学校事故についてどのような場合に損害賠償請求できるのか?

交通事故

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

第1 器械体操による事故と損害賠償

第2 学校での砲丸投げ・槍投げ・ハンマー投げによる事故と賠償責任

第3 学校や幼稚園、保育園での熱中症と損害賠償

第4 プール、水泳についての学校事故

第5 組体操と安全配慮義務

第6 ソフトボール部での活動による事故と損害賠償

第7 持久走と熱中症についての裁判例

第8 体育以外の授業中の事故(図画工作、理科)

 

第1 器械体操による事故と損害賠償

学校は、子どもたちが部活や授業中にケガをしないよう、その安全に配慮すべき義務を負っています。その義務に違反すると損害賠償責任が生ずることもあります。

大阪高裁平成29年12月15日判決は、高校の器械体操部の部員が鉄棒から落下し傷害を負った事故について学校側の賠償責任を認めています。

事故の前には、部員が倒立状態から逆回転するに至り、その後転落をしています。

裁判所は、そのような危険な状態となった場合には鉄棒から手を離して着地するよう指導すべきであった、また、コーチが鉄棒下の適切な位置に立ち危険な状況になったときには回転を止めるべきであったとし、学校側がそれらの義務を行ったとしました。

具体的には、以下のとおり述べています。

「Gコーチが,控訴人Aに対し,本件演技の通し練習に関する指導をするにあたっては,Gコーチには,控訴人Aが本件状況になった場合に鉄棒から手を離して着地する危険回避方法をとらずに他の不確実な危険回避方法(逆手を順手に持ちかえる危険回避方法や手首の返しによる危険回避方法)をとろうとすることのないように,通し練習のときであっても,本件状況になった場合には必ず鉄棒から手を離して着地するよう指導すべき注意義務があり,Gコーチには,上記事項を含まない通し練習に関する指導をしたことにつき,注意義務を怠った過失があるというべきである。」

「Gコーチには,控訴人Aが本件状況になった場合に鉄棒から手を離して着地する危険回避方法ではない他の危険回避方法をとろうとして鉄棒を逆手握りで握り続けたまま前振りになったときに,補助行為によって控訴人Aの回転を止めることができるよう自ら補助者として鉄棒下の適切な位置に立つべき注意義務があり,Gコーチには,自ら補助者として鉄棒下に立つことなく,鉄棒から約10メートル離れた位置に立って控訴人Aの演技を見ていたことにつき,注意義務を怠った過失があるというべきである。」

結果として、学校側が部員に発生した損害について賠償責任を負うものとしました。部員については1億9009万2529円の賠償責任が認められています。

参照:器械体操での事故の損害賠償義務についての大阪高裁判決

高い場所からの転落のリスク、つまり高度の障害が残るリスクのある器械体操の部活動については学校側にある程度高度の注意義務が認められるべきでしょうし、妥当な判決と思われます。

 

第2 学校での砲丸投げ・槍投げ・ハンマー投げによる事故と賠償責任

学校で、砲丸投げ、槍投げ、ハンマー投げに伴い、事故が発生することはこれまでもあり、賠償責任が問われたこともあります。

以下、ご紹介します。

目次

1 学校での槍投げに伴う事故

2 学校でのハンマー投げに伴う事故

3 事故防止のために

1 学校での槍投げに伴う事故

神戸地裁平成14年10月8日判決(<4D6963726F736F667420576F7264202D203132773239315F31342E31302E3894BB8C88816A8DC489BC96BC8F88979D8DC48C668DDA2E646F63> (courts.go.jp)は、高校陸上部の槍投げ練習中に他の部員が投げた槍が頭部に当たったという事故について、学校設置者の賠償責任を認めています。

判決は、以下のとおり、担当顧問としては槍投げの危険性を具体的に予見できた、よって担当顧問としては練習に立会い監視指導すべき義務を負っていた、それにも関わらず担当顧問が練習の場を離れたことは義務違反で、過失があるとしました。

C(顧問)は,本件事故前は,投擲パートの部員らに対し,槍を投げる際に「投げます。」などの声を掛けること,全員が槍を投げ終わってから一斉に槍を取りに行くことやCが立ち会っていないときに空中への槍投げ練習を行わないことなどの安全指導を徹底していなかったものと推認することができる。そして,Cが上記のような安全指導を徹底していれば,原告らがCが立ち会っていないのに空中への槍投げ練習を開始したり,Aが槍を投げる直前には声を掛けずに槍を投げたり,Aが槍を投げ終わる前に原告が槍を取りに行ったりすることはなく,本件事故の発生を回避することができたといえるから,Cには安全指導の徹底を怠った過失があるものというべきである。

