執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)
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後遺障害等級が認められたときに、どのくらい慰謝料が払われるのか、以下、解説します。
目次
1 後遺障害等級1級の場合の慰謝料
1 後遺障害等級1級の場合の慰謝料
交通事故で後遺障害等級1級が認定された場合の慰謝料について、赤本では2800万円が基本とされています(参照:後遺障害1級で2800万円を認めた判決)。
しかし、実際には、近親者の慰謝料も含めたとき、それをかなり上回ることがあります。
後遺障害等級1級で後遺障害慰謝料4000万円を認定した事例
例えば、東京地裁平成15年8月28日判決は、以下のとおり述べて、後遺障害にかかる慰謝料計4000万円を認定しています。
○原告春子は、本件事故当時、二一歳の独身女性であり、何ら落ち度がないにもかかわらず、若くして高次脳機能障害、左片麻痺、右眼喪失等の極めて重大な後遺障害を負い、生涯にわたり常時介護を要するに至ったこと、頭蓋骨が陥没し外貌についても著しい醜状が残ったこと、現在でもなお服薬を怠れば脳痙攣を起こして死亡する危険性を有していること等を総合考慮し、後遺障害慰謝料は三二〇〇万円を相当と認める。
○原告両親の唯一の子である原告春子は、前記のように、本件事故によって、生死の境をさまよったばかりでなく、若くして、高次脳機能障害、左片麻痺、右眼喪失、著しい外貌醜状等の重大な障害を負った上、現在でもなお死亡する危険性を有しており、原告春子の受傷による原告両親の精神的苦痛は察するに余りある。また、原告両親は、自ら営んでいたクリーニングの取次店を実質的に廃業して、原告春子の介護に当たっており、今後とも、本件事故がなければ享受できたであろう自分自身の生活上の歓びを犠牲にして、原告春子の介護につき老齢に至るまで中心的役割を担わざるを得ない。そして、原告両親は、原告春子が指示に従わなかったり、従ってもなかなかそれを実行に移せないのを見て、原告春子を叱咤し、時には叩くなどの行為に及び、その後で自らを責めるようなことを繰り返し、その度に本件事故のことを思い出さざるを得ないという状況にあるが、このことからも推察されるように、介護による原告両親の精神的負担も極めて重い。以上を総合すれば、原告両親は、原告春子の死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被ったものというべきであり、原告両親の固有の慰謝料として各四〇〇万円を認めるのが相当である。
このように症状の程度、年齢、被害者側の落ち度の有無、関係者の思いなどが考慮されていることが分かります。
単に後遺障害等級だけではなく、被害の実態に迫った立証をし、適正な慰謝料額を認定させることが重要です。
後遺障害等級1級で高齢者の慰謝料を低額にした事例
なお、高齢者については、2800万円を下回る慰謝料額となることもあります。
例えば、福島地裁平成30年9月11日判決は、以下のとおり述べ、78歳の被害者が1級の後遺障害を負った事案において、慰謝料額を2000万円としました。
「原告は,本件事故により身体障害者等級1級に相当する後遺障害を負っているものの,原告が78歳であり,平均余命が13.21年(平成26年簡易生命表・女・78歳)であること及びその他諸般の事情を考慮すれば,後遺障害慰謝料は2000万円と認めるのが相当である。」
また、高松高裁平成29年11月8日判決も、64歳の被害者の後遺障害慰謝料を2500万円としています。
しかし、高齢者については逸失利益が必然的に低くなります。さらに慰謝料も大幅減額することは著しく高齢者以外とのバランスを失することになります。高齢者についても、慰謝料については最低限2800万円の支払を求めることを基本的姿勢とすべきでしょう。
2 後遺障害等級2級の慰謝料
交通事故で被害に遭い後遺障害が残った場合、等級に応じた慰謝料が認められます。
いわゆる赤本によると2級の場合は2370万となります。
しかし、具体的事情により、これより高い慰謝料が認められることもあります。
後遺障害等級2級で3450万円の後遺障害慰謝料を認定した事例
例えば、鹿児島地裁鹿屋支部平成21年1月29日判決は、以下のように述べ、計3450万円の慰謝料を認定しています。
「(本人の慰謝料)
別表第一第2級1号の自賠責保険金の額が従来の1級と同じ3000万円に設定することに鑑みれば、別表第一第2級1号は従来の1級相当の後遺障害である。
また、原告X1は、高次脳機能障害・脾臓摘出・脊柱の変形障害の各障害を負っており、障害の程度は極めて重篤である。
