執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
1 インターネット上の書き込みと法的対応
2 名誉棄損とは?死亡後はどうか?(木村花さん死亡後に賠償を認めた事例)
5 発信者情報開示請求の対象となる情報 ログイン情報の取扱い
8 インターネットの書き込みの削除・発信者情報開示の依頼は弁護士に
9 新潟でネット・SNSの書き込み被害のご相談は弁護士齋藤裕へ
1 インターネット上の書き込みと法的対応
インターネット上の書き込みにより現在でも多くの被害者が苦しんでいます。
インターネット上で匿名の者から書き込みされた、それが名誉棄損やプライバシー侵害,名誉感情の侵害、肖像権侵害、著作権や著作者人格権侵害に該当する場合、発信者情報の開示手続き、削除手続き、損害賠償手続きをすることができる可能性があります。
削除請求は、ネットで直接行う場合もありますが、仮処分や裁判により求めることもあります。
発信者情報の開示については、やや複雑なので、別項で解説します。
2 名誉棄損とは?死亡後はどうか?(木村花さん死亡後に賠償を認めた事例)
どのような場合に名誉毀損となるか?
発信者情報の開示や削除を求める場合、権利侵害の存在が必要となります。
その典型は名誉棄損です。
名誉棄損とは、人の社会的評価を低下させる情報を不特定多数の人に見られる状態に置くことです。
名誉毀損における不特定多数とは具体的にはどういうことか?
名誉毀損の要件の不特定多数については、具体的に何人くらいに知られる状態なら該当するのか明確な基準はありません。
あえて言うなら、流布先が5人以内なら多くの場合名誉毀損に該当しないとは思われますが、6人以上なら常に名誉毀損と言えるわけではありませんし、5人以内でも名誉毀損となる可能性があります。
直接的にはごく少数の相手方に流布されたに過ぎない場合であっても、そこからさらに情報が流布される可能性があるとして、不特定多数性が認められることがあります。
例えば、東京地裁令和6年7月18日判決は、フェイスブックによる名誉毀損表現の流布について、流布先が「特定少数であったとしても、本件各投稿の内容が特定の空手道場の信用性や安全性に疑義を呈するものであることを考慮すれば、上記者が、本件各投稿の内容を空手関係者に流布するおそれがあることを認めることができる。」としています。参照:不特定多数要件についての裁判例
このように重大な事項についての名誉毀損であるとか、流布先の立場から流布先から情報がさらに拡散されることが想定される可能性がある場合には、直接には特定少数者に情報が伝えられたにすぎない場合でも名誉毀損が成立する可能性があります。
名誉毀損と同定可能性
名誉毀損が成立するには、ある表現が特定の被害者についてのものであると認識しうるものであることが必要です。
この判断については、「一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈」すべきものと考えられます。参照:名誉毀損についての判例
例えば、東京地裁令和6年7月18日判決は、被害者について「道場主」としか記載されていない事例において、他の箇所で「道場主」についての説明があり、それと合わせれば被害者を同定可能であるとして、名誉毀損を認めています。
また、被害者とイラストの同定可能性が問われた事件で、東京高裁令和4年11月10日判決は、裁判所は、イラスト上のセリフ、容貌の類似性等から同定可能性を認めています。参照:名誉毀損における同定可能性についての裁判例
名誉毀損と違法性の阻却
名誉毀損に該当する表現でも、公共の利害に関する事柄について、公益目的があり、真実性(あるいは真実と信じるについて相当な理由の存在)もあると、名誉棄損があっても違法性がないとされ、発信者情報の開示や削除、賠償請求は認められないことになります。
真実を基礎にした論評・意見にも違法性はないことになります。参照:真実性があるとして論評に名誉毀損に違法性がないとした裁判例
時の経過と名誉毀損の違法性
公共性は時の経過とともに失われる可能性があります。
名古屋地裁令和6年8月8日判決は、出資法違反により有罪判決を受けた人についての記事について、5年の執行猶予期間が終了し、さらにその後4年半経過した後には、公共性が失われるとしています。参照:時の経過とともに公共性が失われるとした裁判例
亡くなった人と名誉毀損の可能性
また、名誉棄損は生きている人について認められるものです。
しかし、亡くなった人の名誉が侵害された場合でも、遺族の敬愛追慕の情が侵害されたとして不法行為が成立する場合があります。
例えば、東京地裁平成23年6月15日判決は、「死者の名誉を毀損し,これにより遺族の死者に対する敬愛追慕の情を,その受忍限度を超えて侵害したときは,当該遺族に対する不法行為を構成する」としています。受忍限度を超えるかどうかは、「当該行為の行われた時期(死亡後の期間),死者と遺族との関係等のほか,当該行為の目的,態様や,摘示事実の性質,これが真実(又は虚偽)であるか否か,当該行為をした者が真実であると信ずるについて相当な理由があったか否か,当該行為による名誉毀損の程度等の諸事情を総合考慮して判断すべき」とされています。
