腰痛と労働災害(労災)

交通事故

1 腰痛と労災

腰痛は比較的多く見られる労災です。

東京地裁平成25年1月16日判決は、労基署において腰痛を労災と認めなかったところ、腰痛を労災として認定しました。

いかなる場合に腰痛が労災として認められるかを考えるうえで参考になると思われるので、ご紹介します。

まず、判決は、腰痛が労災に該当するかどうかは、行政通達上の認定基準をもとに検討すべきものとします。

認定基準は以下のとおりです。

 

ア 腰痛認定基準
災害性によらない腰痛は,次の(ア)及び(イ)に類別することができる。
(ア) 腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間(概ね3か月から数年以内をいう。)従事する労働者に発症した腰痛(以下「短期間の腰痛要件」という。)
ここに腰部に負担のかかる業務とは,次のような業務をいう。
a 概ね20kg以上の重量物及び軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務
b 腰部にとって極めて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務
c 長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない同一作業姿勢を持続して行う業務
d 腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務
(イ) 重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(概ね10年以上をいう。)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛(以下「相当長期間の腰痛要件」という。)

 

その上で、判決は、以下のとおり述べ、被災者の腰痛が腰痛認定基準を満たすとします。

原告は,20kg程度までの重量のタップをチェーンブロックによる補助なしに使用していたところ,上肢の力だけではなく,腰部を含む全身の力でもってタップを持ち上げることはいうまでもなく,この点で,タップ作業を行う原告に対しては,腰部に対する関係では,少なくともタップを持ち上げる重量分の負荷がかかるということができる。また,タップ作業者がタップの柄の先端側寄りの部分を把持することができない関係上,タップ自体の重量よりも重い負荷がかかることは前記3(1)のとおりであるし,前記1(2)ウ(エ)のとおり,原告は,中腰に近い前傾姿勢という不自然な体勢でタップ作業を行っていたものである。
このようにみると,原告のタップ作業は,比較的短期間の腰痛要件aの「概ね20kg以上の重量物及び軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務」に当たるというべきである(同要件では,重量について概ね20kg以上とされているが,これについては過度に形式的に考えることは相当ではなく,原告が5年間もの期間タップ作業等に従事し,腰部に負荷をかけ続けてきたことからすれば,同要件に該当するとみても支障はない。)。
また,原告は,前記1(2)に認定したとおり,把持しているタップの上に直接2.0トンのボードハンマーを落下させて,腰部を含む体全体に強い衝撃すなわち粗大な振動を受けることを繰り返したのであるから,原告のタップ作業は,短期間の腰痛要件dの「腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務」にも当たるものというべきである。

このように、中腰状態で繰り返しタップ作業を行っていたこと、2トンのボードハンマーを落下させて作業をしており腰部に強い衝撃を受けていたことを根拠に、腰痛認定基準を満たすものとし、被災者の腰痛を労災として認定しました。

また、名古屋地裁令和3年11月24日判決は、以下のとおり、労働者が不自然な姿勢での作業を余儀なくされたとして腰痛の業務起因性を認めました。

すなわち、同判決は、「原告が本件業務において本件クレーンに乗車し,右肘が約90度に曲がった状態で,低い位置に調整した操作レバーに手をかけて上半身をまっすぐに伸ばし,アクセルペダルを踏んだときの作業姿勢は,右臀部が運転シート座面から浮き上がり,右膝の角度は約90度となり,右足かかとを起点に右足の先端が外側に向く状態となること」等から、「極めて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務」又は「長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない同一作業姿勢を持続して行う業務」に該当するとして、腰痛の業務起因性を認めています。

腰痛を発症するような業務は多種多様ですが、労災申請にあたっては上記のとおり腰痛認定基準を意識した主張立証が重要となります。

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