僧侶の僧衣での運転は許されないのか?

報道によると、福井県で僧侶が僧衣で運転をしていて、青切符を切られたとのことです。

福井県道路交通法施行細則は以下のとおり定めます。

第十六条 法第七十一条第六号の規定により車両等の運転者が守らなければならない事項は、次に掲げるものとする。
三 下駄、スリツパその他運転操作に支障を及ぼすおそれのある履物または衣服を着用して車両(足踏自転車を除く。)を運転しないこと。
 この点、新潟県道路交通法施行細則では、以下のとおり定めています。

 

第12条 法第71条第6号の規定に基づき、車両等の運転者が遵守しなければならない事項を次の各号に掲げるとおり定める。

 (2) げた、木製のサンダルその他運転に支障を及ぼすおそれのある履物を履いて自動車又は原動機付自転車を運転しないこと。

 

ですから、新潟県道路交通法施行細則では僧衣での運転は禁止される余地はないことになります。

しかし、今回の問題は道路交通法施行細則でどこまで規定できて、何が禁止されるのかを考える上で重要な問題を提起していると思います。

さて、福井県道路交通法施行細則16条のもととなる道路交通法71条6号の規定は以下のとおりです。

第七十一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
六 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項
 道路交通法は道路における危険を防止するために必要な事項を道路交通法施行細則で定めることを認めています。
 よって、福井県道路交通法施行細則が運転に支障を及ぼすおそれのある衣服で運転をすることを禁止していること自体は適法と考えられます。
 あとは、僧衣が「運転捜査に支障を及ぼすおそれのある衣服」に該当するかどうかの問題です。
 ここで、新潟県道路交通法施行細則に関する参考になる裁判例があります。
 東京高裁昭和39年6月29日判決は、ぞうりが新潟県道路交通法施行細則の「運転に支障を及ぼすおそれのある履物」に該当するかどうか争われたケースで以下のとおり判断します。
被告人坂大は、ヤマハ、一九六〇年型、一二五C、Cの第二種原動機付自転車の運転に、当裁判所昭和三八年押第一四七号のぞうりと同種のもの(爪先が約一糎、踵の方が約二糎の厚さで、材質は堅目のスポンジが主となつていて、上側がビニール、底が合成樹脂、緒は外側が布、中は麻である)を用いたというのである。当審鑑定人ヤマハ発動機株式会社技術員津村重行の鑑定の結果によれば右原動機付自転車を右ぞうりを用いて運転しても、運転操作の妨げとはならないことが認められ、後記倉地、佐藤各鑑定人の鑑定の結果も同様である。
 次に、被告人井口は、チヤンピオン、五五C、Cの第二種原動機付自転車の運転に、当裁判所昭和三八年押第一四六号のぞうり(爪先が約一糎、踵の方が約二糎の厚さで、材質はスポンジが主で表と底にゴムが張つてあり、緒は外側がゴム、中は麻である)を用いたというのである。当審鑑定人ブリジストンタイヤ株式会社チヤンピオンサービス課技術員佐藤宗明の鑑定の結果によれば、前同様、右自転者を運転するに際し、右ぞうりを用いても運転操作の妨げとはならないことが認められ、前記津村、後記倉地各鑑定人の鑑定の結果も同じである。
 さらに、被告人中沢は、スーパーカブ、五〇C、C第一種原動機付自転車の運転を、当裁判所昭和三八年押第三三三号のぞうり(台は平均に約一糎、台、緒とも一体化したゴム製のものである)を用いたというのである。当審鑑定人本田技研工業株式会社技術員倉地祐治の鑑定の結果によれば、右自転車を右ぞうりを用いて運転しても、運転操作の妨げとならないことが認められ、前示、津村、佐藤各鑑定人の鑑定の結果も、また、同様である。
 以上各認定に反する当審鑑定人の鑑定の結果、各件についての原審証人の供述等は採用できない。検察官提出の全証拠を以てするも右各認定を覆し得ない。
 以上の次第で本件各ぞうりはいずれも前記細則第一六条第一項第二号に該当しないものといわなければならない。
 このとおり、鑑定の結果、ぞうりを履いて運転をしても運転操作の妨げにはならないとして、ぞうりを履いての運転は新潟県道路交通法施行細則違反とはならないと判断しています。
 これは僧衣が「運転捜査に支障を及ぼすおそれのある衣服」に該当するかどうかを判断する上でも参考になります。
 刑事事件では無罪推定の原則が妥当します。ですから、本来は、福井県警において、鑑定や調査に基づき、僧衣を着て運転すると事故が生じうるという説明をすべきであり、それがない以上、僧衣を着ての運転について福井県道路交通法施行規則違反に問うことは許されなかったと考えます。
 検挙された僧侶や仏教界が違反を争い、明確な判断が示されることを期待しています。

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