従って、原告X1の後遺障害慰謝料は3000万円が相当である。」
「(近親者の慰謝料)
原告X2・原告X3は、それぞれ原告X1の父・母である(甲第60号証)。
原告X1は、本件事故により別表第一第2級1号という死にも比肩すべき重篤な後遺障害を残し、介護が必要な状態となった。大切に育ててきた長男が重度の後遺障害を負ったことにより、原告X2・原告X3は、甚大な精神的苦痛を被ったのであり、その慰謝料は各1000万円が相当である。」
ややあっさりした認定ですが、被害者は症状固定時15歳でした。
後遺障害等級2級で後遺障害慰謝料3050万円を認定した事例
2級で3000万円前後の慰謝料となるのは被害者が若いケースが多く、年齢は大きな要素と考えられます(東京高裁平成28年11月17日判決では、症状固定時70歳の被害者及び近親者に計3050万円の慰謝料を認めました。しかし、この事案では、近親者の介護負担の重さに触れつつ、「控訴人がいったんは被控訴人車両との衝突を認めながら,その後,不自然不合理な弁解を繰り返してこれを否認していること等を考慮し,慰謝料は,控訴人X2につき250万円,控訴人X3及び控訴人X4につきそれぞれ150万円を相当と認める。」として、慰謝料算定について加害者の不合理な弁解が考慮されているという特殊性があります)。
若い年齢で複数の重篤な後遺障害をかかえて生きていかなければならない状況となった被害者本人と近親者の苦痛を反映した慰謝料ということができるでしょう。
場合によっては、後遺障害が被害者本人や近親者に与える具体的苦痛について適切に主張立証することが重要です。
3 後遺障害等級3級の慰謝料
交通事故で後遺障害等級3級に認定された場合、後遺障害にかかる慰謝料は赤本では1990万円とされています。
しかし、諸般の事情から、これを上回る慰謝料が認められることもあります。
後遺障害等級3級で2200万円の後遺障害慰謝料を認定した事例
例えば、東京地裁平成18年3月29日判決は、併合3級の後遺障害のある事案について2200万円の慰謝料を認めています。
同判決はその理由について、「前記認定にかかる原告の重い高次脳機能障害の内容,程度のほか,眼の障害や日常生活に影響が大きいそしゃく障害,さらに症状固定時32歳の女性である原告が外貌に著しい醜状を残したことによる精神的苦痛を考慮すれば,後遺障害慰謝料としては上記金額が相当である。」と述べています。
判決の述べる現在の症状は以下のとおりです。
「現在においても,歩いているとふらつく,長い時間立っていることができない状態があるほか,記憶力が低下し注意力が散漫になった,行動が緩慢で何をするにも時間がかかる,コミュニケーションを取るのが難しいなどの状態がみられ,普段は外出せず,ほとんど横になっている。通院の際には,途中で横にならなければならず,帰宅後は疲れて寝てしまう。さらに,原告は,意見の違いがあるときには,いらだって,Fに対して暴力を振るうことがある。忘れっぽくなっているため,これまでにも,やかんを火にかけたままにして忘れたことがある。平衡機能障害のため立ち仕事ができず,家事はほとんどできない状態である上,物が二重に見えたり,見える範囲が狭いので,家の中でも危ないと思うことがある状態である。
他方,食事,トイレ,更衣,洗面は自立しており,お金を持たせてもすぐには使わない,他人との話は通じる,などの面においては支障は見られない。原告は,病院へは,Fが付きそうこともあるが,1人で行くこともあり,美容院にも1人で行くことができる。現在は,松葉杖や車椅子は使用していない。
また,そしゃく状況報告書によれば,原告には,いか,たくあん,こんにゃく,ピーナッツなど食べられない物があり,全部軟らかくして,小さくきざみ,よく煮ないと食べられない,前歯が使えないからかみ切れない,奥歯のみで食事をしているという状態である。」
このように、後遺障害の生活面に与える影響が大きいこと、被害者の年齢が若かったことが2200万円という慰謝料に結びついたと考えられます。
場合によっては、単に後遺障害等級が3級というだけではなく、その生活への支障を具体的に主張立証する必要があるのです。
4 後遺障害等級4級の慰謝料
交通事故で後遺障害等級4級の後遺障害が残った場合、民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準では、1670万円の慰謝料が発生するものとされます。
もちろん、これは目安であり、事情によって、これを上回る慰謝料が認められることもあります。
例えば、福岡高等裁判所那覇支部平成23年11月8日判決は、以下のとおり述べて、後遺障害等級4級の場合に慰謝料2000万円を認めています。
「前認定のとおり、控訴人は本件事故により右下腿切断、右肩関節機能障害、骨盤変形障害(併合4級)の後遺障害を負った。
