可能性がありますし、そのように解釈しても会社としては雇用調整助成金を受給できるので支障はないことになります。

3 新型コロナに感染した人の休業手当(東京女子医科大の事例)

報道によると、東京女子医科大学においては、新型コロナに感染した原因によっては、休業中は無給とするとの告知がなされているとのことです。

現在の知見において、新型コロナウイルスに感染し、他に感染させる可能性のある人が出勤すること、ましてや医療現場に出勤することは当然認められないでしょう。

しかし、業務上感染した場合、休業手当を支給しないでも構わないとされる2つの要件である「外部起因性」、「防止不可能性」を満たさず、休業手当は支給されるべきでしょう。

そして、病院等に勤務している人については、業務上感染したか、それ以外の理由で感染したか、判然としない場合が多いと思います。

ですから、純理論的にはともかく、現実問題としては、特定の感染者について休業手当を支払わないという扱いを、公平性を損なわないでなしうるのか、多大な疑問があります。

4 新潟の労働事件は弁護士齋藤裕へ

新型コロナウイルスとの関係で勤務日数が削られた場合に関する記事もご参照ください。

新型コロナウイルスをめぐる問題、労働問題でお悩みの方は、弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にお気軽にご相談ください。

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