公立学校の教員の過労死と損害賠償(労災、公務災害)

交通事故

公立学校における教員の過重労働により多くの過労死が発生し、裁判にもなっています。

以下、裁判例を紹介します。

1 福井地裁令和1年7月10日判決

公立学校の教員については、法制上、時間外勤務を命ずることが原則として禁止されています。

そこで、公立学校の教員が過労死などした場合、教員が自主的に労働しただけであり、安全配慮義務違反、すなわち損害賠償が認められないのではないか問題となります。

この点、福井地裁令和1年7月10日判決は、公立中学の教員が過労死した事案について、校長の安全配慮義務違反、損害賠償を認めています。

公立学校教員の過労死について安全配慮義務違反を問う際に参考になるものと思われますので、以下、ご紹介します。

同判決は以下のとおり述べます。

「上記在校時間において、亡Aは、専ら、担当していた上記ア記載の業務を遂行すべく、それに必要な付随的業務である担当授業の準備、部活動指導、初任者研修の準備、保護者対応等、又は、それらに関連する事務を行っていたことが認められる(亡Aが、上記アの業務内容に関連しないことを上記在校時間に行っていたことをうかがわせる証拠はない。)。これらの事務を所定勤務時間外に行うことについて明示的な勤務命令はないが、上記ア記載の業務内容や亡アの経験年数からすれば、亡Aは、これらの事務を所定勤務時間外に行わざるを得なかったものと認められ、自主的に従事していたとはいえないから、事実上、本件校長の指揮監督下において行っていたものと認めるのが相当である」

「本件校長は、亡Aの業務遂行に関し、精神的に余裕がなく、在校時間も非常に長く、身体的にも疲労を感じていることをうかがわせる情報を得ていたのであるから、亡A又は他の教員に対する聞き取りなどにより、亡Aの所定勤務時間外の業務時間やその正確な内容把握を行えば、遅くとも9月までには、亡Aの所定勤務時間外の業務時間及び業務内容が、通常の一般労働者にととっても過重なものとなっており(これは教員であったとしても変わることはない。)、亡Aの心身の健康状態を悪化させ得るものであったことを認識可能であったと認められる。それにもかかわらず、本件校長は、亡Aに対し、早期帰宅を促すなどの口頭指導をするにとどまり、これらの事項についての把握を行った上で、亡Aの業務内容変更などの措置をとらなかったのであるから、本件校長は、亡Aに対する安全配慮義務の履行を怠ったものと言わざるを得ない」

このように、所定勤務時間内に収まらない程度の仕事をさせているときには時間外勤務について指揮監督下においたことになる、在校時間が長いなどの事情を知っていたのに業務変更などの対策をとらなかったので安全配慮義務違反がある、としています。

通常の職場における過労死の安全配慮義務違反の判断と径庭もないものであり、公立学校の教員についても一般の過労死をめぐる安全配慮義務と同様の主張立証を尽くすことが重要であることを示す判断といえます。

2 富山地裁令和5年7月5日判決

富山地裁令和5年7月5日判決は、以下のように述べ、超勤4項目以外の労働時間についても、使用者には、通常の場合と同じ安全配慮義務が認められるとしています。

「Dの時間外勤務時間数の多くを占めていた女子ソフトテニス部の顧問としての業務に関し、部活動指導が超勤4項目に含まれず、これを担当する各教員の広範な裁量に委ねられていることをもって、前記(ア)の義務に違反したとされるのは、その監督する教員に外部から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が生じていた場合に限られる旨主張する。しかしながら、Dの女子ソフトテニス部の顧問としての業務が本件中学校の教員としての地位に基づき、その業務として行われたことが明らかであることは前記(2)ア(イ)のとおりであるところ、各学校における部活動指導の位置付けや方針、教員の配置状況等に鑑み、部活動指導が当該学校の教員としての地位に基づき、その業務として行われたことが明らかな場合にまで、部活動指導とそれ以外の業務を区別して校長の上記義務の内容を画するのは相当でないし、過重な長時間労働が労働者の心身の健康を損ねることが広く知られていることに照らせば、本件において、校長の予見義務の対象を外部から認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が生じていた場合に限定すべき理由は見出し難い。」

このように、公立学校の教員だからといって過労死における安全配慮義務違反認定のハードルが上がるものではないと考えられます。

3 新潟で労災の相談は弁護士齋藤裕へ

時間外労働76時間で労災と認めた事例についてもご参照ください。

過労死、労災でお悩みの方は、弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にお気軽にご相談ください。

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