クレーンが転倒した場合の法的責任

さいとうゆたか弁護士

1 高槻市でクレーンが民家に倒れこむ事故発生

報道によると、6月26日、高槻市でクレーンが倒れ、民家を損壊し、出火させ、女児がケガをするという事故が発生したとのことです。

事故原因についてはこれから調査がなされるでしょう。

旋回速度が速すぎたのではないかとの報道もありますが、現時点では今回の事故について誰かに法的責任があるかどうかはわかりません。

しかし、これまでもクレーン転倒事故は多く発生しており、裁判所で判断がされた事例も複数あります。

そこで、以下、一般論にはなりますが事故事例や裁判例を参考にクレーンの転倒事故における法的責任について検討します。

2 クレーン事故における法的責任についての事故事例、裁判例

厚生労働省のサイトにある「職場安全サイト」の労働災害事例では、「旋回中にホイールクレーンが倒れる」という事例を紹介しています。サイトでは、この事例について、「旋回速度が速かったため遠心力により荷が振れてしまいバランスを崩したこと」が転倒の一因とされています。再発防止策としては、運転操作が安定に及ぼす影響について関係作業者に教育を施すこととされています。

裁判例としては、例えば、四日市簡易裁判所昭和54年4月24日判決は、クレーン車が転倒し、近くにいた作業員が死亡した事故について業務上過失致死罪に問われた事件の判決ですが、以下のとおり述べ、クレーン車で作業する前には地盤の軟弱度を確認し、軟弱度に応じて鉄板を敷くなどする義務があるのに、それを怠ったため事故が発生したとして、注意義務違反を認めました。

「クレーン車の運転業務に従事するものとしては、同クレーン車の横転事故を防止するため、同クレーン車を作業位置に静止させる際、アウトリガーの接地面及びその付近の地盤の軟弱度等について関係者に問い合わせるなどして、同所地盤が軟弱であることを十分確認するなどし、その地盤の軟弱度に応じて鉄板を敷くなどアウトリガーのめり込みを防止する措置を講じ、もって横転事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り」

また、浦和地裁川越支部昭和57年2月25日判決は、やはり軟弱地盤でクレーンが転倒した事故についての損害賠償責任を問題となった事例についての判決ですが、「右認定のとおり本件事故現場は地中の埋設物を除去しそのあとを埋戻すという人工的作業を加えて普通の地盤のように作成したものであるから、民法七一七条一項にいう「土地ノ工作物」にあたるものとみることが相当である。そして前項で認定した事実にあっては右「土地ノ工作物」である本件事故現場の土地(地盤)には原告主張(6)にいうとおり「瑕疵」が存在したものということができる。」としてクレーン転倒の原因となった軟弱地盤の占有者に賠償責任を認めています。

クレーン事故が、旋回速度等運転操作について作業員に十分な教育をしなかったがために早すぎる旋回を行ったことや地盤確認義務違反により生じた場合には、クレーンを使っていた会社側には賠償責任が生じる可能性があるでしょう。また、人の死傷という結果が生ずれば業務上過失致死等の刑事責任も発生しうることになります。

今回の事故については原因はわかりませんが、速やかな原因調査が待たれます。

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