2021年5月19日、東京地裁は、木村花さんが亡くなった後でなされた中傷投稿について賠償を命じましたが、これも敬愛追慕の情侵害によるものと考えられます。
3 発信者情報開示の手続き
発信者情報の開示手続きは、プロバイダ責任制限法という法律に基づき、書き込んだ人の個人情報を明らかにする手続きです。
手続きは大きく2つあります。
発信者情報開示のための従来からの方法
まずは、掲示板やSNSなどに発信者のIPアドレスや携帯電話番号の開示などを交渉で求めます。この段階で開示してくれる場合もありますが、任意に開示してくれない場合、仮処分などの法的手続きをとることになります。
そしてIPアドレスなどが開示されると、今後は携帯電話キャリアなどのプロバイダに、IPアドレス等に対応する個人の氏名などの開示を求めることになります。
この段階では、任意に開示されることはあまりありませんので、仮処分・本訴訟を起こす必要性が高いです。
携帯電話会社のシステムなどの関係で個人情報が特定されないことも稀ではありません。
最終的に本訴訟で書き込んだ人が特定されると、その人に対する損害賠償請求を検討することになります。
発信者情報開示命令事件
令和3年プロバイダ責任制限法改正により、
ⅰ 裁判所が開示命令の申し立てを受けた場合に、開示命令より緩やかな要件でコンテンツプロバイダに経由プロバイダ名称等を被害者に提供することを命ずる(提供命令)、
ⅱ 被害者は、判明した経由プロバイダに対し、発信者情報開示命令の申し立てを行う、
ⅲ コンテンツプロバイダと経由プロバイダに対する開示命令事件が併合審理される、
という仕組みができました。
参照:プロバイダ責任制限法
発信者情報を明らかにする必要性
削除請求だけだと、再度書き込まれる可能性があります。
ですから、再発防止という観点では、発信者情報開示までする必要があります。
4 発信者情報開示請求の要件
発信者情報開示請求においては、被害者において名誉棄損の事実だけではなく、書き込みに真実性がないこと等の立証までする必要があると考えられています。
しかし、この真実性がないことの立証はときに困難で、あまり厳密に考えると被害者救済の範囲を不当に狭めることになるので、ある程度簡易な立証でもよいと考えるべきです。
この点、東京高裁令和2年12月9日判決は、以下のとおり、被害者側が真実性がないことを立証するのはそれほどきちんと立証しなくても良いとしていますが、妥当というべきでしょう。
「プロバイダ法4条1項が,発信者の匿名性を維持し,発信者自身の手続参加が認められていない手続法の枠組みの中で,発信者の有するプライバシー権や表現の自由等の権利ないし利益と権利を侵害されたとする者の権利回復の利益をどのように調整するかという観点から,前記のとおり権利侵害の明白性の要件が設けられ,違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないこと,すなわち,違法性阻却事由の不存在が必要であるとされているとしても,この立証責任の転換によって,被害者である控訴人におよそ再度の電話勧誘をすることはなかったという不可能に近い立証まで強いることは相当でない。その意味で,プロバイダ法4条1項で定める「権利侵害が明らか」という要件について,権利侵害された被害者が発信者に対して損害賠償請求をする訴訟における違法性阻却事由の判断と完全に重なるものではないと解され,再勧誘の可能性が全くないことまで請求原因として立証することを要しないというべきである。」
5 発信者情報開示請求の対象となる情報 ログイン情報の取扱い
書き込みをした際のIPアドレスなどを取得しがたい場合、アカウントへのログイン時のIPアドレスなどを請求し、発信者を特定することがありえます。
従来、このようなログイン時情報についての発信者情報開示請求については裁判で結論が別れることもありましたが、令和4年10月1日施行の改正プロバイダ責任制限法でログイン情報について開示請求できることが明記され、現在では一定の範囲内で認められることに争いはありません。
ログイン情報の開示請求ができるのは「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に限定されます(プロバイダ責任制限法施行規則5条2号)。
問題は、この「相当の関連性」の範囲ですが、最高裁令和6年12月23日判決は、
ⅰ 時間的に侵害情報の送信と最も近接するログインに係る情報について相当の関連性が認められる
ⅱ それ以外のログインについては、あえてその通信にかかる情報の開示を命ずる必要がある場合に相当の関連性が認められる
との判断を示しました。
