自筆証書遺言はどのような要件を満たすと有効になるのか?

さいとうゆたか弁護士

執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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目次

1 自筆証書遺言の作り方

2 自筆証書遺言の保管制度

3 ハガキの記載された自筆証書遺言

4 添え手による自筆証書遺言の効力

5 実際とは違う日付で作成された自筆証書遺言

6 自筆証書遺言と押印

7    遺言の効力の争い方

8   自筆証書遺言の撤回

9 新潟で遺言書、相続のご相談は弁護士齋藤裕へ

 

1 自筆証書遺言の作り方

自筆証書遺言の有効要件

自筆証書遺言は、手軽に作成できる遺言です。

法律所定の要件さえ満たせば自分で作成することができます。

しかし、全文を自筆で記載し、署名・押印し、日付を記載しないといけません。

自筆証書遺言の自書性についての裁判例

自筆証書遺言の自書性が争われた事件の判決としては、和歌山地裁令和6年6月21日判決があります。

同判決は、

・筆跡の類似性

・印鑑証明書の発行を遺言者が手配した翌日に押印がなされているため、自ら押印したと考えられること

・インクの色や言葉遣いが生前の遺言者の特徴と一致すること

・寄付という遺言の内容が、生前から寄付を多くしてきた遺言者の行動と合致すること

・遺言書の保管状況についての関係者の供述が信用できること

等から、自書性を認定しています。参照:自筆証書遺言の有効性を認めた和歌山地裁判決

また、和歌山地裁平成17年9月27日判決は、筆跡の違い、親族も認識できないくらい認知能力が落ちていたのに正確な遺言書を書いた等の事情から自書性を否定しています。参照:自筆証書遺言の自書性を否認した裁判例

相続法改正と自筆性の緩和

なお、相続法改正では、自筆証書遺言の方式が一部緩和されました(平成31年1月13日施行)。

すなわち、目録については手書きではなくてもよいこととされました。

条文(民法968条2項)としては、「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない」というものとなります。

ですから、例えば目録をワープロで作成したり、登記事項全部証明書や名寄帳などを自筆証書遺言に添付することが可能となります。

自筆証書遺言における日付の意味

日付については、「吉日」という記載では日付が特定されず、無効となります。参照:「吉日」と記載された遺言書についての判例

2 自筆証書遺言の保管制度

自筆証書遺言は法務局に保管してもらえます。

保管先の法務局は、遺言者の住所、本籍地、遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかの法務局です。

遺言者死亡後、相続人などは、法務局に対し、遺言書の内容を証明する遺言書情報証明書の交付を請求することができます。

法務局に保管された遺言について偽造・変造は困難となりますので、これで自筆証書遺言をめぐるトラブルは減少することが予想されます。

参照:自筆証書遺言の保管制度についての法務省のページ

3 ハガキに記載された自筆証書遺言

東京高裁令和1年7月11日判決は、ハガキに記載された自筆証書遺言の効力について判断をし、無効としました。
無効とした理由は、ハガキに記載されたことだけではなく、自筆証書遺言の表現でした。
裁判所は、まず、「遺言も意思表示を要素とする法律行為であり、かつ、相手方のない単独行為である以上、これを有効と認めるためには、民法所定の要件を具備していることはもとより、財産処分等の法律行為を行う旨の遺言者の確定的、最終的な意思が遺言書上に表示されていることが必要と解すべきである」とします。
遺言書には、確定的、最終的な意思が記載されないと遺言書としての効力はないというのです。
その上で、「マンションはYにやりたいと思っている」という遺言書の記載について、「その表現ぶりのほか、控訴人に対する私信中の記載であることに照らせば、本件マンションを控訴人に取得させたいという希望ないし意図の表明を超えるものではなく、少なくとも本件マンションを控訴人に遺贈するとの確定的、最終的な意思の表示であると断定するには合理的な疑いが残るところである」
裁判所は以上の判断を踏まえ、最終的な意思がハガキに記載されておらず、自筆証書遺言としては無効としました。
確かに、ハガキに記載されていること、文言からして、最終的確定的意思が記載されていないという判断はありえないとは思われず、あながち不当な判決ともいえないと考えられます。
確定的意思表示がないという理由での無効は公正証書遺言ではまずありえません。
遺言書をめぐるトラブルをできるだけ防止するためには弁護士に相談した上で公正証書遺言を作成すべきでしょう。

