医師の時間外労働と残業代・割増賃金

さいとうゆたか弁護士

1 勤務医と労働法

医師であっても、勤務医については労働基準法等の法律が適用され、時間外労働がなされた場合、残業代・割増賃金が発生します。

しかし、医師については、研修医等については修行中であるという理由で、それ以外の医師についても労働者意識が乏しいことが理由で残業代がきっちり払われない事例が多いようです。

しかし、過重労働をなくし、ワークライフバランスをはかる上でも、適切な残業代の支払は重要です。

以下、医師特有の問題に絞って残業代に関する問題について解説します。

2 医師の労働時間とは?

長崎地裁令和1年5月27日判決は、医師の労働時間について、以下のとおりの判断をしています。

ア 所定労働時間外に行う通常業務
→原則労働時間。他の医師の治療を自主的に見学していた時間は含まれない。

イ 当直業務
当直医は,当直室において待機して仮眠をとることもできるが,心臓疾患の救急患者が来院するなどした場合には速やかに対応を行うことが義務づけられており,現に,当直医の平均仮眠時間は3時間ないし6時間程度であると認められることに照らせば,仮眠時間も含めて当直業務中に労働から離れることが保障されていたとはいえず,当直業務は,全体として手待時間を含む労働時間に該当するというべきである。

ウ 看護師勉強会,救命士勉強会及び症例検討会
上司において,各医師に、講義や発表の担当を行うよう打診し,あるいは割振りを行っていたと認められるため,看護師勉強会の講義時間及びその準備時間,救命士勉強会及び症例検討会の発表時間や準備時間については,使用者の指揮命令下にある労務提供と評価することができ,労働時間に該当するというべきである。

エ 派遣講義
被告病院長の指示により派遣されるものであることからすれば,労働時間に該当するというべきである。

オ 抄読会,学会への参加及び自主的研さん
抄読会については,その内容も英語の論文の要旨を発表するというもので,心臓血管内科における症例についての検討等を内容とする救命士勉強会及び症例検討会と比較すると,業務との関連性が強いとは認められず,自主的な研さんの色合いが強かったと推認されるから,抄読会の準備時間が労働時間に該当するとはいえない。

学会への参加は自主的研さんの範疇に入るものといえ,学会への参加やその準備に要した時間は労働時間とはいえない。

自身の担当する患者の疾患や治療法に関する文献の調査は労働時間に該当するが,他方,自身の専門分野やこれに関係する分野に係る疾患や治療方法に関する文献の調査に関しては,この部分に要した時間を労働時間と認めることはできない。

カ 出張

学会への参加については自主的な研さんであるといえるから,労働時間とはいえない

大阪高裁平成22年11月16日判決は、以下のとおり述べ、オンコール時間について労働時間に該当しないとしました。

「△△病院における宅直制度は,上記のような,宿日直担当医以外の全ての産婦人科の医師全員が連日にわたって応援要請を受ける可能性があるという過大な負担を避けるため,△△病院の産婦人科医(5人)が,そのプロフェッションの意識に基づいて,当該緊急の措置要請(応援要請)を拒否することなく受けることを前提として,その受ける医師を予め定めたものであり,同制度は△△病院の産婦人科医らの自主的な取組みと認めざるを得ない。」

当直については、対応する頻度が低い場合、労働時間に該当しないこともあるでしょう。

オンコールについては、病院からの指示が認められた場合、労働時間とみなされる可能性があります。

自主研鑚については、自己の担当する患者への治療と関連する自主研鑚については労働時間と認められやすいでしょう。その病院で自己が担当する可能性が高い疾病についての自己研鑽も同様に考えるべきでしょう。それ以外でも病院がそのような自主研鑚を強く期待している状況(病院がその自主研鑚に関わる領域の専門性を高めるため、医師らに研鑚を求めているような場合)等には労働時間と認められることがあるでしょう。

3 大学病院の医師と労働時間

なお、大学病院の医師についても上記と同じことが言えますが、さらに大学病院の医師は教育・研究に関わるものであるため、

・大学の医学部等学生への講義

・試験問題の作成・採点

・学生等が行う論文の作成・発表に対する指導

・大学の入学試験や国家試験に関する事務

・これらに不可欠な準備・後処理

・以上の教育・研究と直接の関連性がある研鑽を、所定労働時間内において、使用者に指示された勤務場所等で行うこと

は労働時間に該当しうることになります(令和6年1月15日 「医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」)。

4 医師の宿日直勤務と労働時間

医師の労働時間の上限規制に伴い、多くの病院が、医師の労働について、労基法41条の規定を利用し、規制を免れようとしているようです。

労基法は、以下のとおり定めます。

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
この点、奈良地裁平成31年4月25日判決は、以下のとおり述べ、医師の宿日直時間について労基法41条の適用を排除し、労働時間としました。

同判決は、「原告らの宿日直勤務については,その全時間を通じて直ちに呼出しに応じて診療等を行うべき義務を負っており,一定程度非従事時間が存在するとしても,実質的にみて労働からの解放が保障されていた時間があったということはできないから,労働時間について割合的認定を行うことはできない。」としています。

具体的には、

・大部分の日において,宿日直担当医師は1名しかおらず,主治医等の他の医師の応援を得た場合であっても,当該医師に宿日直業務を任せて休憩を取るなどということはできなかったこと

・第二当直がある日も,第一当直の若手医師は,希望すれば第二当直の先輩医師の指導を受けられるだけで,助産師等からの呼出しに応じて対応する必要性については第二当直の導入前とほぼ同様であり,他方で,第二当直の先輩医師についても,第一当直の若手医師からの要望があればこれに応じる必要があったという点では,助産師等からの一次的な呼出しの頻度は下がるものの,結局は呼出しに応じる義務があったことに変わりはないこと

という事情から、宿日直時において労働からの解放が保障されず、労働時間だとしました。

いくら行政が断続的勤務との認定をしても、実態として労働から解放されていない時間については、労働時間とみられることになります。

4 新潟で残業代請求については弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にお気軽にご相談ください

労働時間一般についての記事もご参照ください。
労災、過労死、残業代などの問題でお悩みの方は弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にお気軽にご相談ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です