上記後遺障害が重篤であることは多言を要しないものであるところ、証拠によれば、控訴人は症状固定まで約2年にもわたる長期の入院と数次の手術を余儀なくされ、症状固定後も幻肢痛に苦しんだこと、平成23年3月まで長期間にわたって△△大学医学部を休学せざるを得ず、学業及び将来の資格取得に多大なる影響を受け、より一層の精神的苦痛を被っていると認められる。これらの事実に加え、被控訴人が本件事故の態様について事実に反する主張をして責任を回避しようとする対応に終始し、これにより控訴人が更なる精神的苦痛を被ったことが窺われることを勘案すると、控訴人が本件事故により被った上記後遺障害に係る精神的苦痛を慰藉するに相当な金員は2000万円であると評価される。被控訴人は被控訴人及びその家族が何度か控訴人をお見舞いしたことを指摘するところ、お見舞いをしたからといって事実に反する主張をすることが許されるわけではない。」
このように、後遺障害の程度や影響、加害者が事実と異なる弁解をしたことで被害者がさらに精神的苦痛を被ったことが考慮されています。
後遺障害等級4級の場合に限らず、後遺障害がいかに被害者の人生にとって悪影響を与えているか、加害者の弁解や事故態様の問題性を指摘することが重要なのです。
なお、同判決では、症状固定までの長期入院などを慰謝料の考慮要素としています。
しかし、それは入院・通院の慰謝料にあたり考慮されるべきものであり、後遺障害の慰謝料として考慮されるべきものではないように思います。
いずれにしても、入院・通院時の苦痛も慰謝料としては反映されるので、この点の主張立証もきちんと行うべきでしょう。
5 後遺障害等級5級の慰謝料
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻2019によると、交通事故で5級の後遺障害が認定された場合の慰謝料は1400万円が目安とされます。
しかし、実際には、事情により、これより高額の慰謝料が認められることもあります。
例えば、大阪地裁平成7年7月14日判決は、5級の後遺障害等級の事案で、後遺障害慰謝料1750万円を認定しています。
そこでは、以下のような後遺障害が残ったことが理由とされています。
「原告は、同年七月一一日、症状固定の診断を受けたが、その際の症状は、自覚症状が、歩行障害、学習能力の低下で、精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果は、①運動機能は、前頭葉失調による歩行バランスが悪く(階段昇降は手すりが必要)、関節可動域、筋力としてはほぼ正常域だが、肩関節にやや機能障害を認める。②知能は、CTスキャンで、左前頭葉、側頭葉に低吸収域を認め、萎縮があり、IQは八〇(総合評価としては下位レベル)、特に計算は、二桁程度の和差算、乗除算が可能で、短期記銘力に問題がある。③EEGは、ほぼ正常範囲であるが、時々徐波を認める。とのことであって、他に、頭部に長さ二〇センチメートル、幅一センチメートルの脱毛部位を認め、頸部に長さ四センチメートル×幅一センチメートルの気管切開瘢痕を認め、右そけい部に、一センチメートル×一センチメートルのケロイドが認められ、これらの障害は、今後改善の見込みはなく、問題は、歩行障害(失調歩行)、知能低下であると判断された。」
「現在、原告は、□□高校定時制に父親ないし兄の車による送り迎えによって通学しているが、歩行障害は残存し、Bが腕を貸しても八〇〇メートル程度しか歩けず、一人で歩行できるのは五〇メートル程度で、ちょっとしたことで転倒し、階段も、手すりを持って一段ずつ上がる状態で、一人でバスの昇降もできず、しゃがんだり、立ち上がることができないので、和式トイレは使用できない。また、授業にも、ほとんどついていっていない状態で、会話の速度は遅く、込み入った内容の説明はできず、ほどんどBとしか会話せず、Bからみて、文字を通じての理解力は、小学校三、四年生程度しかないものである。」
判決は、優秀な中学生だった被害者が、事故後、小学生程度の理解力しか有しなくなったとしています。
これに加え、被害者の年齢、すなわち後遺障害による苦しみを長年月味わわないといけないことも考慮されたのではないかと考えます。
後遺障害の程度、被害者の年齢をきちんと主張立証し、適切な慰謝料を認定させることが重要です。
6 後遺障害6級の場合の慰謝料
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準 上巻 2019(いわゆる赤本)によると、後遺障害等級6級の場合の慰謝料の目安は1180万円とされています。
しかし、実際には、これを上回る慰謝料額が認められることもあります。
例えば,仙台地裁平成20年3月26日判決は、以下のとおり述べて、慰謝料1400万円を認めています。
