なぜ千葉地裁は覚醒剤密輸事件で無罪を言い渡したのか 違法収集証拠排除法則

さいとうゆたか弁護士

1 千葉地裁が覚醒剤密輸事件で無罪を言い渡し

報道によると、千葉地裁は、覚醒剤取締法違反に問われていたスロバキア国籍男性について、税関での検査過程で同意も令状もなく手荷物の解体検査をしており、重大な違法があるとして無罪を言い渡したとのことです。

なぜ違法捜査があると無罪になるのでしょうか?

2 違法収集証拠排除法則

違法に得られた証拠であっても、それが有罪であることを証明する力は現実には失われません。

しかし、違法収集証拠がそのまま証拠として使われるということになると、違法捜査を抑えることはできません。

違法捜査が指摘されたとしても、違法捜査をした警察官等が組織内で処分等されることは現実には期待できないからです。

そうであれば、違法収集証拠の証拠能力をなくして、警察官らが違法捜査をする動機をなくするのが違法捜査抑止のために重要ということになります。

このように違法収集証拠をめぐっては、真実解明と違法捜査抑止という、2つの相異なる要請が存在します。

この点、最高裁昭和53年9月7日判決は、以下のとおり述べ、真実解明にも配慮しつつ、違法捜査抑止の観点から、重大な違法がある場合に限って違法収集証拠を排除すべきとしました。

「刑罰法令を適正に適用実現し、公の秩序を維持することは、刑事訴訟の重要な任務であり、そのためには事案の真相をできる限り明らかにすることが必要であることはいうまでもないところ、証拠物は押収手続が違法であつても、物それ自体の性質・形状に変異をきたすことはなく、その存在・形状等に関する価値に変りのないことなど証拠物の証拠としての性格にかんがみると、その押収手続に違法があるとして直ちにその証拠能力を否定することは、事案の真相の究明に資するゆえんではなく、相当でないというべきである。しかし、他面において、事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、ことに憲法三五条が、憲法三三条の場合及び令状による場合を除き、住居の不可侵、捜索及び押収を受けることのない権利を保障し、これを受けて刑訴法が捜索及び押収等につき厳格な規定を設けていること、また、憲法三一条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると、証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。」

このように違法収集証拠排除について、重大な違法という要件を課すのは、アメリカ等に比べると、証拠排除を請求する側にとってはかなりハードルが高く、違法と認定しながら証拠排除はしないという裁判例も多かったものです。

少なくとも今回の千葉地裁の判決については、手荷物の解体検査という、かなり手荒い、強制性の高い処分を無令状・同意なしでしており、重大な違法があるという評価は当然ではないかと考えます。

今回の判決が同種違法捜査の抑止につながることを期待します。
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