病気で意識不明の人が起こした交通事故と法的責任

さいとうゆたか弁護士

心疾患や脳疾患等により、意識不明となることがあります。

自動車運転中に意識不明となり、交通事故を起こすこともあります。

そのような場合の法的責任はどうなるのか、以下、見ていきます。

1 運転中の意識不明による交通事故と民事責任

民法713条は、「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。」と定めます。

この点、何らかの疾患により意識消失状態に陥る危険性を予見し、かつ、回避可能な場合、それでもあえて自動車を運転し、意識消失となり、その結果交通事故を引き起こした場合には、意識消失中の交通事故についても損害賠償責任が発生することになります。

例えば、高齢・喫煙・飲酒等の心室細動のリスク要因はあったものの、脳梗塞や心疾患を発症することを予見させるような検査結果等がなかったような場合には、予見可能性がなく、意識不明下の事故について賠償責任は生じないことになります(名古屋高裁令和4年5月27日判決)。

他方、

・糖尿病の患者が、インシュリンを自己注射し、運動をして、低血糖を招きやすい状況で糖分補給もしないまま自動車の運転をして、低血糖により意識障害に陥ったケース(東京地裁平成25年3月7日判決)。

・交通事故前2年3か月前に脳出血による意識消失の発作を起こして入院し、退院した際にも主治医から今後も意識消失を伴う発作が起きる可能性があると説明されていたこと、事故の1か月半前に脳出血による意識消失の発作を起こして再び入院したこと、この退院時にも医師から大学病院での受診を勧められ事故の2日後に脳神経内科の診察を受ける予定であったこと、事故直前に漢字が読めなくなっていたことという事情があったケース(仙台高裁令和4年2月22日判決)

について賠償責任を認めています。

意識障害をもたらす疾患に罹患しており、かつ、事故直前に発症しやすい状況や症状があったような場合には、責任が認められがちです。

2 運転中の意識不明による交通事故と刑事責任

糖尿病にり患していた人が起こした交通事故に関する札幌地裁平成26年2月28日判決は、以下のとおり述べて、危険運転致死傷罪の成立を認めています。

「被告人は,平成25年7月19日午前10時20分頃,普通乗用自動車を運転し,札幌市中央区内の駐車場から発進進行しようとしたが,かねてから糖尿病にり患していて,前兆なく低血糖症状により意識障害に陥って,救急搬送されたことや交通事故を発生させたこともあり,前兆なく低血糖症状により意識障害に陥るおそれがあることを認識していた。
このような場合,自動車の運転者としては,自動車の運転を差し控えるべき自動車運転上の注意義務があるのに,被告人はこれを怠り,意識障害が起こらないものと軽信して運転を開始した。
このような過失ある行為により,被告人は,その頃,同所付近において低血糖症状による意識障害に陥り,低下した意識状態のまま自車を進行させ,同日午前10時58分頃,同区内の道路において時速約10キロメートルで進行中,進路前方の自転車走行指導帯で信号待ちのため停止中の被害者(当時60歳)運転の自転車後部に自車前部を衝突させ,同人を同自転車もろとも路上に転倒させた上自車でれき過して車底部に巻き込み,よって,同人に外傷性ショックの傷害を負わせ,同日午後1時9分頃,同区内の病院において,同人を上記傷害により死亡させた。」

病気による危険性を認識していた上で自動車の運転を開始した以上、その後不適切な運転操作が病気のため不可避だったとしても、運転を開始したことについて過失が認められますので、過失運転致死罪などが成立しうることになります。

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