「後遺障害慰謝料 認容額・1300万円
前記認定のとおり,本件事故により原告X1に残った後遺障害は,併合して自賠責等級6級に定める後遺障害に相当する程度である。
しかし,原告X1は,前記認定のとおりの状況で,市民センターでの勤務を続け,日常生活を送ることはできているが,それまでの温厚で,意欲的に仕事に取り組む人柄から著しい人格の変化を強いられた。そのために,本格的な再就職,長らく単身赴任のため別居していた家族との円満な同居生活,趣味など,勤務先を退職したときに考えていた希望のほとんどすべてをかなえることができなくなったのであり,その後遺障害の程度だけでなく内容も含めて検討すると,その被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は前記金額とみるのが相当である。」
「近親者固有の慰謝料 認容額・100万円
原告X2は,長らく単身赴任のため別居していた原告X1との円満な同居生活を楽しもうとした矢先,本件事故により,生活が一変し,温厚だったはずの原告X1から,それまで振るわれたことのない暴力を振るわれたり,暴言を言われながら,人格の変化を強いられた原告X1との生活を余儀なくされている。このことに,原告X1が本件事故により負った傷害,残った後遺障害の程度,生活の状況,原告らの年齢,原告X2のこれまでの苦労,負担,将来に対する不安感などを併せて考慮すると,原告X2が多大な精神的苦痛を被っていることは容易に想像できる。この苦痛は原告X1の生命が害された場合にも比肩できるといえる。原告X2は,民法709条,710条に基づいて,自分の権利としてこの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料を請求できると解する。そして,その慰謝料は100万円とみるのが相当である(横浜地裁平成6年6月6日判決・交通事故民事裁判例集27巻3号744ページ参照)。」
慰謝料は被害者本人分と親族分に分かれます。
被害者本人分については、仕事上家庭生活上の悪影響が理由として高額の慰謝料が認められていることが分かります。
親族分については、被害者の人格変容による暴力が慰謝料の理由とされています。
このように、後遺障害自体のみではなく、それが仕事や家庭にもたらす影響をきちんと指摘することで、適切な慰謝料が認定されることもあるのです。
7 後遺障害等級7級の慰謝料(交通事故)
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻2019では、後遺障害等級7級の場合の慰謝料の目安は1000万円とされています。
しかし、具体的事情によっては、これを超える慰謝料が認められることもあります。
例えば、東京地裁平成20年7月22日判決は以下のとおり述べます(顔面醜状及び疼痛の後遺障害が生じた事案です)。
「後遺障害に関する慰謝料については,既に認定した原告の後遺障害の内容・程度等のほか,本件事故は,見通しのよい道路を通常に走行中の原告運転の原動機付自転車の後部から被告運転の普通自動車が規制に係る最高速度を時速20キロメートル以上超過して衝突したという態様のもので,被告は,本件事故の発生から1時間半以上を経過した時点に実施された飲酒検知においても,呼気1リットル中に0.45ミリグラムのアルコールが検知される状態だったのであり,衝突の衝撃はフロントガラスが割れる程度の強いものであって,交通事故が発生したことは明らかと見られる状況であったにもかかわらず,所要の救護等の措置をとらずに現場を立ち去ったことが認められ,上記の証拠によれば,被告は後に反省して警察に出頭し,相応の刑事処分を受け,200万円の損害賠償金の内払をした等の事情が認められるものの,このような事情を考慮しても,なお,本件事故の態様は悪質なものであるといわざるを得ないこと,さらに,原告は本件事故の発生した当時に20歳代の未婚の女性であり(原告),既に認定したとおり本件事故の結果として原告が高校生のころ以来希望していた職業に就くことを断念するに至ったこと等をしんしゃくし,上記に関する慰謝料の金額としては,1250万円をもって相当と認める。」
ここで、高校生のころから希望していた職業に就くことを断念したというのは、海外旅行の添乗員を希望していたものの、諦め、勤務していた旅行会社も退職したことを指します。
このように、加害者が飲酒運転をしていたこと、救護義務を果たさなかったこと、後遺障害のために被害者が希望の職業に就職できなくなったことを踏まえ、1250万の慰謝料を認めています。
特に加害者に悪質性が見られるケース、後遺障害により通常より大きな影響が生じたと思われるケースにおいては、丁寧にそれらの事情を主張立証し、損害額に適切に反映させていくことが重要ということかと思われます。
