骨粗鬆症・骨密度低下と素因減額(交通事故)

1 交通事故と素因減額

もともと障害のある人が交通事故に遭い、もともとあった障害が寄与して大きな損害が発生した場合、素因減額として損害額が減額されることがあります。

骨折の原因となる骨粗鬆症も素因減額の対象となることが多くあります。

2 骨粗鬆症と素因減額

 素因減額を認めなかった裁判例

広島高裁平成28年1月22日判決は、以下のとおり骨粗鬆症により素因減額がなされるべき要件を示した上で、当該事件では素因減額はなされるべきではないとしています。

まず、広島高裁は、(骨)の脆弱性が,通常あり得る身体的特徴の個体差の域を超えて「疾患」と評価される程度に至っているかどうかを基準に素因減額をすべきか判断すべきとします。

その上で、骨粗鬆症が「疾患」と評価されるについては、「その強度が,同年齢の通常の女性の同椎体の強度(これは,通常の加齢による骨の変性,個体差を含む概念であり,骨密度が同年齢の女性の平均値を下回る者もある程度含まれる。)と比較して,その下限を下回っていたと認められる必要がある」と基準を具体化します。

そして、被害者については、骨の強度が同年齢の女性の下限を下回っていたと認めるに足りる証拠はない等として、素因減額を認めませんでした。

このように同年齢の人と比べて特に骨の強度が弱いわけでなければ素因減額は認められにくいということになります。

 

神戸地裁令和1年9月12日判決は、以下のとおり述べ、骨粗鬆症で治療を受けていた被害者について素因減額を否定しましたが、骨粗鬆症であってもなくてもケガをしうる事故態様であったことが重視されたようです。

原告に骨粗しょう症の既往症が認められ,B病院においてその治療がされたことは前記認定のとおりである。しかし,前記認定に係る本件事故の態様からすれば,原告が路上に転倒したことによって右大腿骨転子部骨折を負うことは,不自然であるとはいい難い。また,原告の年齢からすれば,20歳から44歳の骨密度平均よりも低いことは不自然なことでもなく,原告に骨粗しょう症の既往症があることが,受傷内容,治療経過及び後遺障害の発生に寄与した疾病と認めるに足りる客観的な証拠はない。

 

札幌地裁令和3年3月25日判決は、以下のとおり、骨密度の値などを理由に素因減額すべきではないとしました。

事故「時点での原告の骨密度は,若年成人比較で81%と,骨量減少との境界付近であるものの,正常の範囲内であったことが認められる。そして,このほかに,原告が本件事故前から疾患と評価すべき状態にあったとか,個体差として無視できない体質や身体的特徴を有していたと認めるに足りる証拠は見当たらない。したがって,この点についての被告の主張を採用することはできない。

以上より、同年齢の人と比べてかなり数値が悪いわけではない(厳密に言うと、悪いことの立証がない)、骨密度に関係なくケガをするような事故態様だったというような事情がある場合には素因減額は認められにくいと言えるでしょう。

 素因減額を認めた裁判例

名古屋地裁平成31年3月27日判決は、以下の事情から、骨粗鬆症も要因となった骨折について10パーセントの素因減額を認めました(被害者は66歳)。

・原告は本件事故から約1年7か月前に滑り台を滑って第1腰椎椎体の圧迫骨折をしていること(前件事故),

・本件事故後ではあるが,B病院において骨粗鬆症の治療を受けたこと

ただし、66歳という年齢であり加齢による影響もあること、骨粗鬆症の治療を受け始めたのが事故後であることを踏まえ、素因減額の割合としては,10%の限度にとどめるのが相当としました。

また、名古屋地裁平成29年6月23日判決は、以下の事情から、骨粗鬆症も要因となった63歳被害者の骨折について20パーセントの素因減額を認めました。

・原告は骨粗鬆症を原因に既に第3,4腰椎について圧迫骨折をしていたこと,

・本件事故による受傷(Th12,L5圧迫骨折)にも骨粗鬆症の影響があること,加えて後遺障害の内容(第12胸椎,第3,4,5腰椎圧迫骨折後の脊柱の変形障害)に対しても骨粗鬆症の影響が認められ,後遺障害の程度については自賠責保険で別表の8級2号に該当すると評価されていること,

・本件事故により原告が受けた衝撃の程度は相当に軽微であって,原告車の運転者Aの受傷程度や,被告が受傷していないこと

衝撃の程度が小さいこと、骨粗鬆症での受診歴や骨折歴が考慮され、素因減額がなされているということになります。

衝撃の程度が小さいのに骨折をしていること、受診歴や骨折歴は、同年齢の人と比べて骨の強度が弱いこと、加齢による影響を超えた疾患に至っていることのしるしとみることもできるでしょう。

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