青森の実家に帰省してビラを貼られた件の法的責任(帰省警察)

さいとうゆたか弁護士

1 青森の実家に帰省して中傷ビラを置かれたとの報道と刑事責任

報道によると、青森の実家に帰省した人について中傷ビラが貼られるという事件があったようです。

嫌がらせのビラ置き事件があった場合にはまず、名誉棄損の成立が気になるところです。

名誉棄損が成立するためには、人の社会的評価を低下させる具体的事実を摘示する必要があります。

ところが今回の中傷ビラには、人の社会的評価を低下させる具体的事実の摘示がないようです。

例えば、新型コロナ感染者であると記載するのであれば人の社会的評価を低下させることは明らかですが、そのような記載はありません。

よって、名誉棄損罪は成立しないと思われます。

侮辱罪の成立については条件次第ではありえます。

刑法231条は、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」(拘留は短期間の身柄拘束、科料は少額の金を払わせることです)としています。

侮辱罪では事実の摘示は不要です。

しかし、名誉棄損と同様、公然性の要件があります。

不特定多数の人が来るところにビラが置かれていたのであれば公然性の要件は満たすでしょうが、報道ではビラは玄関に置かれていたとされています。玄関の内側だとすると公然性はない場合が多いでしょう。外側の場合、親族以外の人からも見えるところに置かれていれば公然性の要件を満たすかもしれません。

通常人が出入りしないところにビラがおかれていたとするならば住居侵入罪の成立も問題となります。

刑法130条は、「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物、若しくは艦船に侵入し・・・三年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」としています。中傷ビラを置くことについて正当な理由があったとは言えないでしょうから、住居侵入罪成立の可能性もあります。

2 民事責任

人の社会的評価を低下させる具体的事実の記載がない以上、民事上も名誉棄損とはなりません。

ただし、住居侵入や名誉感情の侵害について慰謝料が認められる可能性はあると考えます。

 

地域の人たちが東京などから帰省する人に恐怖感を持つこと、帰ってきてほしくないと思うことなどは自然な感情ではあります。

しかし、それぞれの家には今年はどうしても帰省しなければならないという、外部からはうかがい知れない事情もあるかもしれません(死期の切迫したご親族がいるなど)。

また、それを中傷ビラという形にしてしまうと人権侵害となり、法的な責任も発生しかねません。

行き過ぎの「帰省警察」とならないよう、各人の自制が必要です。

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