交通事故と刑事手続(交通事故被害に遭った方が刑事裁判で何ができるか?)

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 交通事故と刑事手続き

2 交通事故と犯罪被害者参加

3 被害者参加の費用の加害者への請求

 

1 交通事故と刑事手続き

交通事故の加害者が問われる責任としては、民事責任、刑事責任、行政責任(免許など)があります。

刑事責任については、警察が捜査をし、検察官が起訴をするかどうかを決めることになります。

検察官としては、不起訴、略式命令、正式裁判のどれかを選ぶことになります。

略式命令は書類だけの裁判で、結論は罰金です。

正式裁判は、よくテレビでみるような法廷で審理をし、判決を言い渡すものです。

過失運転致死傷罪に問われることが多いですが、同罪では懲役7年以下等に処せられうることになります。

正式裁判でも多くの場合は執行猶予がついて刑務所に行くことはありませんが、実刑判決となる刑務所に行くこともあります。ひき逃げの場合、前科がある場合、被害が重大な場合などに実刑が言い渡される可能性が高くなります。

2 交通事故と犯罪被害者参加

刑事手続の中で、被害者としては刑事告訴をすることができます。刑事告訴をすると被害感情が強いということになりますので、検察官としても他の事件より慎重に起訴不起訴を決める可能性があります。

不起訴になり納得がいかない場合には、被害者において、一般市民で構成される検察審査会に審査を申し出ることもできます。検察審査会の決定に基づき起訴がされることもあります。

事件が起訴されると、被害者は被害者参加をすることができることがあります。

被害者参加をしたい被害者は検察官に申し出ることになります。

被害者は法廷で検察官の近くで手続きに参加することができます。

被害者は、検察官が行う証拠調べの請求や求刑などについて意見を求めたり、検察官に説明を求めたりすることができます。

被害者は、情状に関する証人に尋問を行ったり、被告人に質問を行うこともできます。

被害者は、事実や法律の適用について意見を述べることもできます。

被害者は、これらについて弁護士に依頼をすることもできます。

3 被害者参加の費用の加害者への請求

近時、特に重大な被害をもたらした交通事故を中心に、被害者参加をする被害者や遺族が増えています。

被害者参加をするためには、旅費などとして一定の費用が発生する可能性があります(被害者参加人として心情等の意見陳述を行った場合には旅費や日当が法テラスから支払われる可能性がありますが、それで賄われないものが発生する可能性があります)。

しかし、裁判所は、基本的には、民事裁判において、それらの費用について交通事故と因果関係のある損害としては見ない傾向にあります。

例えば、東京地裁立川支部平成30年10月30日判決は、以下のとおり、被害者参加をするかどうかは被害者の意思で決めるものであるため、被害者参加に関連する費用は交通事故と因果関係を有しないとしました。

原告らは,被告に対する刑事裁判期日での意見陳述・傍聴のため,検察庁及び裁判所に出向いたこと,その交通費・宿泊費として40万1760円を支出したことが認められる。
しかし,被告の刑事裁判に被害者参加を行うことは,当該被害者の意思決定ないし意向により決するものであって,交通事故から通常生じるものであるとはいい難いから,上記費用を,本件事故と相当因果間関係のある損害と認めるには足りない。

他方、横浜地裁平成25年5月27日判決は、以下のとおり述べて、刑事事件の公判期日の傍聴のための費用を賠償の対象としています。

本件事故が死亡事故でありしかもひき逃げ事案であることを考慮すると,被告らに対する損害賠償請求の準備として被告Y1の公判期日を傍聴することも相当であると認められる。傍聴の回数は1回であり,そのための交通費の額も4万7200円であることに照らすと,上記交通費の支出と本件事故との間に相当因果関係があると認めるのが相当である。したがって,上記①及び②の合計10万6600円につき,本件事故による損害と認める。

同判決は、ⅰ 事件が重大性でひき逃げ事件でもあること(事実関係をきちんと認めない可能性がある)、ⅱ 傍聴の回数が1回であり、金額も大きくないことを理由として、傍聴のための費用を賠償の対象としていると考えられます。

このように、基本的には被害者参加のための費用の賠償は難しいのですが、例外的に認められる場合もあるので、注意が必要です。

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