
報道によると、新型コロナウイルスに感染した愛知県蒲郡市の男性が、自身が感染者であることを知りつつ、飲食店に行き、従業員を感染させたとのことです。
蒲郡市の事件の実際のところは不明ですが、自らが感染者であることを知りつつ、感染の危険性ある行為をし、人を感染させた場合、傷害罪が成立する可能性があります。
例えば、前橋地方裁判所昭和24年12月15日判決は、以下のとおり述べ、淋病患者が、自身が感染の事実を知っているのに、人と性行為を行い、人に感染させたことは傷害罪となるとしています。
「被告人はY1’と称して桐生市(以下略)A銀行前路上及び同市(以下略)B方二階で易占を業としているものであつて、急性りん菌性尿道炎にかかつているものでこれは自覚症であるのに、昭和二十四年七月十八日、同月二十三日、八月十四日、同月二十七日、九月七日、同月十四日の六回にわたり右B方二階へ易を占なつて貰いに来たC(昭和四年○月○○日生)に対して、あなたは処女性を失つている、小学校当時陰部をいたづらしたことがあるのなら将来立派な処女として結婚できるように自分がよけをしてあげる、と云つて同女の外陰部に被告人の陰茎を押し当て、このために同女をして淋菌性子宮内膜炎の疾病を生ぜさせたものである」
この結論は、最高裁昭和27年6月6日判決でも維持されています。
同判決は以下のとおり述べています。
「傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損するものである以上、その手段が何であるかを問はないのであり、本件のごとく暴行によらずに病毒を他人に感染させる場合にも成立するのである。従つて、これと見解を異にする論旨は採用できない」
「性病を感染させる懸念あることを認識して本件所為に及び他人に病毒を感染させた以上、当然傷害罪は成立するのであるから論旨は理由なき見解というべく、憲法違反の問題も成立する余地がない。」
よって、新型コロナウイルスに感染していることを知りつつ、人に感染させるような行為をし、結果として人が感染すれば傷害罪となる可能性があります。
ただし、蒲郡の事件については、その男性がどこまでを感染させる行為と認識していたか、感染した飲食店従業員が他で感染していないことの立証が十分なされるかどうかがポイントとなるでしょう。特に、後者については、PCR検査が少数しかなされていない現時点において、市中感染の可能性が否定しきれるのか疑問がなくはなく、低くないハードルと思われます。丁寧な捜査が期待されます。