8 後遺障害等級8級の場合の慰謝料
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019(いわゆる赤本)によると、後遺障害等級8級の場合の慰謝料は830万円とされています。
しかし、事情により、これより高額な慰謝料が認定されることもあります。
例えば、大阪地裁平成17年1月31日判決は、以下のとおり述べて、8級の後遺障害の慰謝料として1200万円を認めています。
「原告の後遺障害は併合して等級表8級に該当するが,女性でありながら生涯にわたり人工肛門を装着しなければならないこと,骨盤骨の変形によって,産道が狭窄し,通常分娩が困難な状況にあるといえること,腹部や大腿部などに複数の醜状痕を残していること,その他本件にあらわれた諸般の事情を勘案すれば,本件事故による後遺障害によって原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は1200万円が相当である。」
このように、女性でありながら人工肛門を生涯にわたり装着しなければならないこと、通常分娩が困難となったことなど、かなり生活上大きな弊害が生じうることを理由にかなり高額な慰謝料が認められています。
また、東京地裁平成4年1月21日判決は、以下のとおり述べて、8級の後遺障害の慰謝料として1000万円を認めています。
「原告X1は、本件事故により生じた前示右目失明の後遺障害により、遠近感、視野等に影響をきたし、学校の体育授業において行われる球技が困難になるなど、その日常生活に支障をきたすことが多くなったこと、前示外斜視について、友人からも指摘されるなどしてひどく気にするようになり、原告X4ら両親に対してこれを直すための手術を懇願したため、平成三年七月二五日に昭和病院において手術を受けたが、右手術は一応成功したものの、手術時の激痛から本人としては二度と受けたくないとのものであったこと等の事実が認められ、これらに、右前側頭部の手術痕の存在、入通院経過、後遺障害の内容(右外斜視は一種の外貌の醜状と認められる。)、程度、将来における不利益の見込み、家族である他の原告らに与えた影響、将来への不安感等その他本件に現れた一切の事実を斟酌すれば、本件事故による原告X1の精神的苦痛を慰謝するための金額は、右金額と認めるのが相当である。」
このように、球技など日常生活に困難が生じたことが高額慰謝料の理由とされています。
ただし、この事例では、被害者が事故当時10歳であり、長い期間後遺障害に苦しむことを考慮したとも考えられます。
以上のとおり、適切な慰謝料額を認定させるには、後遺障害の生活への支障、被害者の年齢などを主張立証する必要があるということになります。
9 後遺障害等級9級の慰謝料
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(いわゆる赤本)上巻(基準編)2019によると、後遺障害9級の場合の慰謝料は690万円が目安とされています。
しかし、事情により、これを超える慰謝料が認められることもあります。
例えば、名古屋地裁平成18年12月13日判決は、「後遺障害等級9級相当であることその他本件にあらわれた諸事情を考慮すると,上記金額が相当である。」として750万円の慰謝料を認定しています。
ここで「諸事情」とは何を指すのかは不明です。
後遺障害自体については、以下のとおり認定されています。
「a 右股関節の可動域制限
右股関節脱臼骨折後の右股関節の可動域制限につき,右股関節の可動域制限画像上,術後の骨ゆ合は得られているものの,関節内変形が認められ,その可動域が健側の4分の3以下に制限されているから,第12級7号に該当する。
b 右膝関節の可動域制限
右下腿骨開放骨折後の右膝関節の可動域制限につき,画像上,拘縮と認められ,その可動域が健側の4分の3以下に制限されているから,第12級7号に該当する。
c 右足関節の可動域制限
右足関節両果骨折後の右足関節の可動域制限につき,画像上,右足関節変形ゆ合が認められ,その可動域が健側の4分の3以下に制限されているから,第12級7号に該当する。
d 上記aないしcにつき,併合の方法を準用して,後遺障害等級10級相当となる。なお,右股・膝・足関節の疼痛,右下腿のしびれ,知覚鈍麻については,上記等級に含まれると解する。
e 右足関節の変形
画像上,脛骨に20度以上の回旋した不正ゆ合が認められるから,長管骨に奇形を残すものとして,後遺障害等級12級8号に該当する。
f 右下肢の短縮障害
右股関節脱臼骨折後の右下肢の短縮傷害については,1センチメートル以上の短縮が認められるから,1下肢を1センチメートル以上短縮したものとして,後遺障害等級13級9号に該当する。
