わいせつ目的で人を殺した場合の刑事責任

さいとうゆたか弁護士

福岡刺殺事件で自称15歳の少年が「わいせつ目的だった」と供述したとの報道

福岡刺殺事件で、現行犯逮捕された自称15歳の少年が、「わいせつ目的だった。抵抗されたので刺した」との供述をしていると報道されています。
もちろん、少年が実際にそのような供述をしているかどうかは不明ですし、少年がそのような目的だったと断言はできません。
以下、それを前提に、わいせつ目的で人を殺した場合の刑事責任等について解説します。

強制性交か強制わいせつか

刑法には、
第百七十七条「十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。」(強制性交)
第百七十六条「十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。」(強制わいせつ)
の規定があります。
性交目的とまで言えなければ、強制性交罪は成立しません。
ですから、単にわいせつ目的で行為をしていたのであれば強制わいせつ罪の成否が問題となります。
刑法176条でいう、わいせつ行為とは、陰部に手を入れる、乳房を触るなどの行為をいいます。
そのような行為まで至らない場合でも、わいせつ行為をするために刃物で脅す等した場合には、犯行の着手ありとされ、未遂犯となります。

死の結果についてどうなるか

強制わいせつ未遂となる行為を行い、抵抗され、それを抑えつけわいせつ目的を達成するために被害者を刃物で刺し、死に至らしめた場合、強制わいせつ等致死罪に問われます(刑法第百八十一条「第百七十六条、第百七十八条第一項若しくは第百七十九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。」)。
殺意があれば、さらに殺人罪も成立することになります。

15歳の少年の刑事手続き

15歳の少年が刑罰法規に違反する行為をした場合、刑事責任能力はあるので(14歳以上は刑事責任能力あり)、刑事責任を問われることもありうることになります。
流れとしては、検察官が事件を家裁に送致し、家裁で審理を行うことになります。
その上で、家裁が必要と認めるとき、検察官に送りなおすことになります(逆送)。

逆送について、少年法は以下のとおり定めています。

「第二十条 家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。」

16歳以上の少年が被害者を殺害等した場合、原則として逆送されます(原則逆送)。逆送された場合、通常検察官が地方裁判所に起訴をし、少年は懲役刑等に処せられることになります。
しかし、15歳の少年については、被害者が死亡したとしても、原則として逆送されるということではなく、生い立ちなど様々な事情を考慮して処分が決定されるということになります。

なお、地方裁判所で判決が言い渡される段階で16歳未満の場合、少年法第五十六条3項により、16歳まで少年院で処遇されることになります。

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