4 添え手による自筆証書遺言の効力

1 自筆証書遺言の効力要件

自筆証書遺言は、遺言者が自らの手で遺言書を記載する方式の遺言書です。

民法第九百六十八条は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と定めています。

よって、遺言者以外の者が書いた遺言書は自筆証書遺言としては無効です。

2 添え手による自筆証書遺言の効力

ここで問題となるのは、自分だけでは遺言書を書く能力のない人を他の人が添え手で助けて遺言書を書いた場合、有効な自筆証書遺言として認められるかどうかです。

この点、最高裁昭和62年10月8日判決は、添え手による自筆証書遺言について原則的に無効としつつ、以下のとおり例外的に有効となる要件を示しています。参照:添え手による遺言書についての判例

「病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、(1)遺言者が証書作成時に自書能力を有し、(2)他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、(3)添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である。」

つまり、添え手が書き始めの筆の位置を適切な箇所に持っていくためなど、添え手をした人の介入がごく少ない場合にのみ添え手による自筆証書遺言の効力は認められるとしました。

そして、添え手による自筆証書遺言の効力が問題となった東京地裁平成30年9月26日判決は、上記最高裁判決を踏まえつつ、「亡Aは,手の震えがあるため,補助者が添え手をしてその手の震えを抑えなければ,文字を書くことができない状態であったといえ,このことは,被告Y1自身も,亡Aの手を補助しなければ,手の震えが出て,その震えにより判読できる文字を作成することができない状態であった旨供述(被告Y1本人)していることからすれば,被告Y1の亡Aの筆記における添え手による補助の態様は,手の甲を抑えて,亡Aの自発的な震えを常に抑制させ,その運筆をさせることによって判読できる文字を記載させていたという態様であったといえるのであるから,上記(1)で述べたような,添え手による補助が始筆時や改行時の位置の誘導や,遺言者の手の動きが自由な状態で支えを借りただけであったとはいえないし,その筆跡のみから,補助者である被告Y1の意思が介入した形跡がないということもできない。」としました。
つまり、添え手がないと手の震えがでて判読できる字を書くことができないという状況においては、「添え手による補助が始筆時や改行時の位置の誘導や,遺言者の手の動きが自由な状態で支えを借りただけであったとはいえない」として、上記最高裁判決の基準に照らし、自筆証書遺言の効力を否定したのです。

このように添え手による自筆証書遺言の効力は基本的には認められがたいことになります。
自分だけで字を書くことができない人は、公正証書遺言により遺言をすることが適切でしょう。

5 実際とは違う日付で作成された自筆証書遺言

 自筆証書遺言の有効要件

自筆証書遺言は、日付を自書することが有効要件です。
ここで、日付について、実際の日付と違う日が記載されていた場合、自筆証書遺言の効力がどうなるのか、問題となります。

自筆証書遺言記載の日付が実際とは違う場合の取扱い

最高裁昭和52年4月19日判決は、「民法九六八条によれば、自筆証書によつて遺言をするには、遺言者がその全文、日附及び指名を自書し印をおさなければならず、右の日附の記載は遺言の成立の時期を明確にするために必要とされるのであるから、真実遺言が成立した日の日附を記載しなければならないことはいうまでもない。」として、自筆証書遺言に記載される日付は実際の日付でなければならないとしました。

ただし、同判決は、「遺言者が遺言書のうち日附以外の部分を記載し署名して印をおし、その八日後に当日の日附を記載して遺言書を完成させることは、法の禁ずるところではなく、前記法条の立法趣旨に照らすと、右遺言書は、特段の事情のない限り、右日附が記載された日に成立した遺言として適式なものと解するのが、相当である。」として、日付以外の部分を記載した遺言書を作成した場合、後に日付を入れた日が遺言書作成日になる、そして記載された日付が実際に日付の記載をした日付(つまり自筆証書遺言を完成させた日)であれば自筆証書遺言の効力に問題はないとしました。