g 右下肢の醜状痕・植皮術後瘢痕
右大腿から足関節までの下肢の露出面に手のひらの大きさの3倍程度以上に達すると考えられるから,後遺障害等級12級相当である。
h 右背部及び臀部の線状痕
右背部及び臀部の全面積の4分の1以上の範囲に瘢痕を残すものには達しないので,後遺障害等級に該当するとはいえない。
i 上記dないしhにつき,併合9級とする。」
これらの障害の結果、かなり歩行が困難となったと認定されています。
また、事故態様について、加害者の主張に信用性がないとされているという面もあります。
これらの障害の程度、生活への影響、事故態様について信用性のない主張をしたことが慰謝料額に反映した可能性はあります。
このように、後遺障害についての慰謝料に関しては、適切に障害の影響などについて主張立証することが必要なのです。
10 後遺障害等級10級の慰謝料
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019(いわゆる赤本)は、後遺障害等級10級の場合の慰謝料の目安を550万円としています。
しかし、具体的事情に応じて、より高額な慰謝料が認められることもあります。
例えば、東京地裁平成18年12月25日判決は、以下のとおり述べて、800万円の慰謝料を認めています。
「後遺障害慰謝料については,前述のように,後遺障害による労働能力喪失率は40%と認められること,左肩関節の機能障害について,労働能力に影響を与えないものの,運動可能領域の制限が認められること,そして,眼の障害が日常生活に及ぼす様々な支障をも考慮して,800万円と認める。」
ここで眼の障害が日常生活に及ぼす様々な支障について同判決は以下のとおり述べています。
「原告は,現在,眼を正面に向けた場合,上方を見るときにはさほど支障はないが,下方を見るときには,たとえば,歩行時,車に乗る時,階段を下りる時等に,足元が二重に見えるといった,支障が生じており,階段を踏み外したこともあった。二重に見える状態が続くと,めまいを起こすことがある。パート外務員として,パソコンを操作する必要があるときは,上目遣いで操作しており,そのため,パソコンを使用したときは目に疲労感があり,道路の小さな段差を見逃すことがある。」
医師も、「両内下転制限あり,Hess上も両上斜筋マヒ。右よりも左の上斜筋マヒが強く,正面視でも回旋斜視がみられる。両眼視,単眼視とも正常な像が得られず」,「プリズム眼鏡による矯正を行っているが,読書時,歩行時いずれも困難あり」と診断している。また,同医師は,原告の症状について,「両眼の上斜筋麻痺のため中心及び下転時は両眼視が不可能であり,距離感,立体感がつかめない状況にあり,これは対象が静的な場合の検査の結果であるが,日常視すなわち動的対象物に対しては,より大きな不都合が生じていると推測できる。看護師というヒトに対する看護,処置を行う職業柄,このような両眼視機能異常が存在する状態は本人の負担が大きいのみならず,医療上のリスクも大きいと考えられる。比較的短時間の作業は別として,詳細な視力及び両眼視を要する業務は不可能と医学的に判断できる。」とも述べています。
ここで示されているような眼の障害の日常生活や職業生活への影響と、後遺障害等級認定まではされていない障害があることを考慮し、比較的高額の慰謝料が認定されています。
適正な慰謝料額を算定させるためには、後遺障害が及ぼす支障を具体的に説明することが重要であることがわかります。
11 後遺障害等級11級の慰謝料
交通事故で後遺障害等級11級の後遺障害が残った場合について、民事項通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻2019(いわゆる赤本)は、420万円を慰謝料の目安としています。
しかし、実際には、事情により、さらに高額の慰謝料が認められることもあります。
例えば、大阪地裁平成27年7月31日判決は、以下のとおり述べ、慰謝料600万円を認めています。
「原告の勃起障害の原因が医学的に説明されているとはいえず,したがって,医学的に性交渉が不能とまでは認められないものの,陰茎の疼痛により性交渉が事実上不可能であると認められることをも考慮すると,後遺障害慰謝料は600万円とするのが相当である。」
このように性交渉ができなくなった可能性があることを踏まえ、高額な慰謝料が認められたものです。
また、東京地裁平成16年3月23日判決は、以下のとおり述べて、590万円の慰謝料を認めています。
「原告の後遺障害の内容(等級表併合11級),残存する後遺障害の生涯にわたる症状負荷の可能性,眼瞼下垂などによりホステス業および女優としての活動が困難になったという事情,心理的なストレス,歯牙障害,事故後の被告側の対応を考慮すると,本件事故に起因して発生した原告の後遺障害による慰謝料としては590万円を認めるのが相当である。」