そして,Cが上記立会義務を尽くしていれば,原告らが空中への槍投げ練習をしたいと申し出たとしても,これを制止するか,又はこれを許す場合でも,安全に十分配慮することにより,本件事故の発生を回避することができたといえるから,Cには上記立会義務に違反した過失があるものというべきである。」

2 学校でのハンマー投げに伴う事故

名古屋地裁平成31年4月18日判決は、県立高校の陸上部の部活動のハンマー投げの練習中,投てき動作中の部員のハンマーのワイヤーが破断して,近くにいた被害者にハンマーのヘッド部分が当たったという事故について、学校側の賠償責任を認めました。

判決は、学校側には、「ネットの配置について工夫をして出入口を投てきサークルと一直線にならないように設け」る義務、「仮にハンマーが飛んできても安全性が確保される場所を待機場所として選定し,当該場所での待機を本件陸上部の部員に指示する義務」があったのに違反があったとして賠償を認めました。

3 事故防止のために

槍投げ、砲丸投げ、ハンマー投げでは、頭部などに当たれば重大事故になることは容易に想定されます。

よって、高校生などが行うについては顧問などの立会いを必須とすること、安全な位置関係などを学生に指導すること、事故防止のため適切な設備を設けること等は当然要請されるところであり、それぞれの裁判例で裁判所が過失を認めたのは穏当かと思います。

同様の事故防止のため、各学校では立会いなどの徹底を行うべきでしょう。

第3 学校や幼稚園、保育園での熱中症と損害賠償

目次

熱中症と学校・保育園・託児所側の賠償責任 生徒9名が熱中症疑いで救急搬送

熱中症を発症させたことについての法的責任に関する裁判例

熱中症を発症した後の対応に関する裁判例

熱中症と学校・保育園・託児所側の賠償責任 生徒9名が熱中症疑いで救急搬送

学校での部活動や保育園・託児所で熱中症により重篤な障がいが残る事例が多くあります。

2021年6月9日には、高校の体育授業中、生徒9人が熱中症疑いで救急搬送されたと報道されています。

学校、保育園、託児所等において発生した熱中症についての法的責任について判断した裁判例も多くあります。

熱中症を発症させたことについての法的責任に関する裁判例

バドミントン部の部活中の熱中症についての賠償責任

例えば、大阪高裁平成28年12月22日判決は、市立中学の生徒がバドミントン部の部活中に熱中症となり、脳梗塞を発症したという事案について、学校側の損害賠償責任を認めています。

裁判所は、学校側には、部活動の過程で温度計を設置し、その温度を確認しながら部活動の実施の可否、内容及び程度を決定すべき義務があるとし、最終的に裁判所に義務違反を認めたものです。日本体育協会の熱中症予防指針において、気温を把握した上で運動の中止についても配慮するとされていたことなどが根拠とされています。

なお、この訴訟で、学校側は、「部活動の指導教諭を監督する立場にある被控訴人中学校長には温度計を設置すべき義務があり、部活動の過程でWBGT等の温度を把握すべき義務があるとすると、部活動の指導教諭は、部活動の過程で常に温度計の示す温度を確認しながら、部活動の実施の可否、内容及び程度を決定すべきことが義務付けられることになるが、これは、本件事故発生当時を基準とすれば、個別部活動の活動実態を無視した余りに硬直的な判断であって不当である」と主張していました。

それに対し、裁判所は、「スポーツ活動中の熱中症を予防するための措置を講ずるには環境温度を認識することが前提となり、その把握が極めて重要であることは、平成二二年当時において学校関係者に既に周知されていたと認められるから、被控訴人中学校長には部活動を行う室内又は室外に温度計を設置すべき義務があり、部活動の過程でWBGT等の温度を把握することができる環境を整備すべき義務があったと解しても何ら不当ではないというべきである。」と学校側の主張を排斥しているところです。

