
執筆 新潟県弁護士会 弁護士齋藤裕(2019年度新潟県弁護士会会長、2023年度日弁連副会長)

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1 仕事中の交通事故について使用者が労働者に損害賠償請求できる限度
労働者が仕事中に交通事故を起こし、会社が使用者責任として被害者に賠償した場合、会社は必ずしもその損害の全額についてその労働者に請求できるわけではなく、一部しか請求できないことがあるというのはこれまでの判例、裁判例で承認されてきたところです。
例えば、最高裁昭和49年7月30日判決は、以下のとおり述べて、追突事故による損害について、使用者は一定の範囲でのみ労働者に支払いを請求できることを明らかにしました。参照:交通事故に関する使用者から労働者への支払い請求について限度があることを認めた裁判例
「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」
その上で、同判決は、
ⅰ 当該会社が経費節減のため、車両につき対人賠償責任保険にのみ加人し、対物賠償責任保険及び車両保険には加入していなかつたこと
ⅱ 当該労働者は、事故を起こしたタンクローリーには特命により臨時的に乗務するにすぎなかったこと
ⅲ 当該労働者は、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突したものであること
ⅳ 当該労働者の勤務成績は普通以上であつた
ことを考慮して、会社は損害の4分の1についてのみ労働者に請求できるとしたものです。
普段から事故を多発させていた労働者について労働者に請求できる割合は大きくなるでしょうし、軽微な過失の場合には割合は小さくなるでしょう。
2 仕事中の交通事故について、労働者が先に被害者に損害賠償をした場合に、労働者は使用者にその分の請求をなしうるか?(逆求償)
しかし、労働者が仕事中の交通事故で被害者に損害賠償をした場合、その分を会社に請求できるかどうかについては判例がありませんでした。
この度、最高裁第二小法廷令和2年2月28日判決が、労働者が仕事中の交通事故で損害賠償をした場合、その分を会社に請求できるとの判断を示しました。
今後参考にされるであろう重要判例なので、ご紹介します。
同判決は以下のとおり述べています。
「民法715条1項が規定する使用者責任は、使用者が被用者の活動によって利益を上げる関係にあることや、自己の業務範囲を拡張して第三者に損害を生じさせる危険を増大させていることに着目し、損害の公平な分担という見地から、その事業の執行について被用者が第三者に加えた損害を使用者に負担させることとしたものである。このような使用者責任の趣旨からすれば、使用者は、その事業の執行により損害を被った第三者に対する関係において損害賠償義務を負うのみならず、被用者との関係においても、損害の全部又は一部について負担すべき場合があると解すべきである」
「また、使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができると解すべきところ・・・上記の場合と被用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でない」
「以上によれば、被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、上記諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができるものと解すべきである」
このように、労働者が仕事中に交通事故を起こし、被害者に損害賠償をした場合、「その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」において会社に請求することができるということになります。
今後実際にはどの程度の割合で請求できることになるのか、裁判例が集積され明らかになることが期待されます。
3 業務委託先の労働者は交通事故による損害をどの程度負担すべきか?
業務委託元と業務委託先の労働者は直接雇用関係にはありません。
それでは、業務委託先の労働者が、業務委託元の自動車を運転し、事故を起こした場合の損害について、業務委託先の労働者はどの程度の負担をすべきでしょうか?
東京高裁令和6年5月22日判決は、委託先の労働者が、委託元から具体的な指示を直接受け、かつ、委託元の車両などを使用していたというケースにおいて、委託先の労働者が委託元からの指示を受けて自動車を運転中に起こした事故について、直接の雇用関係がある場合と同様に、委託元は委託先に対し、信義則上相当と認められる限度においてのみ損害賠償請求できるとしました。
その上で、当該事案について、委託元の規模、車両保有台数、自動車保険が不十分なものであったこと、委託先の労働者の賃金が安かったこと、事故態様は比較的単純な自損事故であり酒気帯び等がなかったことを踏まえ、委託元は委託先の労働者に損害額の10%のみについて賠償請求をなしうるとしました。
この判決の事案では、委託元と委託先の労働者間には、労働契約と類似する関係があったと言えます。
それにも関わらず、委託という法形式があったというだけで、委託元が委託先に全額の損害賠償請求できることになると、使用者・労働者間の場合と著しく均衡を欠くことになります。
ですから、判決の結論は妥当だと思われます。
なお、委託元と委託先労働者との間に労働契約と類似の関係がない場合、委託元は委託先の労働者に100%の損害賠償を請求できる可能性があります。
その場合、労働者において、自らの雇用主である委託先に求償権行使をなしうるかどうかが問題となるでしょう。
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