いじめ、パワハラによるうつ病り患と労災

さいとうゆたか弁護士

1 いじめ、パワハラによるうつ病罹患と労災

いじめやパワハラで心理的負荷が高いと評価される場合、うつ病のり患などが労災として認定される可能性があります。

しかし、実際には、労基署は、長時間労働によるうつ病などは比較的認める傾向にありますが(それでも不十分です)、いじめやパワハラによるうつ病等については中々労災認定をしない傾向にあります。

よって、いじめやパワハラによるうつ病について労災を認めてもらうためには裁判を起こす必要がある場合が結構あります。

実際、裁判で労災が認められることもあります。

2 パワハラで労災を認定した事例

例えば、京都地裁平成27年12月18日判決は、以下の事情を踏まえ、いじめを認定し、うつ病り患について労災に該当するとしました。

・部下が、被災労働者に対し、引継ぎの際、被災労働者が習得をしておらず、しかし業務に必要なエクセルの仕方をきちんと教えようとしなかった

・「原告が部下から業務引継ぎを受ける際には,部下から,「字を他の人にも読めるように書いてください。ペン習字でも習ってもらわないといけない。」,「時間かかりすぎです。この表の作成に1日もかかりませんよ。」,「エクセルのお勉強してください。分からなかったら娘さんにでも教えてもらってください。」,「日本語分かってはりますか。」などという辛辣な発言を繰り返された。

当該事案では、部下から上司に対するいじめという特殊性があるところですが、辛らつな批判があったこと等を理由に労災との認定がされています。

 

大阪高裁平成29年9月29日判決は、加害者の以下のような事情をあげ、高速道路における巡回等を業とする会社におけいじめを原因とする自殺について、業務起因性を認めています。

・加害者は,4月ないし5月頃,被災労働者に対し,複数回,被災労働者のしていた空手を否定し,ばかにする発言をした
・加害者は,4月中旬頃ないし5月中旬頃,被災労働者に対し,複数回,「道場へ来い。」と言って,空手道場に誘った

被災労働者は,自らの伝統空手の組手と極真空手の組手の違いを熟知しており,極真空手を習得し,かつ,職場における自らの上司に当たる加害者と,極真空手の組手を行うことに

なった場合,「ボコボコにされる。」と感じていた

・加害者は,巡回に出発する間際,被災労働者が加害者に相談することなく個人目標を班長に提出したことに立腹し,「それやったら,俺と仕事の話は一切せんでええ。」と被災労働者を怒鳴りつけ,さらに,被災労働者が歩いているのを見て,被災労働者に対し,「歩き方が気に入らない。」,「道場へ来い。道場やったら殴りやすいから。」と大声で言った

・加害者は,巡回時,被災者に対し,「何もするな。」と怒鳴りつけ,被災者に同巡回の際に何も仕事をさせなかった

・加害者は,巡回後,事務所において,巡回終了後にすべき書類整理を始めていた被災者の様子を認め,激怒し,「何もするな言うたやろ。殺すぞ。」と大声で怒鳴りつけた

・加害者は,巡回の際,「パーキングエリアでの不審車対応」及び「落下物の処理」の関係で,被災労働者に対し,厳しい注意指導をした。また,加害者は,巡回後,被災労働者に対し,巡回中に起こった出来事について,文書にまとめるように指示し,被災労働者に文書を作成させたところ,被災労働者から作成した文書の提出を受けた際,周りに他の隊員らがいる前で,被災労働者に対し,「小学生の文書みたいやな。」と大声で言った
・被災労働者は、上記の各言動の都度、不安感等を抱いていることを示す言動をしていた

 

業務起因性が認められるかどうかは、

・パワハラ・いじめとして被災労働者の人格を侵害するような言動がなされたかどうか、その内容の程度

・継続性

・被災労働者が当時どのような反応を示していたか

等により判断されることになります。

 

3 パワハラで損害賠償を認めた事例

仙台地裁例話2年7月1日判決・仙台高裁令和3年2月10日判決

仙台地裁令和2年7月1日判決は、公立高校の教員が、先輩教員から度重なる注意を受け、その結果うつ状態となり自殺したケースについて、自治体の賠償責任を認めています。

同判決は、

・従来から先輩教員が被災教員にホームルームのあり方等について注意をしていた

・ある日、先輩教員において30分以上執拗に被災教員に注意をした

・そこで追い込まれていた被災教員は自殺未遂をし、また、心療内科を受診し、うつ状態と診断された

・校長らは、被災教員から、先輩教員からの注意で教師として生きていく自身をなくしたこと、心療内科でうつ状態と診断されたことを知らされながら、先輩教員に対しこれ以上の注意をしないよう自制を求めなかった

・その後、先輩教員が被災教員に注意をし、被災教員は自殺をした

という事案で、学校側の義務違反を求め、自治体に賠償を命じました。

控訴審である仙台高裁令和3年2月10日判決は、やはり自治体の賠償責任を認めましたが、さらに以下のとおり認定して、注意をした教員の行為自体不法行為となるとしています。

「そうすると、加害教諭が、自己が約1か月前に行った「注意」によって自ら心療内科を受診しようとするほどに精神状態を悪化させていた被災労働者に対し、再び同様の「注意」を行なえばその精神状態を更に悪化させて自殺等の重大な自傷行為等に及ぶ危険性を生じさせることが予見可能であったにもかかわらず、平成27年7月27日に再び被災労働者に対して行った「注意」に関しては、不法行為法上の過失があったと認めることが相当であり、不法行為責任が成立するというべきである」

高知地裁令和2年2月28日判決・高松高裁令和2年12月24日判決

高知地裁令和2年2月28日判決は、会社役員が被災労働者に対し、ⅰ その有給取得について強く苦情を述べたこと(10~20分程度)、ⅱ その2日後に役員らと従業員らの会合が持たれ、そこで役員が被災労働者に対し「肩書にあった仕事ができていない」などと感情的で激しく言ったことを心理的負荷の程度「中」とし、長時間労働とあわせ役員らの安全配慮義務違反を認めました。

裁判所は、ⅰについては、役員の勘違いに基づく苦情であったこと、苦情により被災労働者が許可を得ていた休暇を返上せざるをえなかったこと、役員は役員より被災労働者の方が優遇されているという発言をしていたなどの事情があり指導の範疇を超えていたこと、役員が会社の後継者であったこと、ⅱについては、本来休暇中であったのに有給休暇を撤回させた上で被災労働者を呼び出していること、被災労働者において対応できない項目についての業務改善要求があったこと、感情的で激しい口調で行われたこと、事実確認もしないまま他の従業員からの苦情を伝えるなどしたことなどの事情を踏まえ、心理的負荷を「中」としたものです。

同判決は、高松高裁令和2年12月24日判決でも維持されています。

 

このように、パワハラが原因で自殺等の事態に陥った場合、使用者がパワハラを行っている者に適切な対処をしなかったような場合、賠償責任が生ずることもありえます(民間であれば加害者自身の賠償責任もありえます)。

福岡地裁令和4年3月1日判決は、会社の会長から社長に対し、経営会議等の場で、「馬鹿、無能、サラリーマン根性丸出し、会社の経営を考えない、会社の金を横領した者より始末が悪い、と繰り返し発言し、「呪い殺してやる」などと発言したこと」は不法後遺に該当するとしました(うつ病罹患との因果関係は認めませんでした)。

このように、役員に対する発言も、それが優越的立場にある者からされた場合、不法行為として損害賠償の対象となりえます。

4 新潟で労災のお悩みは弁護士齋藤裕へ

病院の事務職員の過労死についての記事
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