船長釈放「菅首相が指示」と前原前外務相証言 法的問題は?

さいとうゆたか弁護士

尖閣中国船衝突事件10年で、船長釈放の件について前原前外相が証言

産経新聞の報道によると尖閣中国船衝突事件に関し、当時の菅首相が、船長釈放について指示したとの証言をしたということです。

首相の指示で釈放がなされたいうのが本当だとすると法律的な問題はないのでしょうか?

検察庁はあくまで行政機関であり、司法機関ではありません。

しかし、検察官の権限行使に対する政治的圧力を排除し、公正な権限行使を実現する必要があります。

そこで、政治権力が検察の権限行使に対して影響を行使しうるのは、法務大臣による検事総長に対する指揮権発動だけとされています。

この点、検察庁法第十四条は、「法務大臣は、第四条及び第六条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。」としているところです。

船長の釈放はまさに個々の事件の処分に関するものです。
よって、首相が検察に影響を及ぼそうとすれば、法務大臣を通じ、検事総長に指揮権を発動すべきということになります。

この指揮権発動がなされたケースとしては造船疑獄におけるものはあります。

NHKアーカイブスの記事によると、「造船疑獄、保全経済会などの汚職をめぐって衆議院行政監察特別委はもめ続けた。こうした中、自由党・有田二郎氏に対する逮捕許諾請求が出され、請求は期限付きで可決された。一方、自由党の佐藤幹事長について検察当局は4月20日、逮捕許諾請求を決定した。しかし、犬養法相は政府与党首脳部の協議を踏まえて検事総長に対する指揮権を発動し、佐藤幹事長逮捕許諾請求延期の決定を下したことを発表した。」とされています。その結果吉田内閣は倒閣することになります。

仮に正規ルートで指揮権発動がなされたのであれば、それが適正なものかどうか国民の判断を仰ぐべきです。検察に対する指揮権発動の根拠が法務大臣の地位が究極的には民主的基盤を持っていることにある以上、国民のチェックを受けるべきは当然と考えます。造船疑獄の際もそのような判断があったのではないでしょうか。

仮に正規ルートでなかったすれば違法と言わなくてはなりませんが、その場合も正規ルートと同様の意味で国民のチェックを受けるべきです。

ですから、仮に当時菅首相の意向で船長釈放がなされたするのであれば、その経緯を明らかにしないままの釈放判断には大きな疑問が残ります。

菅首相は、そのような影響力行使があったのかなかったのか、仮にあったとしたら経過を今からでも国民に明確に説明すべきと考えます。

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