交通事故による死亡時の逸失利益について(新潟の弁護士が解説)

交通事故

1 死亡交通事故の逸失利益

交通事故で死亡した場合、労働能力が失われたことを理由として逸失利益の賠償が認められることがあります。

この逸失利益は、基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数という計算で導かれます。

2 死亡交通事故の逸失利益算定における基礎収入額

通常の基礎収入額の算定

基礎収入額は、現実の年収額が基礎となります。

しかし、30歳未満の若者については、全年齢平均の賃金センサス(統計)に基づいて基礎収入を算定します。

会社役員については報酬のうち全部分が労務の対価とは言えず、利益配当といえる部分も含まれる場合があります。

ですから逸失利益の基礎となるのは労務対価部分だけです。

将来の昇給と基礎収入額

将来の昇給については、公務員など、昇給が確実な場合には考慮されることがありえます。

札幌地裁令和6年2月6日判決は、公務員について、「普通地方公共団体の行政職員という職務の性質に加え、被災者の従前の昇給の経過からしてその勤務成績が良好であったと評価できることに照らすと、被災者死亡当時、被告において被災者と同等又はより上位にあった行政職員の給与の平均額である738万1574円を被災者の基礎収入とすることは合理的であり、相当と認められる」としているところです。

定年後の基礎収入額

定年から67歳になるまでの間について、現在の収入より低い金額を基礎収入額とすることはありえます。

他方、退職金が減額することなどを加味して定年後についても基礎収入の減額をしない裁判例もあります(札幌地裁令和6年2月6日判決)。

家事従事者、学生、無職者と基礎収入額

家事従事者については賃金センサスをもとに基礎収入が算定されることになります。

1人暮らしの場合には家事従事者とは認められないことに注意が必要です。

学生などについては賃金センサスをもとに基礎収入が算定されることになります。

無職の高齢者については、年金収入が逸失利益とされる場合があります。

年金と逸失利益をご参照ください。

3 生活費控除

生活費控除とは、生きていれば生活費がかかったはずであるところ、死亡したためにそれがかからなくなったとして、損害額から一定割合を控除するものです。

後遺障害などに基づく逸失利益の賠償請求の場合には基本的には生活費控除はされず、死亡した場合の逸失利益特有の処理と言えます。

公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2018」159ページ以下によると、一家の支柱については被扶養者1人なら40パーセント、被扶養者2人以上の場合30パーセント、それ以外の女性は30パーセント、男性は50パーセントとされています。

ただし、成人に近い子どもがいる場合、扶養される期間が長くないとして、生活費控除率が高くされる場合もあります。

年金については生活費控除率が高くなる傾向があります。

生活費控除

をご参照ください。

4 就労可能年数

就労可能年数は、通常は67歳までとされます。

67歳を超えて就労している人については、平均余命までの年数の半分就労しえたものと考えます。

しかし、これは実際の就労状況や職種によって異なる可能性があります。

なお、年金の場合は、死亡時まで受給できたはずなので、平均余命までの年数で計算することになります。

5 中間利息控除

ライプニッツ係数による処理は、将来受け取るべき賠償額を現時点で受け取ることによる被害者側の利益(加害者側の損失)を年利5パーセントにより調整をするものです。

これは中間利息控除と言いますが、改正民法が施行されると扱いが異なってきます。

交通事故でお悩みの方は弁護士齋藤裕(新潟県弁護士会所属)にお気軽にご相談ください。

6 内縁の場合の死亡逸失利益

内縁の場合の死亡逸失利益

もご参照ください。

7 退職金の取扱い

被害者が死亡したことにより、勤務先から受給する退職金額が定年まで勤務した場合より減る可能性があり、その場合にはその差額について逸失利益として請求できる可能性があります。

具体的には、(定年時に受給すべき退職金から中間利息控除をしたもの)−(支払済の退職金)となります。

定年時に受給すべき退職金から中間利息控除をするため、(定年時に受給すべき退職金から中間利息控除をしたもの)−(支払済の退職金)がマイナスとなることもありえます。

このマイナスについて、他の損害項目から控除すべきかが問題となります。

この点、高松高裁平成30年1月25日判決は、退職金についての逸失利と給与逸失利益などの損害項目には同質性がないため、マイナスについて他の損害項目から控除すべきではないとしています。

なお、被害者が若年である場合、退職金の逸失利益が認められない可能性があります。

名古屋地裁令和3年10月15日判決は、「消防職の平均勤続年は18.9年であり,一方,消防職給料表にみられる消防職の職員構成は,1級から3級の平均勤続年が13.6年未満の層と4級から8級の平均勤続年が30年前後の層とに二極化していると認められる。これらによれば,本件事故当時24歳であった亡Aが定年まで勤め,定年退職金を受領する高度の蓋然性は認められない。したがって,原告らが主張する退職金は本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。」として、定年まで勤務する蓋然性が高くないことを理由に、24歳の被害者について、定年時支給の退職金にかかる逸失利益を否定しています。

他方、松山地裁令和3年6月4日判決は、20歳の被害者について、「①20代後半から30代前半の職員が退職者の4割を占めていること(乙10),②愛媛県警における平成25年から平成31年度に退職した女性警察官の勤続年数が3.47年であること(乙19),③愛媛県警において平成10年から平成15年までに採用された女性警察官の退職率は平均すると35.8%もあること(乙19)などからすれば,定年退職時までの就労継続の蓋然性は認められない」との被告の主張にもかかわらず、定年時支給退職金についての逸失利益を認めています。

裁判所の判断も一貫性があるとは思われず、とりあえず定年時退職金について逸失利益の請求をするという姿勢で行くべきかと思います。

8 新潟で交通事故のご相談は弁護士齋藤裕へ

交通事故でお悩みの方は弁護士齋藤裕にご相談ください。
まずはお電話(025-211-4854)か、メールでご連絡ください。

交通事故についての一般的な記事

弁護士費用はこちらの記事

もご参照ください。

さいとうゆたか法律事務所トップはこちらです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です