託児所での熱中症の賠償責任

また、宇都宮地裁令和2年6月3日判決は、託児所で幼児が熱中症で死亡した事故について、

・施設側が、生後9か月の乳児を3日間暑熱環境下においたこと

・3日目には体温が38度を超え、熱中症の症状を呈していることを認識したのに、水分補給や受診等の措置を取らなかった

という状況で、施設側の賠償責任を認めています(特別の立ち入り調査をしなかった市の賠償責任も認められています)。

参照:宇都宮地裁判決について詳しく知りたい方は熱中症発生の賠償責任についての宇都宮地裁判決をご覧ください。

熱中症により死亡や重度障害という重大な結果が生じかねないことから、学校・保育園・託児所は、温度計の設置、子どもにおいて熱中症の症状を呈したときの水分補給や受診等の対応を取らなければならず、それらが履行されない結果、損害が発生すると、損害賠償責任が生じうることになります。

熱中症を発症した後の対応に関する裁判例

神戸地裁令和4年11月30日判決は、持久走後、生徒が意識障害を起こしたのに、教諭において保健室に連れていくなどの措置をとらず、結果として生徒が転落事故を起こしたという事案について、学校側の賠償責任を認めました。

同判決では、

ⅰ 生徒が持久走後、体操服が汚れるのを意に介さず、雨でぬかるんだグラウンドに仰向けやうつぶせで寝そべって、着ていた体操服の半袖シャツ等を泥まみれにしたこと

ⅱ 当該生徒が他の生徒から体操服が泥まみれであることを指摘されると、「気づいたらこうなった」と答え、ぶつぶつ独り言を言ったり、薄笑いを浮かべたりし、その後、上履きを履かずに教室に戻っている

等の事情を踏まえ、生徒には発熱による意識障害があった、教諭もそれを認識しえたとしました。

その上で、生徒が自らの体調を適切に判断して独力で保健室に行くことは難しい状態にあったものであるため、教諭としては、そのような状態の生徒を一人にすれば、その生命・身体に危険が生じる可能性があることを予見できた、よって教諭には、生徒を一人にせず、保健室に連れて行き、養護教諭に引き渡すという注意義務があったとしました。

しかし、その義務が果たされなかったとして、学校側に賠償義務を認めました。

熱中症については、学校等には発症していないかどうか気を配る義務があるのです。

第4 プール、水泳についての学校事故

小学生や園児がプールで溺死した事件については少なくない裁判例が出されています。

目次

園児が溺死したことの賠償責任についての裁判例

学校でのプール事故についての裁判例

園児が溺死したことの賠償責任についての裁判例

園側に動静監視義務違反があるとした横浜地裁判決

近時のものとしては、横浜地裁平成29年4月13日判決があります。

同判決は、幼稚園のプール授業中に園児が溺死した事件についてのものです。

同判決は、担任教諭の責任について以下のとおり述べます。

「被告Aには,④組の担任として,園児を監視し,その生命身体の安全に配慮すべき義務があったにもかかわらず,本件事故当時,プールサイドに散乱したビート板・遊具の片付けに気を取られ,本件プール内の園児の動静を注視せず,この義務を怠ったという過失があったということができる。」

このように担任教諭については、プール内の園児の動静に注視する義務違反があったとし、過失を認めています。

しかし、園長についての義務違反は認めませんでした。

ご遺族は、園長らについて,①指導教育義務違反,②監視体制構築義務違反があると主張しました。

しかし、判決は、指導教育義務は果たしていたなどとして園長の義務違反を認めなかったのです。

しかし、結論としては、園長には代理監督者として、園を運営する法人には使用者責任として賠償責任が認められています。

園側の動静監視義務違反と認めた大阪地裁判決

その他、大阪地裁昭和62年3月9日判決も園児のプールでの死亡事故について賠償責任を認めています。

同判決は以下のとおり述べています。

「監視者としては事故防止のためいささかの気の緩みも許されないとの厳しい心構え、使命感をもつてその実行に遺漏のないよう期すベきであつたにもかかわらず、被告らの右知識が抽象的・観念的なものにとどまつていたことと軌を一にすること、そして、これらのことは、公平を自己の監視下に置いていた被告中井が他の監視者の誰にも声をかけずにその場を離れ、また、プールサイドにいた被告青木を始め他の監視者らのいずれもが、右被告中井及び同被告の監視下にあつた園児らに対して注意を払わず、被告中井が意識不明の公平を抱きあげて急を知らせるまで、公平の行動に全く気付いていないことに明瞭に現れているといえるのであり、以上の事実によると、本件事故は、被告中井・同青木ら前記監視担当四教諭らの過失により右事故を防止できなかつたものであること、すなわち、同被告らは過失に基づく共同不法行為者としての責めを免れず、さらに、同被告らの右不法行為が被告学園の業務遂行中にされたこと明白であるから、被告学園は右被告らの使用者として不法行為責任を免れえないから、右被告らと共同不法行為責任を負うベきことになる。」