同最高裁判決からすると、自筆証書遺言に記載すべき事項をすべて記載し終わった日が自筆証書遺言作成日であり、自筆証書遺言にはその日付を記載すべきということになります。

しかし、最高裁令和3年1月18日判決は、
・平成27年4月13日に遺言の全文、4月13日の日付、氏名を自書
・平成27年5月10日に押印
したというケース、つまり自筆証書遺言の作成日が平成27年5月10日と思われるケースで、4月13日の日付が記載されていても自筆証書遺言は無効とはならないとしました。参照:日付違いの遺言書を有効とした判例

これら二つの最高裁判決からは、自筆証書遺言に、その全文等主要部分を記載した日付、あるいは自筆証書遺言を完成させた日付のいずれかを記載すれば無効とはならないということが明らかとなります。

いずれにせよ、自筆証書遺言は、このような記載要件をめぐるトラブルに発展しやすい類型の遺言ではあります。

遺言はできれば公正証書遺言、あるいは弁護士が作成に関与する自筆証書遺言とすべきでしょう。

6 自筆証書遺言と押印

自筆証書遺言の要件としての押印

民法は以下のとおり定めます。

第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

ここに押印とは指印も含みます(最高裁平成1年6月20日判決)。参照:指印による遺言書を有効とした判例

よって、自筆証書遺言が有効であるためには、遺言者自身が押印をすることが必要です。

そして、最高裁昭和39年5月12日判決は、以下のとおり、印影が本人の印鑑により押印された場合、本人が押印したことが推認されるとしています。

文書中の印影が本人または代理人の印章によつて顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定するのが相当であり、右推定がなされる結果、当該文書は、民訴三二六条にいう「本人又ハ其ノ代理人ノ(中略)捺印アルトキ」の要件を充たし、その全体が真正に成立したものと推定されることとなるのである。

しかし、あくまでもこれは推認ですから、本人の印鑑による印影であっても、本人が押印したものではないと認定される場合もあります。

以下、どのような場合に本人が押印したものではないと認定されてきたか、裁判例を見てみます。

自筆証書遺言の印影を遺言者が顕出しなかったと判断された事例

東京地裁令和2年12月17日判決は、以下の事情があるとして、遺言者自身による押印がないとして、自筆証書遺言の効力を否定しました。

ⅰ 印鑑を遺言者の配偶者(遺言書上、全遺産を相続することになっている)が保管していたこと

ⅱ 遺言者が、第三者から押印しないようにアドバイスを受けていたこと(その時点で押印はされていない)、その日から3週間で遺言者が死亡したこと

ⅲ 遺言者が当該遺言書を保管していなかったこと

ⅳ 遺言者が死亡約1週間前に、当該遺言より前に作成された遺言が有効であることを前提とした発言をしていること

ⅴ 配偶者は、当該遺言書の前に作成された遺言書では相続人から廃除されることになっており、当該遺言書に押印する動機があること

このように、印鑑や遺言書の保管状況や遺言者以外が押印をする動機等から、自筆証書遺言の印影が遺言者によるものではないと認定されることもあります。

東京地裁令和2年9月23日判決は、以下のとおり述べ、自筆証書遺言という重要書類であるにも関わらず、三文判で押印していることから、遺言者が押印したものかどうか疑わしいとしています。

・遺言者は,遺言者の家以外の第三者も関わるような重要な契約書については実印又は銀行印のような印章を用い,子に対する貸付けのように,遺言者の家内部のことに関する書面については三文判のような印章を用いていたことがうかがえる。そして,遺言書は,原稿用紙に全文毛筆で記載するという体裁が取られていたこと,家の次期当主を定め,その者に全財産を相続させるというその内容であることなどからすれば,仮にこれを実際に遺言者が自書したのであれば,遺言者の相続人に向けられたものという意味では遺言者の家内部の文書であったとしても,遺言者においては自筆証書遺言としてその要式性が重要であることを十分に認識していたと考えられ,遺言者が,これについて,三文判のような印章を用いて押捺するというのは不自然と言わざるを得ない。
このように自筆証書遺言においては、遺言者が押印したこと自体が争われ、遺言書の効力が否定されることもあります。

