公訴時効廃止後殺人事件が4件解決したことについて

さいとうゆたか弁護士

1 公訴時効廃止後、殺人事件が4件解決したとの報道

報道によると、時効廃止後、殺人事件が4件解決したとのことです。

殺人などの犯罪の時効撤廃は2010年4月になされました。

その結果、殺人事件が4件解決したことは、ご遺族の無念を多少でも晴らすということで良い側面があったのは事実でしょう。

しかし、時効制度には時効制度の存在意義もあります。

以下、今回の報道についてどう評価すべきか考えてみます。

2 時効制度の存在理由

時効制度の存在理由について、大塚仁著「刑法概説(総論) 改訂増補版」524ページは以下のとおり述べます。

ⅰ ドイツ普通法時代の学説では、犯人の改善が推測されることを根拠とした。

ⅱ 19世紀のフランスの刑法学では、時の経過とともに立証が困難になることが協調された。

ⅲ 長期間にわたる逃避のために、犯人自身がすでに十分な呵責を受けていることを理由とする見解もある。

ⅳ 大塚教授自身は、「犯罪に対する社会的な規範感情が、時間的経過とともに次第に緩和され、必ずしも現実的な処罰を要求しないまでになるという点に求められるべきであろう。その他の理由は、副次的に考え得るのみである」と説明

ⅰについては、刑法の目的を応報にも求める立場からは、あまり強調すべきではないということになるでしょう。

ⅱについては、DNA鑑定などが高度化され、かつ、供述から物証という流れの中にある現代においては、根拠とはなりがたいと言えるでしょう。特に、今回、時効廃止後、4件の殺人事件が解決したというのは、この論拠を強く否定する材料になると思います。

ⅲは逃亡しているかどうかは人によるでしょうから、根拠としては弱いと思います。

ⅳがおそらくもっとも中核的な時効制度の根拠というべきものでしょう。この点については、万引きなどであればともかく、殺人などについては、遺族や周囲にとっては一生処罰感情は激減しないことが多いでしょうから、殺人等重大犯罪については必ずしも十分な理由とはならないと思われます。

以上からすると、今回の報道も踏まえ、少なくとも殺人事件等重大犯罪について時効を撤廃したことについては合理性を裏付ける結果になったと考えます。

ただし、ⅱの観点がかなり弱くなったとはいえ、昔の事件を無理に立証しようとすることによる冤罪の危険も否定はできないと思います。DNA資料などの適切な採取・保存などについても継続的な取り組みが重要だと考えます。

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