ここでは、加害者の対応とあわせ、被害者の職業生活が困難になったという事情が重視されています。
東京地裁平成13年8月7日判決は、以下のとおり述べて、慰謝料500万円を認めています。
「原告の後遺障害慰謝料については,基本的には後遺障害等級併合11級の基準慰謝料として390万円となるが,原告が未婚女性として,本件後遺障害により,多大な苦痛や困難を受けることを考慮すれば,約3割増額した原告主張どおりの500万円とするのが相当である。」
当該訴訟の被害者には醜状障害などの後遺症があり、それが未婚の女性にとっては重大な苦痛をもたらすとしているわけです。
以上のとおり、諸裁判例においては、被害者の属性との関係で、当該後遺障害がいかなる支障をもたらすかを検討した上で、慰謝料額を認定していることがわかります。
場合によっては、後遺障害の等級だけではなく、被害者にもたらす具体的影響についても主張立証する必要があるのです。
12 後遺障害等級12級の慰謝料
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)(いわゆる赤本)では、後遺障害等級12級の後遺障害の慰謝料について290万円を目安としています。
しかし、事情に応じてこれより高額な慰謝料が認められることもあります。
例えば、大阪地裁平成25年7月11日判決は、以下のとおり述べ、後遺障害慰謝料400万円を認めました。
「就労期間中における平均労働能力喪失率については14%と考えられるものの,これは永続性についての疑問を加味して平準化したものであり,痛みをはじめとした症状自体は相当に強いものであると認められ,就労への現実的な影響も無視できない。少なくとも精神的苦痛に関しては労働能力喪失率14%として考えられる平均的な事案(後遺障害12級相当)を大きく上回るものというべきであり,その他諸般の事情も考慮し,本件については特段の事情があるものとして,通常の後遺障害12級相当とされる事案の一般的な金額よりは大きく増額することが相当であり,この金額を相当とする。」
前提となる症状については判決に以下の記載があります。
「(ア) 後遺障害診断書
a 神経ブロック療法を施行するも症状改善なし
b 非常に強いアロディニアを伴う烈しい痛みあり
c 左肩関節は著しい可動域制限あり
d 左肩から上肢への温度低下あり」
その上で、同判決は、以下のとおり評価します。
「以上の諸事情を考慮すると,原告の症状については局所の神経症状にとどまらず,ある程度全身的な交感神経等の異常によって生じている可能性が高いところであり,臨床段階においてはCRPSの可能性が高いものとして治療方針が立てられるべき状態にあったとはいえるが,類型的にCRPSとされる患者が有する症状の一部を欠いており,医学的に大多数の医師がCRPSと判断するかは必ずしも明らかでないところである。そして,後遺障害として原告の症状を評価するとなると,その症状は強く影響は大きいと考えられる一方で,骨萎縮などの物理的な廃用性を伴っておらず,器質的な症状を前提とする上位等級の各障害と比較した場合,制限の程度や永続の蓋然性というところで,どうしても一定の差があるものと考えざるを得ないところである。そうすると,原告の後遺障害については,症状固定時における労働能力喪失率が12級13号事案より高く評価されうること,症状永続の蓋然性に疑問があり,就労年限時の労働能力喪失率が14%を大きく下回りうることの両方を織り込んだ上で,全体を平準化し,就労年限までの全期間について,平均14%の労働能力喪失が生じるものと認めるのが相当である。」
つまり、CRPSと断言はできないもののその可能性がある状態ということです。
このように、症状において激しい痛みがあり、かつ、CRPSの可能性もあるという点において通常の14級の後遺障害の事案とは異なるとされ、高い慰謝料が認定されたと考えられます。
症状を具体的に主張立証することの重要性が浮かび上がる判決かと思います。
13 後遺障害等級13級の場合の慰謝料
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻2019(いわゆる赤本)において、13級の場合の慰謝料は180万円が目安とされています。
しかし、実際には、個別の事情に応じて、より高額な慰謝料が認められる場合もあります。
例えば、札幌地裁平成13年11月21日判決は、以下のとおり述べて、慰謝料300万円を認めています。