ですから、高額な遺産があるような場合には、公正証書遺言が望ましいと言えます。

封筒の押印等と自筆証書遺言の効力

東京高裁平成18年10月25日判決は、封筒に押印等されている場合、それと一体となる遺言書に押印等がなくとも遺言書としての効力を認める余地があるとの判断を示しています(当該事案では一体として作成されていないとして遺言書の効力を否定しました)。参照:封筒に押印等がある場合の遺言書の効力についての裁判例

複数枚の遺言書のうち1枚にしか押印等がない場合の自筆証書遺言の効力

さいたま地裁平成17年6月7日判決は、編綴されていない4枚の遺言書のうち、1枚にしか押印等がないケースで、

・遺言書が表面に「遺言の事」と記載された本件封筒に収められ,4枚とも同じ便箋に記載され,かつ同じ青色ペンで同一人によって書かれたものであること,

・封筒に封がされていたこと、

・記載内容が連続していること

から押印等の要件を満たすと判断しました。参照:遺言書のうち1枚にのみ押印がある場合に効力を認めた裁判例
 

目録に署名押印がなくとも自筆証書遺言自体の効力はあるとした裁判例

自筆証書遺言に別紙目録をつける場合、民法968条2項により、目録1枚毎に署名押印をしなければなりません。

しかし、札幌地裁令和3年9月24日判決は、「自筆証書遺言において,自筆証書に添付された財産目録の毎葉に署名押印がなく,当該目録自体は無効となる場合であっても,当該目録が付随的・付加的意味をもつにとどまり,その部分を除外しても遺言の趣旨が十分に理解され得るときには,当該自筆証書遺言の全体が無効となるものではないというべきである。 」として、自筆証書遺言自体が無効となるものではないとしました。参照:目録に押印がなくとも遺言は有効とした裁判例

7 遺言の効力の争い方

遺言無効の主張をしたい場合、まずは家裁に調停を申し立てます。

これは家事事件手続法244条で、まず調停を起こすこととされているからです。

家裁の調停でも解決しない場合、遺言無効確認訴訟を起こすことになります。

裁判所は、遺言に記載された財産の価額等に応じて、地方裁判所か簡易裁判所に提訴することになります。

裁判所は、相手方の住所地か、被相続人の亡くなった時点での住居所地の裁判所に起こすことになります。

裁判では、遺言能力に関わるカルテ、当時の被相続人の言動を知る人の陳述書・証言、遺言内容が従来の言動と整合するかどうかを示す証拠等を提出することになるでしょう。

被相続人の近くにいた人、担当医師等、関係者の証言が必要となる場合もありえます。

偽造等が問題となる場合には筆跡鑑定を行う場合もあります。その際には、被相続人が書いたことが明らかな文書と遺言書と筆跡を対照することになります。しかし、筆跡鑑定の信用性についてはかなり限定的に考えられていることに注意が必要です。

8 自筆証書遺言の撤回

自筆証書遺言は遺言の方式により全部または一部を撤回できます(民法1022条)。

しかし、実際には撤回があったと言えるのか、争いになることもありえます。

広島地裁平成25年11月28日判決は、「焼捨て,切断,一部の切捨てなど遺言書自体の有形的破棄の場合のほか,遺言書を抹消して,内容を識別できない程度にする行為も破棄に当たるが,元の文
字を判読できる程度の抹消であれば,破棄ではなく,変更ないし訂正として一定の形式を備えない限り,元の文字が効力をもつことになると解される。」として、遺言書に斜線を引いた場合に遺言の撤回には該当しないとしています。参照:遺言の撤回を認めなかった裁判例

前の遺言書と後の遺言書が抵触する場合には遺言の撤回とみなされます(民法1023条)。

神戸地裁平成15年10月17日判決は、全遺産をAにあげるという遺言書の後で、〇円をBとCにあげるという遺言が書かれた場合、BとCに〇円をあげる部分について遺言は抵触し、前の遺言は撤回され、残りの遺産についてのみAにあげることになるとしました。参照:遺言の抵触についての裁判例

9 新潟で遺言書、相続のご相談は弁護士齋藤裕へ

自筆証書遺言における遺言能力については、認知症と自筆証書遺言の効力の記事を参照してください。

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