執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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目次
地震と損害賠償
第1 地震被害と損害賠償
目次
宮城沖地震についての裁判例
宮城県沖地震についての裁判例
大阪北部地震では、女の子が倒壊した塀のために亡くなるなど、痛ましい事件が発生しました。
この点、ブロック塀の倒壊の危険性は宮城県沖地震のときから問題とされていました。宮城県沖地震では、男児が倒れてきたブロック塀の下敷きとなって即死するという事件が発生しています。
ご遺族は仙台地裁に損害賠償請求を起こしました。
しかし、仙台地裁昭和56年5月8日判決は、震度5程度の地震が仙台市近郊で通常生ずることが想定される最大級の地震である、よって震度5の地震に耐えうる安全性がないことが明らかでない限りブロック塀に瑕疵があったとはいえない、実際には震度5を超える地震であった可能性があったのでブロック塀に瑕疵があったとはいえないと判断しました。
判決の言葉は以下のとおりです。
「仙台管区気象台で最近五〇年間に観測された仙台市における地震のうち、震度四以上のものは別表(一)のとおりであつて、これによると、仙台においては過去において震度六以上の地震の観測例はないことが認められ、右に加えて建築基準法施行令八八条において水平震度が○・二と定められていたこと等の諸事情を考慮すると、本件ブロック塀築造当時においては、震度「五」程度の地震が仙台市近郊において通常発生することが予測可能な最大級の地震であつたと考えるのが、相当である。」
その上で、震度5を超える地震により塀が倒壊した可能性があったとして賠償責任を否定しました。
参照:震度5を超える地震について法的責任を否定した仙台地裁判決
このように、震度5を超える地震で塀が倒壊しても、法的責任は発生しないという判断基準となっています。
東日本大震災時の液状化をめぐる裁判例
ところが、その後、構築物の倒壊については、必ずしも震度だけではないという知見が認められるようになっており、裁判所も単純に震度だけを基準とはしないようになっています。
東日本大震災後の地盤沈下についての裁判例である東京地裁平成27年1月30日判決は、「同じ震度5強程度の地震であっても,本件液状化被害をもたらさないもの(通常の継続時間の地震で,これまで想定され,予見されてきた地震)と,もたらすもの(長い継続時間の地震で,これまで想定されず,予見されていなかった地震)があり,本件液状化被害は正に後者に当たる本件地震によって発生したものと認められるから,被告には,本件液状化被害を発生させる原因力となるような震度5強の地震が発生し,これによる本件液状化被害が発生することにつき予見可能性がなかったものと認められる。」として、震度5での地盤沈下についても、長時間継続の地震については法的責任が発生しないとしています。
このように、地震により構築物が倒壊した場合には、震度だけではなく、継続時間等も含め、それが予見可能なものだったか等により法的責任が判断されることになります。
第2 台風被害と損害賠償
東京地裁平成17年7月22日判決は、風速毎秒54・9メートルの風が観測され、屋根材などが落下したという事故について、従来落下などがなかったこと、風速50メートルを超える強風で落下したため瑕疵があったとは言えないとして賠償責任を否定しました。
他方、東京地裁平成27年4月13日判決は、以下のとおり述べ、毎秒33ないし39メートル程度の強風により足場が崩落した事故について、周囲にあるビルにより強風が発生する環境にあったのに対策を講じなかったとして、建物所有者に賠償責任を認めました。
「本件事故は,本件台風によって発生した強風によって発生したものであるところ,本件解体工事は,台風が襲来することが予想される6月ないし7月頃に行われていたものであったこと,周囲に高層ビルがあるなどの本件隣接建物周辺の状況に照らせば,本件解体工事を請け負った被告Y1は,台風の襲来等によって,相当程度の強風が発生することを予見し,これにも十分に耐えられる強度で足場等を設計し,設置する義務があったというべきである。」
「それにもかかわらず,被告Y1は,本件足場について,毎秒28.6メートルの風速を基準に設計し,また,本件台風の接近後も本件隣接建物との連結を強化する措置等をとるように下請業者に指示せず,そのために,上記速度を超える強風によって本件事故が発生したものであって,被告Y1が,本件解体工事においてとるべき必要な注意義務を怠った結果,本件足場が倒壊するなどの本件事故が発生し,本件建物の外壁等が毀損するなどの被害が生じたというべきである。」
このように、かなりの強風による落下であれば責任が認められない可能性はありますが、かなりの強風による落下であっても、そのような強風が想定できる状況下であれば賠償責任が認められる可能性があります。あくまで責任は一律ではなく、各地域地域、各時代時代において、どの程度の強風が想定されるかによって違ってくることになります。そして、昨今のように強い台風が頻繁に来襲する状況においては、建物所有者などに今までより強い注意義務が課される可能性があるといえると思います。
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