「原告は,本件事故による後遺障害として,前記のとおりのものが残ったところ,甲第16号証及び原告本人尋問の結果によれば,原告は,約30年にわたって,能管(能の舞台等で演奏する横笛)及び小鼓を習い,演奏していたが,本件事故による後遺障害によって,能管の演奏が全くできなくなり,また,小鼓の演奏が長時間続けられなくなったことが認められ,この事実をも併せ考慮すると,これによる原告の精神的苦痛を慰謝するには,300万円をもってするのが相当と認める。」
また、横浜地裁川崎支部平成28年5月31日判決は、以下のとおり述べて、慰謝料230万円を認めています。
「原告が後遺障害等級13級に該当する左腎臓の機能喪失の後遺障害を負ったことに加え,上記1の認定事実のとおり,原告が平成24年3月27日までの通院後も体格が成人期に達するまでは定期的な検査・受診が必要とされ,現在も半年から1年に1回の頻度で通院していること,原告に腎機能低下による高血圧や,残存している左腎臓の外科的な晩期合併症(腎動脈瘤など)が出てくる場合は,その外来受診の頻度が増えたり,入院治療が必要になる可能性もあること,担当医師から原告が発熱した場合には腎機能に影響を与える病気である可能性があるので注意するよう指示され,通常であれば風邪が原因と思われる発熱であっても病院に通院して診療してもらわざるを得ない負担を強いられている状況にあること,原告が今後腎機能の全廃の危険性等の不安を抱えながら生活していくことを余儀なくされること等の本件で顕れた一切の事情を考慮すると,後遺症慰謝料として上記の額を認めるのが相当である。」
このように、長年の趣味に対する悪影響、今後の症状の悪化の危険性、通院の負担など事情が大きく影響していることがわかります。
後者については、事故当時3歳であり、後遺障害の影響が長年続くということも考慮された可能性があります。
慰謝料請求にあたってはこれらの事情についても適切に主張立証する必要があるのです。
14 後遺障害等級14級の場合の慰謝料
民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019(いわゆる赤本)は、14級の後遺障害等級の場合の慰謝料の目安を110万円としています。
後遺障害等級14級というと、他覚所見のない頚椎捻挫など、頻繁にみられる等級です。
慰謝料額については様々な事情に応じて増額することもあります。
例えば、神戸地裁平成8年7月11日判決は、以下のとおり述べ、300万円の慰謝料を認めています。
・指摘された初めて気づく程度の鼻のゆがみがある
・下肢部の瘢痕拘縮性ケロイドについては、自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級認定手続において、自動車損害賠償保障法施行令別表一四級五号(下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの)に該当する旨の診断を受けた。若い独身の女性である原告が、右各瘢痕に苦痛を感じ、日常生活においてもその影響が及んでいるのみならず、将来の恋愛・結婚等に対して少なからぬ不安を覚えていることが認められ、かつ、客観的に考えて、原告がこのような精神的苦痛を感じるのも当然のことであるというべきである。
このように、同判決は、若い女性において醜状障害を受けたこと、それが恋愛・結婚に与える影響について不安などを考慮し、高額の慰謝料を認めています。
このように、後遺障害の慰謝料については、その具体的影響により金額が左右されることがありえます。
15 近親者の後遺障害慰謝料
また、1、2級などの重度の後遺障害の場合、近親者にも慰謝料が認められることもあります。
近親者の慰謝料は、被害者本人との関係が近いほど、後遺障害等級が高いほど認められやすく、金額も高くなる傾向があります。
例えば、植物状態となった8歳の女児の母親について、横浜地裁平成12年1月21日判決は、老いるまで被害者の看護にあたらないといけないことなどを考慮し、800万円の慰謝料を認めました。
また、横浜地裁平成25年1月31日判決は、左鎖骨の変形障害などで11級の後遺障害が認められた事例について、妻に慰謝料100万円を認めています。
16 後遺障害等級がつかない場合の慰謝料
後遺障害等級はつかなかったものの、何らかの後遺障害が残るというケースもあります。
裁判所は、後遺障害等級が認められなくとも、その後遺障害の状況に応じた慰謝料を認めることがありますので、後遺障害等級がつかない場合でもあきらめる必要はありません。
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交通事故についての一般的な記事
後遺障害の慰謝料一般についての記事
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