具体的な事案においては、投稿した者を特定しうる中でもっとも侵害情報の送信に近い日時のログインにかかる情報について相当の関連性が認められるとしました。
このように、ログイン情報については、原則として書き込みに最も近い時期のログイン時のIPアドレスなどが開示の対象となり、それでは発信者を特定できないような場合には次に近い時期のログインにかかるIPアドレスなどの開示が命じられるということになりそうです。
6 ネット書き込みと損害賠償・謝罪広告
ネット書き込みにより名誉毀損されたり、プライバシー侵害があった場合、加害者に対し損害賠償請求をなしうることになります。
その金額ですが、被害者の社会的立場(これが高いほど賠償額が大きくなる)、名誉毀損等の表現内容、それが流布された範囲(閲覧数等)、名誉毀損等の回数等により金額が違ってきます。
数万円しか賠償が認められないこともあります。
大阪地裁令和5年12月19日判決は、ツイッター上での約10の書き込み(人殺し、犯罪者、ヤブ医者)との書き込みをした場合について、慰謝料30万円を認めました。参照:ネット上の書き込みについて損害賠償を認めた裁判例
しかし、例えば、東京地裁令和3年3月18日判決は、書き込み内容が社会的評価に大きく影響しうるものであったこと、投稿が4回なされたことなどを踏まえ、慰謝料100万円を認めています。
また、発信者の特定には相当額の費用がかかりますが、その一部については賠償が認められる可能性があります。
例えば、上記東京地裁令和3年3月18日判決は、弁護士費用108万のうち、94万5000円の賠償を加害者に命じています。
しかし、これは、脅迫行為等もあった事案であり、慰謝料の総額は200万円となっています。よってやや特殊な事案と言えます。
現実には、実際に要した調査費用のごく一部の賠償しか認めない事例が多いと思います。たとえば、東京地裁平成30年1月10日判決は、調査費用108万円のうち、50万円のみの賠償を認めています(慰謝料80万円)。上記大阪地裁令和5年12月19日判決では、約14万円の調査費用を要したとの主張がされていましたが、裁判所が認定した調査費用にかかる損害額は1万4000円、つまり1割だけでした。
悪質なケース等では、損害賠償の他に謝罪広告の掲載が認められることもあります。
しかし、現実には、記事の削除や損害賠償が命じられたことで救済は十分とされ、謝罪広告までは命じられないケースが多いです。参照:謝罪広告を認めなかった裁判例
7 ネット上の書き込みの削除請求
ネット上の書き込みについては、それが名誉毀損等の違法なものである場合、削除請求することができます。
これは書き込んだ者だけではなく、SNSや掲示板の管理者等にも請求できることになります。
最高裁の昭和61年6月11日判決(北方ジャーナル事件)は、「表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかである
うえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実体的要件を具備するときに限つて、例外的に事前差止めが許されるものというべき」としています。参照:最高裁北方ジャーナル事件判決
同判決は、「公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等の表現行為に関する」ものであるため、かなり要件が厳しいですが、実際にはより緩やかな要件で判断されることになります。
例えば、東京地裁令和5年10月16日判決は、
・被告には当該記事についての削除権限があること
・記事が原告の名誉を毀損するものであり、これが削除されない限り、上記名誉毀損が継続することとなること
・他方、本件記事の削除によって被告に何らかの不利益が生ずるとはうかがわれない
ことから、名誉権に基づく削除を認容しています。参照:ネット上の記事の削除を命じた裁判例
削除は各サイトで設置されたフォームなどをもとに削除請求したり、所定の様式の手紙を出したりして削除請求します。
それでは削除されない場合には訴訟等の手段をとることになります。
特に迅速な対応が必要な場合には削除の仮処分を申し立てることもあります。
8 インターネットの書き込みの削除・発信者情報開示の依頼は弁護士に
被害者の苦しみにつけこみ、削除や発信者情報の対応をすると広告している業者もいます。
この点、東京地裁平成29年2月20日判決は、インターネット上でのネガティブ情報への対処を業とする会社と契約した人がその代金相当額の返金を求めた訴訟において、そのような契約は弁護士法72条に違反し無効だとしました。弁護士以外の業者による書き込み対応業務は違法となる可能性があるということです。
書き込み削除や発信者情報請求などの対応は法律事務であり、弁護士が適法に対応することができます。
9 新潟でネット・SNSの書き込み被害のご相談は弁護士齋藤裕へ
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