公立福生病院での人工透析治療中止による患者死亡問題

さいとうゆたか弁護士

報道によると、公立福生病院において、医師において女性の患者に人工透析治療を止める選択肢を示し、中止を選んだ女性が1週間後に死亡した、その女性は死亡直前に中止を撤回したいとの発言をしていたということです。

これは積極的な医療行為により患者に死をもたらす積極的安楽死ではなく、必要な治療をしないことにより患者に死をもたらす消極的安楽死の事案と思われます。

このような消極的安楽死の事案で医師について殺人罪の成立を認めたものとして最高裁平成21年12月7日判決があります。

最高裁は以下のとおり述べます。

「上記の事実経過によれば,被害者が気管支ぜん息の重積発作を起こして入院した後,本件抜管時までに,同人の余命等を判断するために必要とされる脳波等の検査は実施されておらず,発症からいまだ2週間の時点でもあり,その回復可能性や余命について的確な判断を下せる状況にはなかったものと認められる。そして,被害者は,本件時,こん睡状態にあったものであるところ,本件気管内チューブの抜管は,被害者の回復をあきらめた家族からの要請に基づき行われたものであるが,その要請は上記の状況から認められるとおり被害者の病状等について適切な情報が伝えられた上でされたものではなく,上記抜管行為が被害者の推定的意思に基づくということもできない。以上によれば,上記抜管行為は,法律上許容される治療中止には当たらないというべきである。そうすると,本件における気管内チューブの抜管行為をミオブロックの投与行為と併せ殺人行為を構成するとした原判断は,正当である。」

 

ここでは、適切十分な情報提供を踏まえた意思により治療行為を中止していないことが問題視されています。

あくまで患者、あるいは親族の真意に基づく消極的安楽死であることが適法であるための要件なのです。

どのような場合であれば消極的安楽死が許されるかについては、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が参考になると思います。

同ガイドラインは以下のとおり定めます。

「(1)本人の意思の確認ができる場合
① 方針の決定は、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされることが必要である。そのうえで、本人と医療・ケアチームとの合意形成に向けた十分な話し合いを踏まえた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ケアチームとして方針の決定を行う。
② 時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて本人の意思が変化しうるものであることから、医療・ケアチームにより、適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることができるような支援が行われることが必要である。この際、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等も含めて話し合いが繰り返し行われることも必要である。
③ このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

福生病院の事件では、本人の意思がその都度伝えられる状況にあったかが問われることになるでしょう。

いずれにしても、本来は法律により安楽死の要件を具体化すべきだったのにしなかったことに根本的な原因があるようにも思います。

早急な法整備が必要かと考えます。

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