小沢一郎氏の主張する国民一斉検査の合憲性

さいとうゆたか弁護士

立憲民主党の小沢一郎氏が、新型コロナについての国民一斉検査を提案し、話題になっています。

国民一斉検査が有効か、費用対効果はどうなのかという論点はあるでしょうが、とりあえずその合憲性について考えてみます。

そもそも国民一斉検査をなしうる根拠となる法律はありませんので、小沢一郎氏としては、新法を作り、国民一斉検査をすべきという主張と思われます。

国民一斉と言っても、検査を嫌がる人もいるでしょうから、そこでは強制検査が想定されていると思われます。

その際、問題となりうるのが国民のプライバシー権を侵害しないかどうかという点です。

日本国憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しています。

ここからプライバシー権が保障されると考えられます。

病気に関する情報はプライバシー情報の中でも特に秘匿性の高い情報です。

新型コロナは差別をもたらす病気でもあります。

特段の必要性がないのに、国家権力あるいは自治体が、強制的に差別の原因となる病気である新型コロナについての調査をすることは憲法の保障するプライバシー権を侵害するというべきでしょう。

この点、直接憲法判断をしたわけではありませんが、病院が採用予定者からHIV感染について確認することが許されるかどうか問われた事件についての札幌地裁令和1年9月17日判決は、以下のとおり述べ、許されないと判断しており、参考になります。

「HIV感染の事実は取扱いに極めて慎重な配慮を要する情報であるから,そのような医療機関においても,HIV感染の有無に関する無差別的な情報の取得が許容されるものではない。そして,医療機関においては,血液を介した感染の予防対策を取るべき病原体はHIVに限られないのであるから,被告病院においてもHIVを含めた感染一般に対する対策を講じる必要があり,かつ,それで足りるというべきである。現に,医療機関の参考のために作成された本件手引きにおいても,HIV感染について他の感染症とは異なる特別な対応をすべきことが提唱されているわけではなく,「職業感染対策」として,B型肝炎,C型肝炎等の感染症と並んでHIV感染対策に特化した記述がわずかに存するのみである(甲17〔21,22〕)。そうすると,医療機関といえども,殊更従業員のHIV感染の有無を確認する必要はないばかりか,そのような確認を行うことは,前記特段の事情のない限り,許されないというべきである。」
「ましてや,原告は,社会福祉士として稼働することが予定されていたのであって,医師や看護師と比較すれば血液を介して他者にHIVが感染する危険性は圧倒的に低いと考えられるし,原告が患者等から暴力を受けたとしても,原告が大量出血しその血液が周囲の者の創傷等を通じて体内に偶然に入り込むなどといった極めて例外的な場合でもない限り,これが原因で他者にHIVが感染することは想定し難いというべきである。」
「したがって,上記①及び②の主張はいずれも失当である。そして,被告病院に前記特段の事情があったとは認められないから,被告病院が医療機関であることをもって,原告に対しHIV感染の有無を確認することが正当化されるものではない。」

 

そして、新型コロナウイルスについて無症状者も含めて広く検査すべきという立場に立ったとしても、地域や行動等によりある程度リスクがある集団について任意で検査をする等のより制限的でない方法ではなく国民一斉検査をしなくてはならない必然性、特段の必然性が明らかとなっておらず、国民一斉検査については合憲性に疑問があると思います。

例えば、新潟水俣病についても、地域での一斉検診を望む声がありつつ、プライバシーへの配慮という声もあり、中々実現していないのが実情です。

小沢一郎氏の発言については、上記の法的問題や歴史的経過を踏まえているのか疑問と言わなくてはなりません。

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