高校生が私人逮捕された件の法的問題

さいとうゆたか弁護士

1 副校長が高校生を私人逮捕との報道

報道によると、2020年7月8日、公道上でビラ配布をしていた高校生が中学校の副校長から私人逮捕されるという事件があったということです。この高校生はその後20日間の勾留までされたとのことです。

この事件については以下の2点において法的な問題点があると考えます。

 

2 私人逮捕はあったのか?

刑事訴訟法214条は、「検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察員に引き渡さなければならない」としています。

ですから、私人逮捕自体は許されることですし、副校長が逮捕することも許されることになります。

ここで逮捕とは、実力による身体の拘束をいいます。

報道では、副校長が高校生の身体を取り押さえていたわけではないという指摘もあります。

仮にそうだとすると、そもそも私人逮捕がなされたと言えるのか疑問があります。

警察の強引な捜査の責任転嫁のために私人逮捕という言葉が使われている可能性はないでしょうか?

 

3 勾留は許されるものだったか?

少年法43条3項は、「検察官は、少年の被疑事件においては、やむを得ない場合でなければ、裁判官に対して、勾留を請求することはできない」としています。

これは、高校生等が10日から20日程度でも勾留された場合、その心身に重大な悪影響がありうるだけではなく、学校生活にも重大な悪影響が生じうることを防止するための規定と考えられます。

この点、横浜地裁昭和36年7月12日決定は、「やむを得ない場合」について、「少年である被疑者が刑事訴訟法第六○条所定の要件を完備する場合において、当該裁判所の所在地に少年鑑別所又は代用鑑別所がなく、あつても収容能力の関係から収容できない場合又は少年の性行、罪質等より拘留によらなければ捜査の遂行上重大な支障を来すと認められる場合等を指称するものと解するを相当とする。」としているところです。

本件について、報道では黙秘が勾留の理由となったとされているようです。横浜地裁決定の基準を踏まえると、黙秘をしたからといって「やむを得ない場合」に該当するとは到底思われませんし、かなり安易な勾留決定がなされた可能性は払しょくできないと思います。

検察官や裁判所において、少年法の理念を踏まえた対応をしなかった可能性はあるのではないでしょうか。

 

4 最後に

今回の事件については、政治的な背景のある事件について、捜査権力が少年に対してすら許されない権力行使をした事例との評価もありうると考えます。

徹底的な検証が求められます。

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