あずみの里でのドーナツによる窒息死事件で逆転無罪判決

さいとうゆたか弁護士

本日、東京高裁は、あずみの里でのドーナツによる窒息死事件で、被告人に無罪を言い渡しました。

原審の長野地裁松本支部平成31年3月25日判決は、以下のとおり述べ、ドーナツによる窒息について予見可能性を認めていました。

「被害者は,嚥下障害はないものの,認知症等の影響で食物を小分けにすることなく丸飲みにしてしまう傾向があること,自歯がなく義歯も使用していないため食物を口腔内で細かくする能力に問題があったことが認められ,本件ドーナツの大きさ,物性も考慮すると,本件ドーナツは被害者にとって窒息の危険がある食物であることが認められる。また,前記認定事実によれば,被害者の食事については,入所前のショートステイ利用時から口の中に詰め込みすぎるため見守りが必要であることが指摘され,本件施設に入所する直前に被害者宅を訪問して被害者の娘などから様子を聞きとったM1が被害者の食事について「詰め込むことが時々ある」などとしていること,入所後の看介護記録においても,詰め込み,窒息の危険があることが指摘されていたこと,被告人作成の誕生月診断でも「自力で全量摂取もかき込みあり,監視必要」と記載されていること,本件事故の約1週間前である平成25年12月4日に介護士から寿司提供に窒息のリスクがあることが指摘され,同月5日にも,小分けにしないと大きい塊のまま口に運び危険との指摘があり,同月4日の会議を受けて同月6日に窒息防止も理由の一つとして被害者へ提供する間食の形態が常菜系からゼリー系へ変更されたこと(変更理由については争いがあるため後述する。)が認められ,本件施設において被害者の介護を担当する者においては,本件当日までに,被害者が食物を詰め込むことがあることなどから窒息の危険があったと認識されていたと認めることができる。そして,被告人についても,早番及び遅番の日はCチームにおいて介護業務のみを行っており,被害者が入所した平成25年10月23日から同年12月12日までの間に早番及び遅番として10回勤務していること(H1 28,29,弁113ないし115),被告人が被害者の食事形態が全粥きざみ食であることを認識していたこと(被告人33,34),上記誕生月診断は被告人が作成したことなどからすれば,被告人においても,被害者が本件ドーナツを摂取することにより窒息が生じる危険性があることを予見することは可能であったといえる。」

NHKの報道によると、高裁判決は、ⅰ「おやつなどの間食を含めて食事は人の健康や身体活動を維持するためだけでなく、精神的な満足感や安らぎを得るために重要だ。身体的なリスクに応じて幅広く様々な食べ物を取ることは人にとって必要だ」と指摘したうえで、ⅱ「ドーナツで窒息する危険性や、死亡するとあらかじめ予測できる可能性は低く、ドーナツを提供したことが刑法上の注意義務に反するとは言えない」との判断を示したとのことです。

人が社会生活を営む上で、ある程度の危険性は許容されなくてはなりません。
特に必要性の高いものについてはある程度高い危険性も許容されなくてはなりません。
副作用が強い抗がん剤でも、抗がん効果が高ければ許容されるのも同じことです。
高裁判決は、この理を踏まえ、人にとってドーナツのような間食を楽しむことは人生を豊かにする上で重要だ(ⅰ)、よってドーナツのような間食を食べさせる行為にある程度危険性があっても許容されるべきでありドーナツを食べさせることについて抽象的に危険が予見される程度では処罰すべきではない、そして本件では処罰すべき程度の危険性の予見はなかった(ⅱ)として被告人を無罪としたのではないかと考えます。
介護において被介護者の人生を豊かにする行為が同時に危険をももたらしうる、だからといって完全に危険性を除去する場合には被介護者の人生は味気ないものとなってしまうのである程度の危険性も許容されるべきとのベースが高裁判決にあるとすれば高裁判決は妥当なものと考えます。

地裁判決でも被告人に対する非難可能性は小さいとされていたものですので、検察官には上告などをしない判断を求めたいと思います。

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