新型コロナについて激甚災害指定はできないのか?

本日のNHKニュースなどで、弁護士有志が新型コロナウイルスによる被害について激甚災害指定をすべきとの意見を述べているとの報道がなされました。
津久井進弁護士によると、激甚災害指定されると、失業給付の特例により従業員に直接失業給付を支給することができるとのことです。
雇用調整助成金を利用するかどうかが事業者の判断任せになっており、そのため従業員が緊急事態宣言下において休業手当を受給できないことが懸念される状況において、極めて魅力的な見解だと思います。
問題は、失業給付の根拠となる法律である災害対策基本法の「災害」に感染症が含まれるかどうかです。

この点、令和2年3月5日、衆議院総務委員会において、以下のやりとりがなされています。

〇井上(一)委員 この新型インフルエンザ等対策特別措置法、これはいろいろな方々から言われていますけれども、なぜこの法律が使えないのか、簡潔に御説明いただきたいと思います。
〇村手政府参考人 お答え申し上げます。
 災害対策基本法におきましては、対象となる災害について、資料にもございますけれども、異常な自然現象により生ずる被害に加えまして、大規模な火事又は爆発による被害を具体的に規定してございます。その上で、さらに、これらの具体的に規定された原因事象により生ずる被害に類する程度の被害をもたらす原因事象を政令で定めることとし、その原因事象により生ずる被害を対象災害に加えるという仕組みになってございます。政令で規定する範囲については法律的に制約があるものと考えてございます。
 また、感染症の分野につきましては、感染症予防法や新型インフルエンザ等対策特別措置法などによって別途法体系が整備されてございます。
 こうしたことから、政令改正によって新型コロナウイルスを災対法の対象災害の原因事象に加えることには困難があるのではないかと考えてございます。
 以上でございます。

 「異常な自然現象により生ずる被害に加えまして、大規模な火事又は爆発による被害を具体的に規定してございます。その上で、さらに、これらの具体的に規定された原因事象により生ずる被害に類する程度の被害をもたらす原因事象を政令で定めることとし、その原因事象により生ずる被害を対象災害に加えるという仕組みになってございます。政令で規定する範囲については法律的に制約があるものと考えてございます。」とされている点については、法律で列挙している事象に類似した事象のみを政令で対象としうるという趣旨かと思います。
 この点、災害対策基本法施行令第一条をみると、「災害対策基本法(以下「法」という。)第二条第一号の政令で定める原因は、放射性物質の大量の放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没その他の大規模な事故とする。」とされています。例えば、船舶の沈没はさまざまな原因で発生します。人為的な場合も、自然災害的なものもあるでしょう。クジラにぶつかって沈没するという生物由来の場合もあるでしょうし、船員が感染症に罹患し沈没する場合もあるでしょう。ここでは事象の原因は全く問われていません。被害の大きさにのみ着目されているように見えます。このように、すでに施行令において、原因の有無を問わず被害の大きさに着目して事象が規定されている状況において、感染症だけ除外しなければならない合理性はないと考えます。
 また、「感染症の分野につきましては、感染症予防法や新型インフルエンザ等対策特別措置法などによって別途法体系が整備されてございます。」という点については、防災行政研究会編集「逐条解説災害対策基本法第二次改定版」28ページにおいて、「(災害対策基本法の)制定に当たっては、従来の法律は原則として存置し、災害対策基本法により、従来の法律で不足している部分を補填し、かつ、これら法律を有機的に関連づけ調整した。したがって、災害対策基本法は、他の災害関係法律に対しては一般法の性格を有するものといえる」としているところであり、インフルエンザ等対策特別措置法を特別法、災害対策基本法を一般法として位置付ければ足りると考えられます。
 このように、激甚災害指定をして、失業給付をすることは十分法的には可能だと考えます。
 政府には迅速な意思決定を期待したいと思います。
 

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