
1 三重県でアウティング禁止条例制定へ
報道によると、三重県が、LGBTなど性的少数者への差別を禁止する条例を制定する方針であり、その中でアウティング禁止が盛り込まれるとのことです。
ここでアウティングとは、性的指向や性自認を本人の了解なく第三者に暴露することを言います。
これまで一橋大学アウティング訴訟などでもアウティングは争われてきましたが、以下、アウティングについて法的に検討してみます。
2 公権力からアウティングされない法的利益
憲法13条は幸福追求権権を保障しています。
その一環として、個人は、「一定の個人的事柄について、公権力から干渉されることなく、自ら決定することができる権利」を有しているとされます(佐藤幸治「日本国憲法論」188ページ)。
性的指向や性自認が個人の幸福に密接にかかわるものであることからして、性的指向や性自認を自ら決定することができる権利もやはり憲法13条で保障されると思われます。
そして、性的指向や性自認について自らの意向に反して外部に漏洩されるようであれば、現実の社会状況の中では自らの望む性的指向や性自認を保ち続けることは困難です。
そこで、個人が性的指向や性自認に関する情報を開示する範囲を決める権利が認められるべきと思われます。
これは、自己情報コントロール権と呼ばれ、最高裁等においても実質的には承認されている権利の一部と言えるでしょう。
この権利の核心は、公権力等から性的指向や性自認を開示させられない権利ということになります。
ですから、公権力がアウティングすることは通常違法ということになると思います。
3 私人からアウティングされない権利
ところで、現実には、性的指向や性自認を開示されることによる不利益は、私人間における日々の生活において顕著です。
ですから、憲法13条が私人間に直接適用されないとしても、性的指向や性自認を開示されない利益は、対私人の関係においても認められるべきものと考えられます。
そうでなければ、個人が自らの性的指向や性自認を大事にするという権利は守られないからです。
そうはいっても私人間の関係においては、自由にコミュニケートする利益も認められ、私人が他人の性的指向や性自認を了解なく話したからただちに違法というのは行き過ぎという考え方もありえます。
現実には、この2つの利益のはざまで、どこでバランスをとるか、裁判所や社会において考えている最中というところかと思います。
三重県が条例を作る際には、アウティングが自殺にまで至ることがあることを踏まえつつ、上記のバランスへの配慮が求められるでしょう。
例えば、公務員にはアウティングを禁止しつつ、民間の学校や会社等については、アウティングをしないよう学生や社員に指導する義務を負わせるというレベルであれば、両方の利益のバランスからはありうるところでしょうし、問題の解消に向けた貴重な一歩となるでしょう。
ファーストペンギンならではの困難はあるでしょうが、三重県には是非着実な一歩を進めていただきたいと思います。
もご参照ください。
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