不正競争防止法の品質等誤認表示と創業年

さいとうゆたか弁護士

1 不正競争防止法の品質等誤認表示と創業年

不正競争防止法2条1項20号(旧14号)は、「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為」が「不正競争」に該当するとしています。

20号に該当する品質等誤認表示とされると、不正競争に該当するとされ、差止請求等が認められることになります。

この20号の品質等誤認表示については、どこまでの情報が対象となるのか、条文に明記されているもの以外も対象となるのかが問題となります。

それと関係して、営業の創業年が品質等誤認表示に該当するかも問題となります。

以下、解説します。

2 従来の裁判例

この論点については、和菓子店の元祖という表示が品質を誤認させる表示に該当するかどうかが争われた、大阪地裁平成19年3月22日判決が判断を示しています。
同判決は、「ある種製品を最初に製造販売した人の製品が品質が劣り、顧客層の支持がなく間もなく製造販売中止となった後に、同種製品を別の人が製造販売したところ、それが品質優良で世の中に広まったとしても、その種製品の製造販売を『初めてしだした人』は、前者である。したがって、『元祖』について、『物事を初めてしだした人』の意味に理解する場合には、これを品質についての表示とすることはできない」などとして、「元祖」という言葉は品質に関わるものではないとしました。

3 井筒八ツ橋本舗VS聖護院八ツ橋総本店訴訟の京都地裁判決

京都の八ツ橋業者である井筒八ツ橋本舗が、聖護院八ツ橋総本店に対し、元禄2年(1689年)創業という表示が事実と異なるとして表示をしないよう求めた訴訟について、令和2年6月10日、京都地裁は井筒八ツ橋本舗の請求を認めない判決を言い渡しました。
判決は、20号については、限定列挙であり、ここに記載されている以外の情報については品質等誤認表示とはならないとしました。

その上で、歴史の古さは必ずしも消費行動を左右するとはいえない、元禄2年との表示が消費者の誤解を招くとは言えないと判断し、創業年についての記載は、「品質」等を示すものではなく、品質誤認等表示にはならないとして、井筒八ッ橋本舗の請求を棄却しました。

4 井筒八ツ橋本舗VS聖護院八ツ橋総本店訴訟の大阪高裁判決

3の京都地裁判決を受けた大阪高裁令和3年3月11日判決も京都地裁判決の結論を維持しています。

同判決も、20号に記載されているもの以外について品質等誤認表示は成立しないとします。

同判決は、「品質」等を間接的に示唆する表示については、「具体的な取引の実情の下において、需要者が当該表示を商品の品質や内容等に関わるものと明確に認識し、それによって、20号所定の本来的な品質等表示と同程度に商品選択の重要な基準となるものである場合に、20号の規制の対象となると解するのが相当」とします。

さらに、その具体的判断基準として、「客観的に真偽を検証、確定することが可能な事実」のみが品質等誤認表示に該当するとしました。

そして、当該事案において、創業年を検証、確定することが困難である⇒よって、顧客も創業年についてその程度の情報としてとらえるので、創業年については品質等を誤認させるものではない、としました。

 

5 品質等誤認表示と創業年についてのまとめ

以上のとおり、20号は限定列挙として解釈される傾向があり、創業年については簡単には品質等誤認表示は成立しないと言えます。

しかし、ある程度の経験が業務の品質と結びつくような業種で、経験年数を検証できるような場合には、品質誤認等表示は成立しうると言えるでしょう。

例えば、実務経験0の弁護士や医師が、「開業20年の実績あり」等と表示した場合、それは検証可能な品質の表示であり、品質誤認等表示に該当する可能性はあるでしょう。

 

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