つまりここでも動静注視を怠っていたことが責任原因とされています。

園児が溺死する危険性を考慮すると、園側にはプールで園児を泳がす際には常時かつ高度の注視義務があるといえるのです。

学校でのプール事故についての裁判例

飛び込み事故と損害賠償

奈良地裁平成28年4月28日判決は、プールでの飛び込み事故に関し、浅い水深のプールについて安全性を欠くと判断しました。

具体的には、「飛び込み事故の発生を防止するための最低限度の基準として,水深1.00~1.10m未満のプールにおいては,水面上の高さが0.30mを超える地点からの飛び込みを行わせるべきではない旨を定めたものと解され,これに適合しないプールは,飛び込みを行って使用するプールとしては,通常有すべき安全性を欠くものと推認するのが相当である。」として、当該プールに安全性がなかったとして賠償責任を認めました。

プールでおぼれた事故と損害賠償

京都地裁平成26年3月11日判決は、小学校低学年生徒がプールでおぼれた事故について学校側の賠償責任を認めています。

具体的には、「最深部水深が110センチメートルの状況で,上記のような区分措置もとらないまま,69名の児童を自由遊泳させるというのであれば,ここで最も重要となるのは,担当3教員全員が,それぞれ異なる角度から本件プール全体を見渡せる位置を取り,すべての児童の動静に満遍なく気を配り,動きに異変のある児童を見落とすことがないよう監視することである。」、「低学年児童が立っても顔を水面から出せないプールは,児童の生命に及ぼす危険度が高いから,要求される監視義務も相応に厳しいものになるのは当然であろうと思われる。」とした上で、動静監視を適切に行っていないとして賠償責任を認めました。

プール授業等では、適切な人数の監視を配置し、かつ、それぞれが監視に集中しなくてはならないのです。

第5 組体操と安全配慮義務

報道によると、神戸市教育委員会は、運動会の組み体操で51人が負傷し受診し、6人が骨折したとのことです。

組み体操については、つとにその危険性が指摘されてきており、裁判所でも問題とされてきています。

例えば、名古屋地裁平成21年12月25日判決は、以下のとおり述べ、学校側は、組み体操の危険性を踏まえ、組み体操において児童を危険から回避等させる注意義務があるとしました。

「4段ピラミッドは,最上位の児童は,2m以上の高い位置で立ち上がる動作を行い,かつ,安定するか否かは,3段目以下の児童の状況にかかってくるもので,落下する危険性を有する技であるから,指導をする教員は,児童に対し,危険を回避・軽減するための指導を十分に行う注意義務があると共に,最上位の児童を不安定な状況で立たせることがないように,最上位の児童を立たせる合図をする前に,3段目以下の児童が安定しているか否かを十分確認したり,不安定な場合には立つのを止めさせたりし,児童が自ら危険を回避・軽減する措置がとれない場合に補助する教員を配置するなどして児童を危険から回避させたり,危険を軽減したりする注意義務があり,これらの義務を怠った場合には過失があるというべきである。」

その上で、同判決は、以下のとおり述べ、児童が不安定な状態にあることを察知し、適切な対応をすべきであったのに、それを行なわなかったとして、学校側に注意義務違反を認めました。

「本件事故の際,A1が,本件4段ピラミッドの3段目以下の児童の不安定な状況を適確に把握して,合図を出すのを止め,あるいは,A1らが,本件4段ピラミッドの付近に教員を配置し,上記の状況を把握して組立てを途中で止めさせていれば,原告は,本件4段ピラミッドから転落することはなかったものと認められるし,A1らが,本件4段ピラミッドの付近に教員を配置していれば,落下する原告を受け止めたりすることによって,本件負傷を防ぐことができたものと認められる。」

神戸市で事故が多発していることからすれば、判決が指摘したような安全対策も実施されていない可能性があるといわざるを得ません。

組体操については、漫然と続けることをやめ、子どもの安全優先で実施するかどうか慎重に考えるべきです。

第6 ソフトボール部での活動による事故と損害賠償

京都地裁令和1年10月24日判決は、市立高校のソフトボール部員がノック練習中に小指を負傷したという事故について、監督教師に過失があるとして、市に損害賠償責任を認めました。

