県境をまたいだ移動を止めるため感染症予防法の改正を

さいとうゆたか弁護士

1 越境による感染拡大の懸念

新型コロナウイルスは現在、岩手県を除く全国の都道府県で感染者が見つかっている。

そうはいっても、東京都など人口比で感染者の多いところと鳥取県のように少ないところと、かなり感染状況に差があり、感染をこれ以上悪化させないためには都道府県をまたいだ人の移動が喫緊の課題となる。

そのため、東北地方の諸県と新潟県は県境をまたいだ移動をしないよう自粛を呼び掛けているし、山形県や岡山県は県境での検温を実施した。

しかし、これらは法的な根拠に基づかないお願いベースのものでしかなく、実効性は十分ではない。

岡山県では脅迫により検温中止に追い込まれている。

都道府県をまたいだ人の移動に歯止めをかけるため、緊急事態宣言の継続が議論されており、それ自体は首肯できるところである。

しかし、それとは別途、都道府県をまたいだ人の移動を実効的に止める手段の整備が求められる。

2 感染症予防法の改正を

そこで感染症予防法33条の改正が緊急になされなくてはならない。

感染症予防33条は「都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、七十二時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。」と定めている。

つまり、感染症の蔓延防止のために交通遮断を認めるものだ。

しかし、どう考えても新型コロナウイルス感染症には適用ができない。

法律において、「場所」という用語は、建物などの比較的限定された範囲を指すものとして使われており、都道府県という広い範囲を指す場合には使われない。

よって、33条を県境をまたいだ封鎖に使うことはできない。

仮に使うことができたとしても、72時間以内の封鎖では意味をなされない。

よって、33条について、「当該感染症の患者がいる地域」等の表現に改正し、かつ、交通制限等をなしうる期間を1ケ月程度まで延長すべきである。

もちろん、移動の自由という重要な人権にかかわる規定を大幅に強化するものであるから、人権に対する配慮は欠かせない。

交通制限等については、専門家等から構成される審議会の承認を要件とすること、審議経過については記録を作成・保存すること、必要やむを得ない移動について許容されることを明記すること、不服申し立て手続きを整備することは必須である。

3 最後に

せっかく各地自治体が努力し、感染者を減らしても、県外から移動してきた者により感染者が再び増加するということが繰り返されている。

新型コロナウイルスを早期に抑え込むためには、ある程度人権を抑制することになるとしても、都道府県間移動を抑え込む方策の議論は避けて通れない。

与野党において勇気を持って取り組んでいただきたい。

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