家事従事者の逸失利益(交通事故)

交通事故

1 家事従事者の逸失利益

交通事故で後遺障害が残った場合、基礎収入を前提に、失われた労働能力分の逸失利益が賠償の対象となります。

サラリーマンであれば給料が基礎収入となります。

しかし、主婦・主夫などの家事従事者は家事をしてお金をもらっているわけではありません。

そうはいっても、実際に就労し、家庭の中で重要な役割を果たしていることから、賃金センサスによる平均賃金分を基礎とした逸失利益が認められることが多いです(1人暮らしの場合、いくら家事をしていても、一般的には家事従事者としての扱いにはなりません)。

 

2 主婦・主夫の逸失利益額についての裁判例

女性の平均賃金をもとに逸失利益額を算定

名古屋地裁平成30年4月18日判決は、以下のとおり述べて、翻訳業で100万円前後の収入を得つつ両親の介護等をしていた女性について、女性の平均賃金である年364万1200円を前提に逸失利益を算定すべきとしました。

ここでは、収入はあるものの、それより女性の平均賃金の方が多いため、女性の平均賃金が基礎収入とされています。

「本件事故当時,翻訳業をするとともに両親の介護等をしていたもので,翻訳業の収入状況に照らすと,後遺障害逸失利益の計算における基礎収入は,平成26年賃金センサス(女・学歴計・全年齢平均)の364万1200円」を基礎収入とすべきである。」

なお、高齢の場合、全年齢平均ではなく、賃金センサスのうち、その年代の数値を基礎とすることがありえます。

 

 

 

高齢者の場合の逸失利益額

高齢で家事従事していた人については、女性の平均賃金そのものではなく、一定程度減額した賃金が基礎収入とされることが多いです。

「原告は,症状固定時に90歳の高齢者であることを考慮して,基礎収入は,原告主張の平成14年賃金センサスの女子労働者学歴計全年齢平均賃金の年収351万8200円の2分の1とするのが相当である。なお,甲7及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告が本件事故当時も家事労働に従事していたことが認められる。」

このように、女性の平均賃金に2分の1をかけた金額を基礎収入としています。

この他、高齢の家事従事者については、女性の年齢別平均賃金(70歳以上など)をもとに算定することも多いです。

例えば、東京地裁令和4年1月21日判決は、以下のとおり述べ、高齢の女性について、60~64歳の平均賃金を基準としています。

当時64歳で,年齢別平均賃金が全年齢平均賃金を下回る年齢に達しており,本件事故がなかった場合に,生涯を通じて全年齢平均賃金に相当する家事労働を行い得る蓋然性があったとまでは認め難いことからすると,Aの逸失利益は,基礎収入を死亡時である令和2年賃金センサス女性学歴計60~64歳の334万5700円」を基礎に算定すべき

家事従事者が複数いる場合

専業で家事従事している人が複数いる場合、1人あたりの家事従事量が少ないとして、賃金センサスによる基礎収入から一定割合減額されることもあります。

例えば、大阪地裁令和4年1月11日判決は、以下のとおり述べ、夫が家事を一定程度になっていた場合に、基礎収入を3割減としています。

原告は,本件事故当時73歳であり,配偶者である夫(昭和15年○○月○○日生)と二人で暮らしており,原告が家事全般を担っていたことが認められる。他方,原告の夫は75歳で退職し,本件事故当時は無職で,特に日常生活に支障を生じるような心身の問題等はなかったこと(原告19頁,20頁)を踏まえれば,原告の夫が自身の身の回りのことや原告が担っていた家事の一部を分担することは可能であったというべきである。これらの事情を考慮すれば,原告の基礎収入については,平成30年賃金センサス女子70歳以上学歴計の平均賃金296万2200円の70%に相当する207万3540円(日額5680円)と認めるのが相当である。

女性の平均賃金が基準とされることの問題

男性の家事従事者についても、現実には女性の平均賃金をもとに算定がされます。

そもそも女性の家事従事者も含め、女性の平均賃金ではなく、男女計の平均賃金で算定すべきであるとの主張は十分ありうると思います。

正社員あるいは給与収入が女性の平均賃金を上回る場合

一般的には、正社員である兼業主婦・主夫、給与収入が女性の平均賃金を上回る人については家事従事者としての逸失利益は認められません。

休業損害についてですが、名古屋地裁令和1年9月27日判決は、「反訴原告は,本件事故当時,就業しており,その年収は449万4740円(甲9)であって,女性の平均賃金を超えていたことからすると,上記アのとおり,賃金労働者としての休業損害を認めれば足り,これに加えて家事従事者としての休業損害を認めることは相当ではない。」としています。

しかし、会社での業務は非現業であるため労働能力喪失率が小さいものの、家事は現業が多いため労働能力喪失率が大きいという事態もありうると思います。

そのような場合においては、基礎収入の内訳として家事労働者としての基礎収入を認めるべき必要があると思います。

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