ALS患者、筋ジストロフィー患者などの24時間介護をどう実現するか?

さいとうゆたか弁護士

1 ALS介護、筋ジストロフィー患者介護の現状

ALS患者等の重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者については,居宅における入浴,排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に供与する重度訪問介護制度があります(障害者自立支援法5条3項)。
しかし、重度訪問介護制度について、家族の介護があることを理由に介護量を減らすなど、十分な介護量が確保されない場合が多い、24時間介護は実際には認められにくいとも指摘されています。

この重度訪問介護制度における介護量に不満がある場合にはどうしたらいいのでしょうか?

2 裁判例

介護量に不満がある場合、審査請求という手続きで争い、それでうまくいかない場合には行政訴訟手続きで争うべきことになります。

和歌山地裁平成24年4月25日判決

この点、介護量に不満があるALS患者が争った訴訟である和歌山地裁平成24年4月25日判決は、以下のとおり述べ、1日17・5時間(介護保険分を加えると21時間)を下回る介護量は許されないと判断しました。

「原告は,ほぼ常時,介護者がその側にいて,見守りも含めた介護サービスを必要とする状態にあったことが認められる。そして,原告と同居している妻のDの年齢(平成23年度決定当時73歳)や健康状態(上記1(4))に加えて,ALSの特質(1(1)ア)及び原告の生存に必要とされる器具の操作方法(上記1(1)イウ)等に鑑みると,少なくとも1日当たり21時間分については,職業付添人による介護サービスがなければ,原告が必要十分な介護サービスを受けることができず,その生命,身体,健康の維持等に対する重大な危険が発生する蓋然性が高いと認められる。」
「ところで,上記1(5)エのとおり,原告について,1日当たり3.5時間分の介護サービスが,介護保険法による介護給付によって賄われていることが認められる。
以上の事情を総合すると,上記の裁量権の逸脱濫用の判断基準に照らし,自立支援法の趣旨目的に反しないようにするには,原告について,重度訪問介護の支給量1日当たり17.5時間,すなわち,1か月542.5時間を下回る支給決定を行わないことが,裁量権の逸脱濫用になると認めるのが相当である。

千葉地裁令和5年10月31日判決

千葉地裁令和5年10月31日判決は、以下のように述べて、ALSの患者の重度訪問介護の支給量について、1か月683.5時間を超える時間とする支給決定をするよう命じました。

・妻が単独で原告を介護している時間は、1日平均2.75時間 にとどまっており、曜日によっては妻が単独で原告を介護する時間がない日があるものの、妻は、ヘルパーが滞在する時間帯であっても介護の補助を一部行っており、介護の負担から完全に免れてはいない。

・妻は、現在、重度訪問介護等の公的サービスが提供されない時間帯を中心に原告の介護を行っているだけでなく、幼少の子の養育や家事全般を担うとともに、本件却下処分当時は、生活費を確保するために週2日アルバイトとして就労しており、家庭の負担が全て妻に集中している状況にある。加えて、妻は、介護の負担に起因して、椎間板ヘルニア等を患うとともに、適応障害や抑うつ状態、緊張型頭痛、片頭痛を患い、指定難病5 であるIgA腎症にもり患している。

・患者は、常時介助者が注視していなければならない状況ではないが、モニターのアラーム音が鳴った場合には、痰による窒息死を避けるために、家族やヘルパー等が即座に吸痰を行う必要があることに照らせば、患者の吸痰は、介護者においても高い緊張感を伴うものであり、相応の精神的負担感を有する
ものであるから、心身ともに健康な状態でなければ円滑な対応をすることはできない。

・患者については、ヘルパー等による常時介護の状態ではなく、妻が単独で原告の介護を行っている時間帯があるが、妻は、子の養育や家事を含めた家庭の一切を負担しており、患者の数年にわたる介護負担の影響もあって心身ともに健常な状態ではなく、こうした状況のもとで、平均1日2.75時間であるとはいえ、妻単独での介護の状態の時間帯において、介護疲れ等により意図せず就寝してしまった結果、モニターのアラームに気が付くことができず、適宜の吸痰の対応が行われないなど、患者の生命が危険にさらされる事態が生ずる可能性が高い。

・ ALSは、現在有効な治療方法はなく進行性のある病であるから、こうした危険性が解消される見込みもない。

裁判例の考え方

このように常時介護を受けるべき、あるいは監視しなければならない場合において、親族が十分に介護できない状況があるのであれば、24時間に近いレベルの介護量が認められることがありえます。

和歌山地裁判決の問題は、24時間介護を認めない理由付けが不明であること、親族による介護分を差し引くこととされている点です。

後者については、現状では心身に問題がない親族であっても、恒常的に介護に従事することで職業生活や心身に悪影響が及ぶ可能性があります。
ですから、親族の介護を考慮しない介護量を実現することが重要なポイントと思われます。

なお、東京地裁平成28年9月27日判決は、 デュシェンヌ型筋ジストロフィー症の患者の介護量について、介護者(父)の職業生活上の負担を考慮して、土日のうち6時間のみ考慮すべきとしていますが、全く考慮すべきではないというところまでは行っていません。

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