学校事故、スポーツ事故、ソフトボール事故の法的責任を考える上で参考になる裁判例と思われるのでご紹介します。

同判決は、以下のとおり述べ、監督教師の責任を認めました。

「監督教師が原告を本件ノック練習に参加させるに当たり、原告が何度も痛みを訴える程度に左手親指を負傷していることを認識していたにもかからわず、監督教師は、本件ノック練習への参加の可否について原告の判断に任せただけで、原告の負傷について聞き取りを行うなどの配慮をしたとは認められない」

「監督教師は、原告を本件ノック練習に参加させるに当たり、原告の負傷の状態に照らして更なる負傷の可能性を高めないようノックの強さを調節するなど練習内容を工夫したとも認めることができない」

「そうすると、原告の捕球能力が他の部員よりも高く、本件事故前に原告が同程度の強度の打球を捕球できていたことを考慮しても、指導に当たった監督教師において原告に対する安全面への配慮に欠けるところがあったというべきである」

このように、技能は十分にある生徒であっても、負傷をしている場合には、監督としては、きちんと負傷の状況を確認すること、負傷状況に合わせたノックとすべきであったことが義務付けられていたということになります。

このような義務に違反したため、監督教師には義務違反があり、市に損害賠償責任があるとされています。

もともと負傷をしていない生徒であっても、技能が未熟な生徒に対しても、ノックを調整するなどの義務が認められ、そのような調整をせずに生徒がケガをした場合、同じように市の責任が生ずると考えられます。

第7 持久走と熱中症についての裁判例

学校の体育等での持久走・ランニングをめぐる事故の多くは熱中症に関係するものです。

学校での体育等におけるものではありませんし、学校側の責任を問題としたものでもありませんが、大阪地裁平成27年4月17日判決は、タレント養成学校所属生徒が、駅伝リハーサル中に熱中症となった事件について、放送会社側の賠償責任を認めています。

同判決は、

ⅰ 会場の気温,相対湿度及びWBGT等を計測していなかったことは,熱中症の危険の指標となる環境条件の測定を怠ったことになる

ⅱ 遅くとも1回目の試走終了後,被害者に熱中症が疑われる症状が発現したことを認識したか,又は認識し得たのに、2回目の試走を中止しなかった

として、2回目の試走中に発生した熱中症について、放送会社側に賠償責任を認めました。

このように、持久走やランニングをさせる者には、熱中症になりやすい環境かどうかのチェック、熱中症を疑わせる状況となった場合の中止措置等が義務付けられることになります。

第8 体育以外の授業中の事故(図画工作、理科)

体育以外の授業中でも生徒がケガなどをすることがあります。

例えば、小学校の図画工作の時間に、小4の生徒がマイナスドライバーで作業をしていたところ、そのマイナスドライバーがすべって、前にいた生徒の眼にあたったという事故について、大阪高裁令和5年1月12日判決は学校側の義務違反を認め、損害賠償を命じました。

同判決は、教諭には、図工の授業において、「その使用方法によっては危険を生じさせる可能性の金属類が含まれているから、児童がこれらを適切に使用することができるように、児童の理解度や習熟度に応じて、教諭が適切に指示した上これを監督すべき注意義務がある」としました。

その上で、教諭には、マイナスドライバーでの作業中に近づかないこと、作業をしている生徒は周りに他の生徒がいないことを確認した上で行うべきことを説明すべき注意義務があったものの、これを果たさなかったとして、義務違反を認めたのです。

また、静岡地裁沼津支部平成1年12月20日判決は、理科の授業中に、生徒が、教諭の指導どおり、アスベスト金網を使わず、カスバーナーで直接過酸化水素水の入った試験管を加熱したところ、試験管が爆発したという事故について、教員の義務違反と自治体の損害賠償責任を認めました。

判決は、過酸化水素水を直接ガスバーナーで加熱するのは危険であるため、教諭には過酸化水素水を加熱する際にはアスベスト金網を使うべき義務があったものの、その義務を怠ったとしました。

このように、工作、理科などにおいては、危険物を取り扱うことがあるので、教諭は事故が発生しないよう指示や監督の義務を負っており、それを怠って事故が発生した場合には設置者において損害賠償義務を負うものです。

 

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