
鳥取地方裁判所平成31年3月22日判決は、漁船の転覆事故という労災事件について、安全配慮義務違反を認め、乗組員の使用者に損害賠償責任を認めています。
海難事故における安全配慮義務違反のあり方について参考となる裁判例と思われるので、ご紹介します。
1 海難事故と海上保安庁への連絡義務
判決は、船長としては、自力航行不能となった場合において海上保安庁に救助を要請すべきであったのに、しなかったとして、安全配慮義務違反を認めました。
判決は、その前提として、「船長は、自船に急迫した危険があるときは、乗組員を含む人命の救助に必要な手段を尽くすべき任務を有する以上、自船に急迫した危険がある状況にあって、人命の救助に必要な手段を尽くさなかったと認められる場合には、当該人命との関係で、船長に求められる業務上必要な注意を怠ったものと認めざるを得ない」との判断を示しています。
また、判決は、船長としては、「取り得る選択肢が複数ある場合には、そのいずれをとるかは同船長の裁量の範囲内にゆだねられるべきであり、後方視的にみて、最良であったかどうかを問うことは許されない」とも述べています。
結論として、同判決は、海上保安庁への連絡は「容易かつ可能な手段」であった、「主機停止時点ないしその後まもなく、海上保安庁に通報し、その救助又は援助を要請していたとすれば、その状況に応じて、アグスタによる吊り上げ救助、巡視船の指示に基づく錨泊ないしその指示・援助を受けながらのえい航など、人命救助に向けた相当な手段がとられたものと認めることができる」として安全配慮義務違反を認めています。
2 錨泊
判決は、投錨に特段の支障がなかったこと、錨泊をさせることが十分期待できる状況にあったとして、錨泊をさせなかったことについて安全配慮義務違反を認めています。
3 救命胴衣の着用
判決は、船に急迫した危険があったこと、救命胴衣の着用が落水した場合の生存可能性を高めることから、船長は乗組員に救命胴衣を着用させるべき義務を負っていたとしました。
それにも関わらずこれを怠ったとして安全配慮義務違反を認めています。
その上で、この義務違反の結果、乗組員の死亡という結果が生じたと認定しました。
危険と隣り合わせの漁などの場面において船長には高度な安全配慮義務が認められます。
その具体的内容を明らかにしたものとして、同判決は参考価値があるものと思われます。
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