長時間労働と劇症型心筋炎(労災)

交通事故

1 過労による心筋炎が労災として認められた事例

大阪地裁令和1年5月15日判決は、長期間にわたり長時間労働をしてきた調理師がウイルス感染による劇症型心筋炎に罹患し、死亡したことについて、業務起因性を認め、労災と認定しました。

心筋炎を労災と認めた事例は極めて珍しいと思われるため、ご紹介します。

2 判決内容

裁判所は、前提として、調理師について、1年間にわたり、平均250時間の時間外労働をしていたと認定します。

その上で、裁判所は、「ウイルスが心筋細胞に侵入した後、宿主は、自然免疫及び獲得免疫の反応によって、ウイルスを心筋細胞から排除するものの、自然免疫反応を担当する細胞が活性化されておらず、あるいは獲得免疫反応が過剰に作用するという状況において、心筋傷害や心筋細胞壊死を引き起こすなどして心筋炎を発症し、あるいは心筋炎が劇症化する」、「疲労の蓄積、慢性疲労や睡眠不足によって、NK細胞の数の減少や活性の低下、リンパ球T細胞(CD4陽性T細胞、CD陽性T細胞)の増加など、免疫力の異常が生じる」との知見を前提に、「心筋炎の発症及びその劇症化には、本件疾病の発症前12ケ月間もの長期間にわたって、平均して1ケ月当たり約250時間の著しい時間外労働を含む長時間労働への従事という、免疫力に著しい異常を生じさせることの明らかな事情が作用したと考えられる」として、心筋炎発症・増悪・死亡に業務起因性を認め、労災として認めました。

ここで注意すべきなのは、あくまで判決は、1年間にわたり250時間の時間外労働が継続したという、かなり極端な事例を前提に、心筋炎が労災になるとの判断をしたということです。

つまり、心臓疾患が労災と認められる場合の基準は、発症前1ケ月に100時間の時間外労働、あるいは発症前2ケ月ないし6ケ月にわたって1ケ月あたり80時間を超える時間外労働を行った場合とされています。

ウイルスが関与する心筋炎については、上記した心筋梗塞などの場合に適用される80時間、100時間という基準を満たすだけでは労災認定は難しいということです。

いずれにしても、ウイルス性の心筋炎という一見業務外と思われる疾患についても、長時間労働が免疫に与える影響を理由に労災を認めたこと自体は極めて画期的と言えるでしょう。

なお、その後、大阪地裁令和2年2月21日判決は、このケースについて使用者の安全配慮義務違反を認めているところです。

3 過労死は新潟の弁護士齋藤裕にご相談を

病院の事務員の過労死の記事もご参照ください。

労災、労働災害でお悩みの方は、弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にお気軽にご相談ください。

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